第13話
有栖院本邸へと戻る車中、烏間と零美は尊との会談を検証していた。
「ウソはないと見ましたが…」
「ええ、ウソはないでしょうけど…裏はあるでしょうね。」
二人の見解は一致していた。おそらく尊はまだ隠しているという見解で。
「おそらくは…軍内の二条院派閥を使って何かしようとしているのでは?」
「粛清でしょうかね?それとも二条院を取り込むとか、かしら?」
「なるほど…どちらかですな。」
「ええ、あとは…何でしょうね…」
「そこは考えなければなりませんな…他には…斉宮殿の方は…」
「中々に懸案が多いですね…まあ、そちらは亨さんと燦さんへの警告にしましょう。斉宮家の人間がいる可能性があるので、くれぐれも全力を出さないように、と。」
「そうですな…通達いたしますか?」
「ええ、烏間さん、お願い。あと、追加で燦さんの護衛を亨さんに要請しておいてください。付きっきりじゃなくていいわ。」
「承知いたしました。」
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それから数日が経ち、学校再開の日になった。有川邸は数日ぶりの静かな朝を迎えた。五月蠅さを生み出していた結奈は昨日のうちに烏間が回収され、有栖院家の本邸に連れ戻された。
何故うるさいかと言うと対戦ゲームを朝早くからしようと亨の耳元で叫ぶわけで…。亨が起きた後、一緒にゲームをやるものの、結奈のゲームセンスは壊滅的であり、そして負けるたびに再戦をせがむわけである。烏間談では、有栖院家の上位魔術師の中で最もギャンブルをやらせてはいけない人間であるとのこと。
静かな朝であるはずなのにもかかわらず、亨は早くに目を覚ました。テロ事件の前に起きていた時刻よりも1時間ほど早い。決して、結奈の早朝のアラームに条件付けされたわけではない。
「…さてと。」
顔を洗い、ジャージに着替えた亨は自宅の地下に向かう。リビングの扉の近くにある隠し扉を押し開け、最下層が真っ暗で見えない階段を下る。最初の踊り場にある扉を開けると、そこにはトレーニングの機材が豊富なスペースがあった。
「久々だけど…まずはランニングだな。」
ランニングマシーンに乗り、軽めのジョグをする。その際、体の無駄な力が抜けるように、体を振とうさせる。15分ほどのジョグを終えた亨は今度はさらにほぐすようにストレッチをする。そして、筋トレを行い、最後にフィットネスバイクで高負荷と低負荷を交互にかけるインターバルトレーニングで約1時間のトレーニングを終える。
「さて、シャワー浴びて、朝ご飯食べてでるか…。今日から登校ルート変更しないといけないんだよな…」
数日前の零美からの命令を想起しつつ、階段を上がったのであった。
テロ前と比べると、亨の登校時刻も微妙に早くなった。これは回り道をしなければならないことに関係している。来栖邸に回り道をしなければならないのだ。もちろん一緒に登校するわけでなく、来栖邸の前を亨が通り過ぎ、10秒ほど遅れて燦が登校を開始するというわけである。
初日の登校となる今日、亨は打ち合わせ通り、少量の魔力弾を来栖邸に放った。すると、亨が放った魔力弾にこたえるように1階の窓が青く光る。ただ光を発生させるだけの魔術で、この護衛方法となった時に決めておいた合図である。青い光はそのまま進め、赤い光はまだ準備中のため少し先で待機、黄色は少し遅れるがそのまま進め、である。この場合は、青い光なのでそのまま通学路を学校の方へと進んでいった。
結論から言えば、学校再開後の初登校日では全く異常はなかった。さらに言えば、そこらの魔術師にはわからないが、燦の周りには来栖家配下の魔術師達が固めており、そう簡単には突破できない警備の布陣を敷いていたため、不測の事態に陥っても亨が出る幕はなかったと思われるほどである。
学校についた亨は今まで通り5組の教室に入ろうとしたが、
「おい、亨…何してんだよ?」
という声に足を止めざるを得なかった。
「雄二か…なにって、見ての通り教室に入ろうかと。」
「いや、お前4組だぜ?俺たちと同じで。」
「…え?」
亨は記憶を思い返す。一週間前、確かに5組の席に座っていたはずだ。突然のことで困惑する亨。そんな亨に雄二の横から首を出した鼓が説明する。
「あの事件で亡くなった生徒の分を詰める形にしたそうです。私たち4人はアジトで戦果を挙げたということで1クラス昇級しました。」
「なるほど…鼓たちが昇級した理由はよくわかったのだが、俺はなぜ?」
「さぁ…というより聞いていないんですか?」
「ああ、聞いていないな…何でだ…?」
ふと亨の胸に渦巻く疑念は、教頭となった倉崎茜の一存、という可能性である。まず、講堂での産形との戦闘、あれは自身の異能で記憶に残らないようにしたため、その功ではないはずだ。ならば、父親である尊の指示で倉崎が細工をした可能性が高いと踏んだのだ。実の父親でありながら亨は尊のことを信用していないし、自分を排除しようとして有栖院家と決別したことも知っている。だからこそ、なにがしかの狙いのために昇級させた、と睨んだのだが…
「お、やっと見つけた。有川、おはよう。」
5組の担任である落合が言葉をかけながらやってくる。亨は
「…落合先生、おはようございます。」
と普通に返答する。返答ににこりと返した落合は、クラス替えのことだが、と前置きをする。
「俺が推薦した。何せ俺が突然の乱入に、処理を手間取っていた時、脳震盪を起こして敵を倒して5組を救ったわけだ。だから、推薦させてもらったよ。」
「…あ、ありがとうございます。」
正直、読みが外れて、虚を突かれたというのが亨の率直な感想であった。
「なんだ、有川…不満なのか?」
「い、いえ、昇級はうれしいのですが、そんな不確かな事実ではないことで、昇級というのは…」
「おい…」
言い繕う亨の言葉を、教師らしからぬドスの利いた声が遮る。気の弱い生徒なら萎縮してしまうだろう。現に鼓は雄二の後ろへ隠れているし、雄二も少し緊張感をあらわにする。
「何でしょうか…?」
「やっぱりな…そういうところだよ。1週間前から聞きたいと思っていたんだが…有川、お前ナニモンだ?」
「…仰っている意味がよくわからないのですが…有川亨です。」
「いや、テロの時、1組の来栖が殺気を放った瞬間、教員でも固まった。だが、たった二人、四宮とお前だけ、すぐに動ける状態だった。しかも、お前は完全に受け流していた…。普通の生徒なら、あんな殺気当てられれば、今の内田のようになる。」
「…」
目線で内田を差しつつ、言い切る落合と無言で対応する亨。無言を貫こうとしていた亨だが口を開く。
「よく見てますね。」
「これでも一応教師のはしくれだからな。」
亨は落合の言葉にふぅー、と長い息を吐くとおもむろに落合に近づき、落合にしか聞こえない声で言う。
「…だとしても、俺のことは詮索しない方がいいですよ。一応ご忠告申し上げておきます。」
亨のこの言葉に、一気に白けた感じになる落合。
「ああ、そうかい…。何となく理解したよ。忠告通りにしとこう。」
そう言い残すと、落合は興味を失ったかのように背を向けてHRのために5組に向かうのであった。
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