第7話

父親である光流が警備並びに会食に出た後、来栖家の一人娘、燦は警備の側近を連れ、親友である在原夏樹の家へと向かっていた。もちろん父親である光流には許可を得ている。


「久しぶりに私は夏樹さんに会えます。楽しみです!」


興奮気味なのは、燦がプライベートで警備を任せている水沢なずな。興奮しすぎて警備に支障が出る可能性もあるにはあるが燦は全く注意をしない。なぜなら、この程度で支障が出るほど来栖家の魔術師の質は低くないのだ。


「そういえば、夏樹さんの家に行くのは…数か月ぶりでしたか。正月の新年会の時以来、でしたね。」

「はい。そうなんです。」

「フフ、お二人はとても仲がいいですから…私も嫉妬してしまうくらいに。」

「そんなつもりじゃ…」

「あ、怒ってないわよ?仲良くしてあげて、夏樹と。じゃないと孤独で一人抱え込んじゃうから…この前もちょっと大変だったしね…」


燦の言葉になずなはほっと胸をなでおろした。いつの時代も上司の機嫌を損ねると大変であるのは変わらない。パワハラの規制が一般化し、ある程度折り合いがついた今も少しは上司に気を使うものなのだ。それが同年代であっても。

しかし、なずなは長年の付き合いから違和感を覚える。相手が気にしていない、ではなく正確にはそれ以外のことに対して燦は気にしているように感じた。だが、正確に感じ取ることは不可能であったため無難な返事をする。


「はい。承知しました。」

「よろしくね。やっぱり私と夏樹では少し立場が違うから…無邪気な頃に戻りたいものね…」

「…」


悲しそうにうつむく燦。生来の美しさと夕日の光が神秘的に見せる。しかし、なずなは燦の姿が親友のために何もできない自分を責めているように見えてしまい、かける言葉がでなかった。なずなは先ほどの違和感を心の片隅に置いたのであった。




在原邸では、在原樹生の主導のもと豪勢なもてなしが用意されていた。


「いやぁ、久しぶりだね燦ちゃん。なずなちゃんも元気そうで何より。さ、夏樹たちが待ってるから、早く上がって。」


リビングへそのまま通される燦となずな。リビング中央にある食卓には在原家の4兄妹と年齢を感じさせない母親・在原季世がいた。


「あら、いらっしゃい。燦ちゃん、なずなちゃん。久しぶりね。腕によりをかけて一杯料理をつくったわ。さあ、席について。」

「ありがとうございます。ご相伴に預からせていただきます。」

「ありがとうございます。」

「いいのよ~、さ、座って。」


勧められるがままに席に着く二人。他には夏樹を含め、4人の在原家の子供たちが座っていた。


「夏樹、久しぶり~、元気してた?」


なずなが明るく挨拶をする。


「ええ、久しぶりね、なずな。見ての通り、元気よ。」


にこりと笑い返す夏樹。しかし、なずなは夏樹が無理をしていることを感じ取っていた。


「大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫よ。」


そのまま、話を続ける二人。その横では、


「久しぶりだな、燦さん。」

「ええ、お久しぶりです、冬樹兄さん。」

「燦姉、久しぶり~」

「燦お姉さん、久しぶりです。」

「秋世ちゃんも冬樹君も久しぶりね。勉強ちゃんとしてる~?」

「「うん」」


夏樹以外の兄妹が燦と挨拶をし、雑談に花を咲かせていた。夏樹の家族たちの配慮だろうか、誰もなずなには挨拶をせず、夏樹との会話に水を差さなかった。見方によっては冷たい家族なのかもしれないが、燦には愛情なんだろうと感じたのであった。

食事中も自然と3つのグループに分かれて歓談する形になっていた。もちろん、燦と三人兄弟、在原家の両親たち、そしてなずなと夏樹である。

そうして、食事も終わりに差し掛かったころ、なずなと話したからだろうか、覚悟を決めた表情をした夏樹が燦に話し掛ける。


「…燦。お父さんに話したいんだけど…その時に一緒にいてくれる…かな?」


首をかしげつつ燦をうかがう夏樹。国立魔術院の単純な男子学生ならお金を積んででも見たいと思うだろう。しかし、そんなことを思う不埒なものは幸いにしてここにはいない。燦は、夏樹の覚悟を感じ取ったのかにこりと笑って頷いた。


「もちろん、いいですよ、夏樹さん。」

「…ありがとう。」


感謝の言葉を口にした夏樹は父の樹生の方に顔を向ける。


「ん?どうした夏樹?」

「お父さん…この後話があるんだけど…いい?」

「ああ、まあ、いいが。燦ちゃんたちは…」

「燦姉、泊まっていくでしょ?あとで、光の魔術を見せてもらいたいの~」

「…いや、秋世…さすがにそれは…光流にも悪いしな、またの機会にというこ…」

「え~、燦姉、帰っちゃうの?そんなぁ、お父さん嫌い!」

「…うっ」


悲しき父親の性か、次女の秋世の嫌い攻撃に胸を打ち抜かれる樹生。すかさず春樹が助け舟を出す。


「光流のおじさんがいいと言えばいいのでは?なずなちゃん、連絡してみてもらえる?」

「連絡も何も、こちらに来るとお伝えした際、『遅くなったら泊ってもいい』と許しを得ております。」

「だそうだよ、父さん」

「…わかった。」


この期に及んでやっと外堀が埋まっていたことに気づく樹生。了承の返事に隠れてピースサインを夏樹に送る秋世。一連の顛末を見た母の季世は自然と会話に入る。


「あらあら、まあ、いいわ。客間を使ってちょうだいね。」

「ありがとうございます。季世おb…‼」

「んぁ?」

「…季世姉さん。」

「いい子だね、燦ちゃんは。じゃ、ゆっくりしてね。」

「…はい。」


会話の流れにはスッと気にせず入った季世でも歳を気にしているようである。現に殺気に慣れているはずの燦ですら、季世が放つ殺気に怯えるほどである、こういえばどのくらい年齢を気にしているのかが分かるだろう。


「ごちそうさまでした。季世お姉さん。客間で荷物を確認してきます。」

「お粗末様でした。行ってらっしゃい。」

「はい、なずな、いったん客間に行こうか。」


退散することしか燦にはできなかった。


それから二十分後…

客間に控えめなノックが響く。


「はい、どうぞ。」


燦が応じると夏樹が顔を出した。燦がすかさず親友に尋ねる。


「もう行くんですか?」

「うん、いろいろとひと段落したから。妹たちが早くいってきなって、後片付けを変わってくれたし…」

「わかりました。行きましょう。」


燦は読んでいた魔術の本をベッドの上に置き、立ち上がる。夏樹は燦を連れ立って二階の樹生の書斎へ行くと控えめにノックをする。


「夏樹です。」

「お、早かったな。開いてるからどうぞ~」

「失礼します。」

「私も失礼させていただきますね。」


夏樹に追従する燦。燦を見た樹生は眉を少し上げるものの一瞬でそれを元に戻す。


「燦ちゃんも一緒か。まあ、いい。座りなさい。」


革製のソファに座るよう誘導される。一同が座ったのを確認した樹生は穏やかに切り出す。


「それで…話って何だい?」





* * *


最近、動きがない話で申し訳ありません。

まだ、しばらくこういう感じが続きます…

あと数話ほどお付き合いください。

作者の自己満足作品で申し訳ありません。


藤友優

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