プロローグ2:2年前への回想
いつも私は思い出します。
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「久しぶりの海外ですね、お父様。」
「…仕事だがな。」
「ええ、分かっております。夏樹さんも久しぶりですね。」
「久しぶりだね、
「燦ちゃん、見ないうちに大きくなったな。」
「おじ様もお久しぶりです。」
「…夏樹、お前も燦を見習ってそれ相応の落ち着きを持ちなさい。」
「…いいでしょ、私の勝手。」
「…全く、反抗期かな?」
「まあまあ、子どもらしいじゃないか、
「そう言ってもらえると助かる、
お父様とおじ様は年齢が同じということで、夏樹と私のようにとても仲が良いです。
さて、私たちは今、ハワイにいます。昔は合衆国の1つの州でしたが、北アメリカおよび北部南アメリカ連合へと移行途中の動乱の際に、独立を勝ち取った国です。国となった後もリゾート地として有名であり、世界最大のカジノ街もあります。そして、この国は世界に3つしかない、珍しい国の1つです。3つとは、日本、ハワイ、シンガポールで、これらの国は旧合衆国を主体とする世界魔術師連合、中華連合を主体とする世界魔術師協会に所属していない国です。所属せずに済む理由としては、日本だと圧倒的な科学力と魔術師の技量で、シンガポールは世界最大規模の商業都市国家となり、世界中の交易の中心都市としての価値を売ることで、そしてハワイはカジノでの莫大な利益を使用した、世界最高水準の傭兵などを大量に雇うことで侵食されることを防いでいるらしいです。
そんなことを考えていると、
「光流様、在原様、車の手配が完了しました。ホテルへご案内いたします。」
話し掛けてくる老紳士。この人はうちの家で雇っている執事の大竹さん。もともとは来栖家の実働部隊の一人だったけれど、家族ができたため前線を退き、執事となったそうで、もう30年ほど経つらしく、お爺様の代から仕えているとのこと。弟か私が家を継ぐ頃もいらっしゃるかしら…
「大竹さん、ありがとう。」
そう言ってみんな手配された車に乗り込みます。大竹さんは助手席に乗る。運転席にはお父様の護衛を務められている小倉さん。ホテルへ向かう道中に小倉さんが尋ねました。
「光流様、本日の予定は?」
「とりあえず、ホテルにチェックインだな。その後は…情報収集がてらぶらつくつもりだ。」
「承知いたしました。」
そして、ホテルへ到着し、お父様がチェックインの手続きをします。ハワイ内でも最高級のリゾートホテルの1つで、目の前に綺麗なビーチが広がっています。少し遊びたいですね…
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お部屋でしばらく休んでいたら、夕飯の時間になりました。お父様と夏樹、そして在原のおじ様の4人でディナーを食べます。全員マナーは叩き込まれているので、恥をかく必要はありません。デザートが運ばれてきた時、私たち4人の空気が変わりました。
「敵、でしょうか?」
「…情報収集したが、不穏な空気はなかったが。」
「…この感じは、テロリストに見せかけた非合法的工作だな。」
「大竹、小倉、いるか?」
「「はい」」
「相手は何者だ?」
「在原様のおっしゃる通り、非合法部隊です。魔術の構築の癖と性質より、恐らくは協会側の魔術師かと…。現在我々の魔術師は交戦を避けつつ、こちらへ向かうように指示したところです。」
「ご苦労様、大竹。」
「…賢明な判断だな。これじゃ、任務どころではないね。」
肩をすくめるおじ様。それに頷くお父様。
「まあ、至急案件ではないからね。」
「ああ、それに光流が嫌いな彼もいるから、大丈夫だろう。」
「…あいつか。というよりいたのか?」
「一応、入国しているらしい。正規の手段で。」
「まあ、そうか。今回の任務は親連合派の議員の筆頭格を暗殺することだが…、協会側の人間だとすればそいつを暗殺する気かな?」
「可能性は高いだろうね。」
そんな話をして、数十分が経ちました。味方の魔術師も全員集合して、私たちの周りを固めています。
「…マズイね、樹生。どうやら、惨状があったこのホテルごと無くすつもりらしい。」
「そうだな、時限発動型の爆裂魔術を仕掛けてやがる。これは、全員で逃げた方が良いかな。」
「そうしたいのは山々なんだけど…この部屋、隠蔽されてるけど封印魔術にかけられていないかな?」
「魔術師がいることがバレたかな…と思いたかったんだけど…。大竹さん、この魔術を解け!」
在原のおじ様が一瞬で大竹さんとの距離を詰める。魔術は使っていないけど、速い!ただ、大竹さんも歴戦の猛者です。焦らずに対応します。
「おかしいですね、主人である光流様にも気付かれずにしていたのですが…」
「大竹、俺は気付いてたぞ…」
「…そんなはずは。」
「いや、気付くよ、その程度。ただ、最後はこちらに戻るだろうと思ったんだが…残念だ。」
お父様はとても残念そうです。歯ぎしりをする大竹さん。少しずつおじ様に追い詰められた大竹さんは、私たちの方へ高速移動してきます。そのとっさの行動に
「動かないでくださいよ、光流様、在原様。愛しい娘さんたちの脳漿をぶちまけますよ?」
「…チッ!」
「何がお望みなんだ?」
「日本の魔術力の弱体化ですよ。」
「…対価は?」
「そんなこと言うと思いますか?」
「500万米ドル、だよね。」
この部屋にいる人たちの声でない声が、大竹さんの背後からしました。
「なぜ、それを…それに私の結界は完璧だぞ…。いかなる手段を用いても入れないはず…」
「まあ、確かに。入れない、が真理だよ。」
「ならば、無理ですよね。特にあなたのような不良品魔術師には。何をしたんですか、あなたは?」
「言う必要はないでしょ。君死ぬんだから。」
「聞いていなかったようですね、あなたがたが動けば脳漿がぶちまけられますよ、と言ったはずです。」
「なぜ?」
「銃を撃つからですよ。当たり前でし…」
「確かに銃を撃てば脳漿がぶちまけられる真理だね。銃は引き鉄を引けば銃弾が出る真理だ。そして、次の弾は不発弾でないというのも真理だね。」
「そう言うことだ、自称・凡庸な魔術師さんよ。てことで…」
「動かなければいいんだろ?君が生きている、それも真理のようだ。なら、君は死ぬ。」
「は?何を…」
『バタリ』
糸が切れたように倒れる大竹。配下の魔術師たちが一斉に向かってきます。
「大丈夫か、燦。夏樹ちゃんも。」
「夏樹、無事か…。君が来てくれて助かったよ。亨くん。」
「お久しぶりですね、来栖さん、在原さん。」
「フン、まあいい。とりあえずここから出るぞ。」
お父様は少し不機嫌そうです。しかし、おじ様に亨と呼ばれた男の子は気にせずに
「ええ、全員近くに来てもらっても?あと…こうでいいかな?」
そう言うと私たちの傷に手を翳します。すると、スッと治ってしまいました。
「あ、ありがとうございます。」
「ありがとう。」
「いえ、別についでですので。さてと全員集まりましたか?」
よく見ると、亨くんの目は左眼は紅く、右眼は蒼くなっています。
「ここに皆さんがいるという真理がある。逃げる場所は、僕が使っている隠れ家でいいですか?」
「頼むよ、亨くん。それより、まだ慣れていないんだね。」
「…恥ずかしながら。これでも直接戦闘に使える程度にはなったんですけど。」
「ま、異能は慣れるしかないからな…」
「そうですね。では、行きます。」
その瞬間、その場所には大竹の死体のみをのこして違う場所へ移動しました。魔術では、瞬間移動は実現していないはずです。すごいと思って亨くんを見ると、眼は黒くなっていました。さっきの眼の色はなんだったんでしょう。まったくもってわかりません。
翌日、私たちは、こっそり日本に戻ってきました、亨くんの異能を使って。私たちはハワイへは偽名で入国していましたので、ホテルに生き埋めになった
あの日の夜、お父様たちによく言い含められました。
亨くんの異能は絶対に誰にも喋ってはならない、と。
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私はずっと亨くんに憧れていました。同じ年齢でしたが、あの若さで仕事を任されるなんて、と。そして、その憧れの人と同じ学校に通うことになりました。お父様は少し気に入らないようですが…。
私は、明日からの学校生活が楽しみでしょうがありません。
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