凡庸魔術師の学生生活

藤友 優

プロローグ

プロローグ1:3年前

院宮―――日本の魔術師たちの頂点と言われる23個の家柄の総称。全ての家に「院」「宮」の字が付いている。これらの家は政府からの要請でテロリストや反乱因子、不穏因子、海外の諜報員への制裁業務を行うことがあった。

その中でも、後宮うしろく四宮よんのみや有栖院ありすいん聖光院せいこういんは当時、四帝と言われていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…聖光院の魔術師からの接触です。」

「ほう、それでなんと?」

「我が国の対日特化諜報部隊、愚者と力が捕捉されたそうです。」

「…なるほど。早いですね。」

後宮うしろくが捉えた模様です。」

「はぁ…それは、困りましたね。」


眉を落とし、溜め息を吐く女性。その容姿は、落胆の表情をしていようとも、彫りが深い黒髪の美女の部類に入るであろう。


「はい、この日本に侵入した対日特化諜報部隊、コードネーム・“大アルカナ”、総勢22名のうち、バレたのは今回の2人を含め、13人目です。」

「たったの3ヶ月でこれだけバレるとは…困りました。」


そう、この諜報部隊の活動は3ヶ月前に入国したばかりである。前任の諜報員15人が唐突に音信不通となってしまったため、急遽、養成し終わっていた22人の諜報員を編成し正規の手段を取らずに入国した。しかし、1月目に3人が捕捉され、1人はギリギリで本国へ戻れたが、他の2人は暗殺された。2月目には5人が捕捉され、1人は捕縛され、4人は暗殺された。そして、今月は5人が捕捉され、愚者と力以外の3人は暗殺された。

決して練度が低いわけではない、相手が異常なのだ。一部の院宮の内部には協力者を設置はできている。特に今回の聖光院の協力者は、前任のさらに前から協力してもらっている。四帝一角に協力者を持っている、というアドバンテージを持っているにもかかわらず、半分以上の戦力を失いそうな状態であった。


「後宮、四宮のお陰で我が部隊は壊滅寸前ですね…。ところで、本国には…」

「通達いたしました。」

「そうですか。では、今後の方針を考えましょう。」


この諜報員の指揮官と思わしき人影たちは、忍び寄る陰に気づかぬまま、今後の方針を決定するために話を進めていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『…………ところで、本国には…』

『通達しました。』

『そうですか。では、今後の方針を決めましょう。』


諜報員たちがいる建物から少し離れた敷地内の木の上に2つの人影があった。大人と表現するには少し小柄すぎる印象だ。


「…間抜けだなぁ。もうちょい強い相手が良かった。ね、とおくん。」

「…仕事はする。ただそれだけでは?」

「…とおくん、最近、当たり強くない?」

「そうでもないが…。」

「そっかなぁ~。まあいいや。それより、そろそろかな?」

「あと、5分だ。」

「よしッ、やるか!」

「…うれしそうだな。」

「ウフフフフ。」


声もまだあどけない。この二人の小さな侵入者に諜報員は気付いていない。一応、諜報員たちの名誉にかけて言えば、一応、索敵魔術網は構築されているし、通報魔術など、万全な備えを建物の敷地内外問わず張り巡らせていた。決して手を抜いたわけではなかった。


「後宮家には申し訳ないけど、12人全員、我々で消しちゃうことになっちゃったからね。」

「会話を聞く限り、うちの家は気付かれてないようだね。」

「当たり前よ。」

「そうだな。」

「それにしても、とおくんと一緒に仕事できるとは…うれしいね!」

「軽いな、お前…。」

「そりゃまぁね。もう慣れた。とおくんだって慣れてるでしょ。お互い同じくらいの時期から仕事を受けてるんだもん。」

「まあな。っとそろそろ時間だな。」

「OK。」

「…よし、行くか。」

「ええ、扉の前までよろしく!」

「ここに2人がいるがあり、玄関に僕等がいないと言うがある。」


フッと二人の姿が木の上から消え、に現れた。


「…超便利だね、その異能。」

「お前もだろ。超諜報向きな異能を持ってるくせに。」

「…それもそうね。それにしても、来客があるのにお出迎えがないのは、寂しいね。じゃ、行きますか。」


そうして、靴を履いたまま玄関を上がる。そして、諜報員がいるリビングにつく。


「だから、ここは、後宮をつぶすべきでは?」

「しかし、たった10人前後でどうするんだ?」


諜報員たちが熱心に議論している声を聴きながら、リビングに入り込む侵入者たち。そして、


「おっ邪魔しま~す。」


突如明るい声をリビングに投げ掛ける。その瞬間、声をかけられた諜報員たちは魔術を発動するのだが...


「「き、消えただと!?」」


発動が途中で止まり霧散した。それを見ながら笑いながら喋り始める、女の侵入者。


「いい反応ですね。でも、私には勝てませんよー」

「貴様、いつの間に侵入した?」

「さっきです。」

「...貴様、何者だ?」

「何者だと思います?」


少しおどける女、いや、少女というべきかもしれないが、それに激昂する諜報員たち。


「大人をなめるのもいい加減にしろ!」

「大人を怒らせるなよ?」

「フフフ、まあ、いいですよ怒っても。でも、一応自己紹介。有栖院の者でーす。ということで、“永遠なる停止エターナル・ステイルメイト”」

「「...ッ!」」


声をあげる暇もなく、絶命をする二人の諜報員。それを酷薄な笑みを浮かべながら見る少女と興味無さそうに見る少年。

そして、少年の方が呟く。


「旧合衆国を示唆する物が大量にあるね...。やはり、もう融和モードというわけには行かないみたいだね。」

「そうだねぇ...ご当主様に、ご報告しておきましょう。」


そう言って、建物内を探し始める。そしてめぼしいものを持った二人の若い侵入者は建物から去っていった。

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