第11話

最後の授業が終わってHRが始まった時。


『ドゴォーーン』

「きゃー!」

「な、なんだ?」


校門から聞こえる轟音に生徒たちは悲鳴をあげる。


「落ち着け!我々教員がいる。とりあえず、避難をするぞ。」


そう言って、教室前方の扉の前に並ばせる落合。

しかし、次の瞬間、仮面をかぶった男が教室後方の扉から飛び込んできた。どうやら、屋内まで入ってきていたらしい。仮面の男はまず、手近の生徒に魔術が発動された右の突きを放つ。突然敵意を向けられた生徒は防御すらできない。それをみた落合は、近場の椅子とその生徒に対し移動魔術を発動させ、男の側面から椅子をあてるような攻撃をする。男は攻撃を止めた右手で椅子を破壊し、落合の方を向く。その一瞬の間に生徒を安全圏へ離脱させた落合はすぐさま炎球を発動。その時間はわずか0.15秒。それを男は手刀で左右に切り裂く。続けざまに空気弾エアバレットを多数放つ落合。不可視の銃弾が男の体に襲い掛かる。しかし、傷を受けず落合に高速で迫っていく男。男が放つ右手の突きに合わせ右の掌底を合わせる落合。どちらもその手には魔術を帯びている。


『ガンッ!』


硬質な音が鳴り響く。男の側が吹き飛ばされ、壁に激突した音だった。反転障壁、いわば攻撃の力そのものが跳ね返され、男が吹き飛ばされたのだ。しかし、すぐさま立ち上がる男。しかし、男は一歩目を踏み出すと、白目をむいて倒れ伏す。


「「「「すげぇーーー!」」」」


生徒たちの歓喜の声が聞こえる。しかし、落合は亨に声をかける。


「最後の魔術、有川、君の仕業だね?」


その言葉に、生徒たちは頭の中に疑問符が並ぶ。


「何のことでしょうか?」

「とぼけるね、君は。最後、立ち上がり一歩目を踏み出した瞬間、頭部を振動させたよね。おそらくその振動による脳震盪で倒れたんだと見たんだけど。」

「気のせいでは?」

「わずかな魔術発動の波動を検知したんだが?」

「ここは5組ですよ?そんなことができる生徒がいると思いますか?気のせいですよ。」

「…」


ジトッとした疑惑の目を向けてくる落合。それに対し慌てずに普通の態度を取る亨。


「それよりも先生、俺への疑惑への追求より、避難をすべきではないですか?」

「…今はそういうことにしておこう。よし、みんな揃ったな、行こう。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


避難先となった講堂は人でごった返していた。


「生徒は全員ここから出ないように。」


舞台の上に立つこの高校の教頭が生徒に向かって強く言いつける、が。

舞台袖から高速で飛び出す人影。その人影はまっすぐ教頭に向かう。その手には魔術が発動している。突然のことで動けない教頭の代わりに落合や他の教員が動こうとするが、その発動前に間に入ってくる男。


「少しお静かに願いますね。」


丁寧な口調の男が人影の目の前に反転障壁を発動する。


『…さすがは四宮。早いな。』


感嘆する亨。向かってきていた人影は舞台袖まで跳ね返される。一度停止した人影を見た生徒たちは驚きを隠せない。


「「「「よ、吉田だと!?」」」」


どよめきが大きくなる。しかし、相対している四宮一騎は動じない。


「いや、ありがたいですね。我々としてはあなたの身柄を確保するように言われておりまして。その当本人が目の前にいらっしゃるのはありがたいことです。」

「…うるさい。」


飛び出してきた人影、もとい吉田は平たんな声をあげ、向かっていく。その姿に違和感を覚える何人かの生徒や教員。少し前まで感情的な人間だったのにも関わらず、今は平たんな声しか挙げていない。それを見た亨の表情は曇る。


『…洗脳だけならよかったんだけどな。魔術能力のエンハンスまで進んでいるのか…。これはまずいな。』


そんなことを考えているうちに戦況は進む。同じように、突っ込み、吹き飛ばされるということを短時間の間に2回繰り返していた。


「猪突猛進ですね。何度やっても結果は変わりませんよ。」


感情のこもらない目で一騎を見る吉田。また突っ込んでいく吉田。しかし、今度は違った。今までとは比べ物にならない魔力を用いた魔術を右手にまとわせる。一騎は同じく反転障壁で迎撃する。しかし、先ほどとは異なり吉田は吹き飛ばない。反転障壁が押され、動揺する一騎は魔力を更に注ぎ込む。


『…それは悪手だな。魔力の逐次投入はあまりよくない。熟達していなければ術式が一時的に不安定な状態になる。実戦慣れした戦闘巧者や今回の吉田の攻撃のような高魔力による攻撃には不向き、だな。』


そう考えていた矢先、反転障壁が破壊され、一騎の左肩に吉田の右拳が叩き込まれ、反対側の舞台袖まで吹き飛ばされる。それを追撃するように、聖光剣舞ダンシング・ホーリー・ソードが一騎に襲い掛かる。


『ガギギギギン』


舞っていた光の剣が破壊される。


「痛いですね…。やられましたよ。なんとか咄嗟に対物、対魔力障壁を間に合わせましたが…、鎖骨を持ってかれました。流石は光が得意な聖光院家の配下です。」


立ち上がった一騎の右手には水で出来た鞭があった。相変わらず感情の無い目を向ける吉田とにらみ合う。その刹那、一騎が消える。


「‼」


その一騎が吉田の背後に現れたとき、吉田は鞭でぐるぐる巻きにされ倒れていた。


「鎖骨を折られるとは未熟です。まあ、勝てたからよしとしま…⁉」


講堂の扉を向き、咄嗟に障壁魔術を発動する。タイミングはぎりぎりだったが、爆風を防ぐことはできた。


「こんなところまで、侵入者?」


講堂内の教員が戦闘態勢を整える。


「いっぱいいるな!血がたぎるわ!!」


煙が晴れ姿を現した相手の姿を見て、亨は絶句する。


『…あれは…“鬼兵”、竜胆兵馬りんどう ひょうまか!まずいな。見たところ負傷した四宮では、力量不足。教員陣も無理だろう。来栖燦の警護に動く必要性があるな。』


そんな焦りを抱いていることなどお構いなく竜胆兵馬が構える。


「せいぜいわしを楽しませてくれよ!君たち!ハハハハハッ!」


笑いながら群衆の中に突っ込んでいく竜胆。その突っ込んだ先を見た亨は血相を変えることとなる。なぜなら、竜胆が突っ込んだ先は、1年1組の集団、それも在原夏樹だったのだから。

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