第12話

突然の乱入者たる“鬼兵”・竜胆兵馬が在原夏樹へ向かう。反応できているのは数人のみ。夏樹も反応できた1人であった。


「フンッ!」

「‼︎」


竜胆が右の剛腕を夏樹へ向けて放つ。それを普通の障壁で防ぐが、


『パリン』

「‼︎」


障壁はガラスが砕けるように簡単に破壊される。即座に夏樹は後方への加速魔術を発動し、拳の射程から逃れ、お返しとばかりに竜胆の目の前に大きな氷の槍を放つ。


「ヒャッハー!」

『ガッシャーーン』


竜胆の奇声と共に繰り出された拳の一撃が、一瞬で氷の槍を砕く。氷の欠片が舞う中、駆け抜ける竜胆。その竜胆へ砕けた氷が殺到する。


「! ホォー。」

「“寒獄”!」


身動きが取れないような球体の氷の監獄ができ、竜胆を固める。普通ならば、これで決着がつく。しかし、


『パリィーーン』

「うむ、久々だな。わしにここまでできるとは。最後のあれは…投影上書きオーバープロジェクションか…高等技能だな。ん…水⁉」

「フッ、放雷スパーク

『バチューン、ドーン』


粉塵と暫くの沈黙が場を覆った。誰もがこれで終わったと考えていた―――亨や夏樹、燦以外は。


「…勝ったぞ。」

「おいおい、あの子1年だぞ。」

「すごい!」


3人以外は喜びを爆発させる、が。


「ハハハ…実戦慣れしておるな。軍の魔術中将レベルの判断力と技術だ。」


笑い声にその場が凍る。ただ、それを見ても冷静な亨の口からはつぶやきが漏れていた。


「やはり、ね。」

「…亨、倒せていないのがわかっていたのか?」


そのひとりごとを近くにいた伊藤雄二が拾う。近くには柿沼鼓、西園寺文也、それに京極端姫もいる。


「…ああ。普通なら決着してるんだけどな。相手が悪すぎる。」

「亨くん、相手、ですか?」

「あの老人だが、国防正規軍元魔術大将だ。」

「「「「ええ!?」」」」

「記録上は抹消されているんだが。」

「え、じゃあ、夏樹さんでしたっけ、やばいじゃないですか?」

「…そうだね。マズイな。」

「…どうするんだ?」

「私たちも行こうか、文也。京極家としていくべきでしょう。」

「そ、そ、そうだな、さ、西園寺家としていくべきだな。」

「やめとけ、2人とも。」

「なんで止めるんだ。」

「君の知り合いでしょ?」

「…断言する、君たちじゃ、足手まといだ。」

「…んだと?」

「ねえ、有川君、それはさすがに私でも怒るよ?一応これでも京極家だもの。」

「…じゃ、訊くが今までの戦況を全部解説できるか?」

「「…」」

「あの老人がどんな技を使って、どういう技で攻撃を受けているか、とかわかるのか?」

「「…」」

「だったら止めといたほうがいい。本当に足手まといにしかならないから。」

「亨君、夏樹さんに勝算はあるんですか?」


沈黙した二人に代わって尋ねる鼓。その問いに亨はにやりと笑っただけであった。


そんな、亨たちのやり取りの一方で、夏樹に燦が小声で話し掛ける。


「夏樹さん、手伝いましょうか?」

「…燦、ダメだよ。」

「ですが…少し相手が悪いですよ?」

「構わない。なんとかする。」

「…」


それに、と夏樹が耳元で続ける。


「私は燦の護衛だよ?護衛対象に守られてどうするの?」


そう言って前に進み竜胆と向き合う夏樹。竜胆は舌なめずりをする。


「学生レベルじゃないな。もしも、わしがまだ現役の兵隊なら、スカウトしたいくらいだ。」

「…あなたは、軍が弱すぎるために問題を起こし姿をくらませた、と聞きましたが?」

「…そうだ。わしもね、失望したよ、軍の魔術師の雑魚さ加減に。そして、同時に思った。なぜ、家柄にとらわれ有望な人材を登用しない、とね。いや、偏重がひどい。そう思った。だからわしはやめたのさ。」

「なるほど。」

「さて、お嬢さん。先ほどの水への放電の際の水…熱による融解、ではなく魔術由来の物質への干渉による態変化だな?」

「…」

「いや、そこまで極めているとは…。ということは、属性転換コンバート、もできるな?」

「…お見通しか。」

「ああ、だが一つ解せないのは、なぜ手を抜いている?君の実力なら“寒獄”を私が砕いた瞬間に雷属性への属性転換コンバートを行えば、わしとてこんなピンピンはしておらん。なんでじゃろうな。」

「…いろいろあってね。目を付けられたくないんだよ、軍とかに。」

「ふむ、まあよい。なぜなら、貴様はここでわしに殺されるのだから、な!」

「⁉」


一瞬で見えなくなる竜胆。危機感を抱いた直感を信じ、その場から飛びのく夏樹。その刹那、竜胆のかかと落としが炸裂し、床をたたき割る。


「いい勘だ。やる、な!」

「厄介だな。」


空中に障壁による足場を作り、その障壁を蹴って、そのまま地面へと降り立つ夏樹。さっきまでいた空中には、竜胆が攻撃をし、からぶった直後だった。そして、また消える竜胆。それを見て、夏樹は自身に加速魔術をかけ、数メートルだけ移動する。そして、自身がもと居た場所に攻撃魔術を仕掛ける。


「“氷筍”」

「⁉」


タイミングが合い、鋭くとがった氷の先が殺到し、攻撃を仕掛けた竜胆に直撃する。そして直撃した瞬間、


属性転換コンバート・業火」

「…ぬ⁉」


一瞬で氷が大きな炎と変化し、竜胆を覆った。

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