第10話

いつもと同じ通学路。しかしながら抑えようとして抑えきれていない殺気が漂っていた。


『しかし、吉田は昨日見つからず…二条院や聖光院、四宮が警戒態勢か。随分と物々しいな。』


そのような監視体制の中、亨は学校の門をくぐる。いつもなら1年5組にそのまま向かう亨だが、この日はまず1年1組に向かう。そして、教室内の在原夏樹のもとへ向かう。近づく亨を見た夏樹は不機嫌な顔をする。


「…何か御用かしら、有川君。」

「…手短にいこう。今日の雰囲気わかるな?」

「…ええ、もちろん。」

「…一応俺も警戒する。それを伝えておこうと思っていてね。もちろん邪魔はしない。異名を持っている連中でなければな。」

「…ええ、そうして良いわ。」


夏樹もムスッとした顔で返す。それを見て、亨は教室から去っていった。


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特に何も起きぬまま、ただただ時間が過ぎていく。強いて挙げるならば、教員たちが気を張りすぎて挙動不審になっていたことだろうか。なぜ、いた、なのか。それは教室内にも弛緩した雰囲気が漂い始めているからだ。授業を行なっている魔術理論の教員もまた緊張感を失い始めている。


『やはり、実戦を経験していない教員が多いからかわからんが、緊張感の張り方を間違っているな…。ずっと100%の状態で緊張してもすぐに集中が切れる。やはりダメだな。』


そう、勝手に分析をする亨。気を張ることはいいこと、と言うのには亨も同意する。しかしながら気を張りすぎるとは、悪影響の方が大きくなる。体の動きも悪くなるし、突発事態への対処時の体の停滞につながりかねない。

そして何も起きぬまま、昼休みとなり、伊東雄二、柿沼鼓、西園寺文也、京極瑞姫とともに学食の一角に固まる。


「学校内の雰囲気が怖いですね…」

「確かにな。少しピりついてる。」

「あれ、雄二、ビビってるの?」

「ビビってねえよ、京極‼そういうお前こそ、ビビってるんじゃねえの?」

「ハッ、誰がビビるのかしら?」

「無駄な争いはやめな、二人とも。」

「いや、この女の方を止めろよ、文也。」

「あれ、もしかして…雄二、一番ビビってるのは文也なんじゃないの?」

「…確かに、箸が震えてるなぁ、西園寺君。」

「…悪いか?この性格が災いして、弟が家督継承の一位になっているよ!」

「…あ、ご、ごめん。」

「…ごめん、そうだったね。」


亨は会話に参加せずに黙々と食事をする。そんな亨に気づいた雄二が話を振る。


「というか、一番狙われている可能性がある亨は、いつも通り、というかそれ以上に冷静だな。」

「…ん?だって焦っても仕方がないだろ。来たら迎撃する、ただそれだけ。」

「…ねえ、亨君…ホントに君って何者?」

「何者…て、有川亨だけど?」

「いや、どこかに属してるの?」

「どこか、て院宮の配下か、という質問?」

「ええ、そうよ。この学校のほとんどの生徒は、院宮の家とか、有力魔術師の派閥とかに親たちが属している。特に、力を持っている者は属していることが多い。なのに君の名前は聞いたことがない。」

「そりゃ、じゃないからね。」

「…本当に?」

「本当だけど?だって、見たでしょ、俺の魔術。殺傷性ランク低級の魔術しか使えってないし、使えないんだけど?」

「…確かにそうだけど、でも、」

「いや、だって、殺傷性ランク低級ていうのは、人を殺せない魔術だぞ?その程度しか使えない魔術師を、院宮とかがわざわざ配下にする必要はないよ。」

「…そうだね。考えすぎか。」

「ああ、そうだよ。一つ言えるのは、配下ではないし、派閥にも所属していないということかな。」

「そう、少し疑いすぎたわ。」

「まあ、いいよ。我ながら、少し怪しいなとは思っているしね。」


その後の食事は気まずい空気のまま、昼休みの時間が終わりを告げた。


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その頃、学校の周囲では、散発的で静かな戦闘が始まっていた。


「これだけの人数をどうやってくぐり抜けるんだろうな…お敵さんは。」

「まあ、有栖院はいないが、院宮の中でも上位に入る家柄が3つだ、楽勝なもんだろう。」

「違いない。お嬢様のためにも四宮や聖光院に負けないようにせねばな。」

「ああ。」


二条院の配下と思われる3人組が、車両の中で外を監視していた。少しずつ緊張の糸が切れ始めていたのもあるのだろうか、気づくのが遅れた。


「なあ…、暑くないか?」

「ああ、息苦しいしな。」

「…頭が、朦朧としてきた…。」


そして車内で力が抜ける3人組。どこからともなく現れた少女が車内の様子を確認する。


「うん、いいねぇ。作品に仕上げよう!」


純粋無垢な笑顔を浮かべ車内に乗り込む。そして、金属の針と呪符を取り出した少女は、3人の心臓に針を刺して絶命させた。そして複雑な文字と形が描かれた呪符をナイフを使って3人の体に埋め始める。


「さーてさてさて、どんな作品がでっきるかなぁ。お人形遊び楽しいな!ふっふふっふふふー!この呪符を埋め込んで、この魔紙を細ーく切って作った糸をこの魔晶に繋げて、よしよし、神経が残ってるね。ここで、この呪符を額に貼って、発動させて。神経も魔力回路に大へんしーん!これと糸を繋げたら、でっき上がり!うん、我ながら良き作品。話しかけてみよ!おーーい。」


すると今まで微動だにしなかった3人のうちの1人の首が動き出す。そして、少女の方に顔を向け、


「何でしょうか、真の主人あるじ

「よし、一旦待機。成功だね。さて、次の作品!るーんるん!」


少女は楽しそうに次の遺体をいじり始めた。






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