第7話

不気味な森林が広がる土地。夜の闇と交わって更なる不気味さを醸し出している。


「…なるほどねぇ。聖光院は何を考えているのかしら。」


そんな森林に存在するとある屋敷の広間の上座に座る女性。その前には黒い服を着た男がいた。


「当主様、私にはわかりませぬ。亨殿はきっかけをつかんだ模様ですが…」

「…亨さんの判断も正しかったわね。あそこで、聖光院と接触ができたのはよかったわ。まだ、あの2人が当家縁の者だとは思われたくないもの。私もね、少しは思い当たる節があるのよ…ただ、そんな捨て駒のようなこと、あの聖光院輝彦がやるとは思えないわね。」

「捨て駒、ですか?」

「ええ、捨て駒。」


場を沈黙が支配する。それを破ったのは、やはり女性の方だった。


「先程、来栖家と在原家より、報告がありました。少し、不愉快になりましたが…。出浦さん、亨さんへの言伝をお願いします。明日朝までにできますか?」

「ええ、可能でございます。」

「では、…」

「かしこまりました。」


そう言うと、スッと姿が消える。それと入れ違いにモーニングを隙なく着こなした初老の男が現れる。


「烏間さん、どう見ますか?」

「畏れながら奥様、奥様の見解に私も同意見でございます。」

「…嫌なことね。それとなく、四宮に流しておきましょうか。」

「承知いたしました。それとなく、流しておきます。」

「ええ、お願い。ところで、あの件は?」

「巣鴨様によれば、外国勢力の侵入はやはり、確実とのこと。」

「…そう。警戒に当たるように言っておいて。ちなみに所属は?」

「確認できているのは、旧合衆国と中華連合ですね。」

「北アメリカおよび北部南アメリカ連邦と中華連合ですか。全く、安保の破棄が少し早過ぎたわね。連合は駆除でいいとして…連邦をどうしましょうか…」

「今はまだ良いかと。」

「ええ、私にはいずれ争うことが…それまで放置するつもりです。」

「御意。」


—————————————————————————————————————


学校に向かう道すがら、亨は昨夜のことを思い出す。


「なかなかに面倒だな…」


どんどん、平穏から遠ざかっている気がするのは、気のせいなのだろうか。平穏のために学校に通っていると言うのに、そうはならなそうだと、若干諦観していた。


「亨!」


後ろから声をかけられる。振り向くとそこには、伊藤雄二と柿沼鼓、そして、その後ろに学校の制服を着た2人ほどいた。


「おはよう。そちらの2人は…同じクラスだけどはじめましてだよね?」

「うん、はじめまして〜。京極瑞姫みきだよ。よろしくー」

「僕は西園寺文也。よろしく。」

「ああ、よろしく。」

『…京極と西園寺か。院や宮ほどではないが、有名どころだな。』

「途中で会ったんだし、一緒に行こうぜ。」


雄二の提案にのり、一緒に学校の教室まで向かう。昨日、延焼し、氷漬けになった教室はしばらくの間封鎖されることとなり、多目的室が5組の仮教室となった。勿論その場所に吉田はいない。しばらくすると、落合が姿をあらわす。


「みんな、昨日は災難だったな。我々も不甲斐ないばかりで申し訳なかった。学校を代表として謝罪する。そして、吉田だが、停学処分が課された。今日から2週間彼は来ることはない。2週間の間に反省するとは思うが、昨日の時点で反省の色が全く見れなかった。そのため、入学早々だが場合によっては退学になる可能性もある。皆には迷惑をかけるが申し訳ない。よろしく頼む。」


頭を下げる落合。ほとんどの生徒が冷静な目で見つめるのであった。


HRホームルームと1限目の授業が終わった後、教室内では二つの話題で持ちきりだった。一つは、処分の甘さについて。そして、もう一つは、


「来栖さん、やばくない?」

「そりゃ、主席だから、すごいんじゃないの?」

「魔術も凄いし、美少女! 付き合えるとは思えないけど、話くらいはしたい!」

「めっちゃカッコよかった…。わたし、女だけど来栖さんとなら付き合いたい!


このように、本人がいないところで燦は人気をはくしていた。それを見ていた雄二が亨の方を向いてニヤニヤする。周りには朝一緒に登校した他の3人もいる。


「どうよ、自分の彼女が狙われるのは。」

「彼女って、来栖さんのことか?彼女とはそういう関係ではないよ。]

「へぇ、じゃあどんな関係よ。」

「昔、旅行先で会った。その時に彼女は暴漢に襲われていてね。それを助けた。ただそれだけさ。」

「…へぇ、彼女の強さでも対処できない暴漢を相手にしたのか。吉田と戦った時から気になってたが…亨、君さ明らかに戦い慣れているよね?」


西園寺の追求を受ける亨。それに対し、亨は笑みを浮かべながら返す。


「喧嘩は昔からやってたからね。田舎に住んでたし、魔術への規制も少し緩くて…。だから、戦い慣れているように見えるんじゃないかな?」

「なるほど、そんなもんか。」

「わからないけど、多分ね。」


一応の納得を示す文也。その隣では瑞姫が少しだけ首をかしげていた。それを見た雄二が瑞姫に尋ねる。


「どうかしたか?」

「…ねー亨君。君の戦い方、喧嘩慣れの領域を軽く超えていると思うよー」

「そうか?」

「うん、まあ、言いたくないならいーけどさー。でも、院や宮の家ではないにせよ、優秀と言われる家柄の落ちこぼれの私もさ、一応戦い慣れてるけど…君とは戦いたくないよ?だってさー、全力で戦ったら、私が死ぬ未来しか見えないもの。」

「買いかぶりすぎだよ。俺はそこまで強くないよ。」


苦笑しながら答える亨。しかし、亨の内心は穏やかではなかった。

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