第6話

「何を…か。素性もしれない君にそんなことを言える訳なかろう?」

「ええ、その通りですね。最近監視をつけてらっしゃいますね、俺に。」

「…やはり、バレていたのか。」

「…ええ、そして、吉田にも。」

「……」


警戒心からか聖光院輝彦の目が鋭くなる。その場の雰囲気がピリつく。


「…君は何者だ?言っておくが、私よりも高度な精神干渉魔術の使い手を吉田のガキにはつけたのだが?」

「言う必要はないと思いますが。とりあえず、この学校内であんたの企みに関係あるのが、吉田のみなのか、はたまた他に誰がいるのか、それだけを教えてくれれば十分だ。」

「それこそ言う必要がない。なんなら、ここで争ってもいいが?」


静かに睨み合う2人。互いに相手の一挙手一投足に注目していた。この状況、第三者に気づくのが遅れても致し方がないのかもしれない。


「聖光院先生、謀略はやめていただけますか?」


屋上の入り口には黒い髪の顔立ちの整った制服姿の女子生徒がいた。視線を向けた聖光院輝彦の目には多少の驚きがある。その一方で、亨はちらりと一瞥しただけ。


「…二条院香織殿、か。」

「ええ。ここは学び舎です。そして私がこの学校の生徒会長です。もし、先生の謀略によって、学校の学生が危険に陥った場合、我が二条院家は聖光院家を敵とみなしますよ?」

「…フッ、あのガキがよく言うものだ。家同士の全面戦争が、お望みなら受けて立つが?当主ですらない、貴殿にその決定権があるのか?」

「…私とて、院宮の一員として一部の兵力は保有しておりますので。」

「…家同士の戦争は決断できないと?そう言うことだな?お話にならないな。」

「…お話になりませんか?私が戦っている理由を宣伝すれば、立場がお悪くなるのは先生の方ではありませんか?」

「子供の戯言と一笑にふせる。ひとつ、教えてやろう。長生きをしたければ、あまり大人を舐めないことだ。」

「…」

「私は、学院に対してなんも企んでいない、今のところはね。これで満足かな、お二方。」


最後にゆっくりと、聞かせるように言葉を述べる輝彦。香織は悔しそうに目を伏せる。しかし、亨は納得がいったように頷いた。


「…聖光院様。」

「何だね?」

「聖光院様は学内へのことに関して企んでいない、ということでよろしいですか?」

「ああ、それでよい。」

「承知しました。納得しましょう。あと、俺への監視は構いませんが、沈黙させてもよいですか?使い物にならなくなりますが…」

「…ひこう。これでよいかな?」

「ええ、感謝します。」


その言葉に、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら、床に転がっている吉田家の当主を担いで屋上から出ていく。それを見届け、屋上から出て行こうとする亨。しかし、


「お待ちなさい。有川亨君。」


この言葉に足を止めざるを得なかった。


「俺の名前をご存知なのですね。何か御用でしょうか、二条院先輩。」

「ええ、一応は…なにせ、無名の家が院宮の配下の魔術師を撃破したのよ?由々しき事態だわ。院宮こそが最強なの。…まあ、いいわ。それより、あなた、院宮の人間ではないのに、よく聖光院家当主に喧嘩を売れますね。」

「…どう言う意味でしょうか?」

「聖光院家の配下を使い物にならなくする…そんなこと、二条院家の娘である私でも言い切れないのに、しょせん少し魔術が使える程度の家のポッと出の魔術師が言うなんて、身の程知らずだと言っているのよ。お分かりかしら?」


その言葉に笑いを見せないように真顔を保つのに少し苦労する亨。


『そりゃ、そうだ。たかだか、二条院にそんな力はない。俺、いや、我々だから言えることだ。それに生意気なことを言われたものだ。本来ならば、立場をわきまえるのは二条院の方なんだがな…』


そんなことを思いつつも、亨は真顔で返答する。


「監視されて嬉しがる人はいませんよ。ただそれだけです。」

「…この国の魔術師社会では、院と宮こそが最大勢力で偉大なのです。なにせ、この国を守っているのですもの。そして、その中でも三竦みと呼ばれる聖光院家、四宮家、そして有栖院家は殊更に別格です。聖光院家は現在、先の失策で筆頭十家を固辞しましたが、その戦力は筆頭十家と同等かそれ以上です。そんな相手にたかだかポッと出の魔術師が喧嘩を売るなんて、ということです。」

「…なるほど。そう言うことはもっと早く知りたかったですね。後の祭りです。」

「反省なさった方がよろしいわ。院や宮でもない家の方は、それ相応の態度を取ればよいのです。では失礼いたしますね。」


そう言って去っていく、香織。心なしか、少し偉そうに去っていった。それを見送った亨はため息をつく。


「噂通り、二条院の娘は高慢な女だ…二条院の行く末が心配だな。…それはともかく、三竦み…本当にそう思っているのかね…」


たしかに、聖光院は強いし四宮も強い。だが、果たして有栖院と同格か、と言われるとなんとも言い難いのだ。


「三竦みにしておきたいのは、有栖院以外の都合だよなぁ...さて、戻りますか。」


ちらりと端を見やって屋上から屋内へと移動する亨であった。


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「終わったみたいですよ、夏樹さん。しかし…二条院先輩も身の程をわきまえませんのね。」

「…仕方ないでしょう。所詮は二条院のじゃじゃ馬です。」

「フフ、そうですね。ぜひとも二条院家のご長男に頑張ってもらいたいですけど…。三竦み、ですか。よくもまあ、そんなくだらないことを。少し、自惚が過ぎますわね。帰宅したら父に報告致しましょう。それで良いでしょうね。」

「ええ、十分すぎるかと。」

「では行きましょうか。」


氷漬けにされた教室から去る2人。一方の吉田は教員に引っ張っていかれた。

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