第2話

「流石に帰る人が多かったですね。」


ミートソースを食べながら話しかける鼓。


「まあ、授業が終わったら帰るだろうな。」


ピザを食べながら答える雄二。そして、話題を変える。


「ところで、選択授業とか部活とか鼓は決めた?」

「…え、えーと、まだ迷ってる。」

「だよな…有川…いや享は?」

「俺か?俺は魔術技工初級と魔術戦技入門かな。部活は…あんまり考えていない。そういう、伊藤君は?」

「雄二でいいよ。俺は迷ってるんだ、選択授業も部活も。親は戦闘職につくなら戦闘系の選択授業と部活に入れって言うんだ…。例えば、魔術戦闘初級とか体術戦闘入門とか、部活だと戦闘魔術研究会とか…。でも、俺自身は他の方法の方がいい気がするんだよな。」


そう言ってかなり迷っている様子を見せる雄二。それ以降は学校の話ではなく、お互いの話となった。雄二と鼓は中学時代からの友人であったようだ。享は地方の中学から1人で引っ越してきた、。そんな話をしていたら、あっという間に1時間ほど経過し、解散することとなった。

帰り道新しくできた友人に対して享は少し罪悪感を感じていた。実際、享は中学生、それ以前からこの都市に居を構えていた。ただ、諸々の事情で本当のことはあまり言えない立場なのだ。そんなことを考えつつ家に帰り着く。玄関の扉を開けようとした時、突然背後に人の気配がわく。


「お早いお着きですね、在原さん。」

「…私から申し出たことだ。遅れるのは申し訳ないだろう。」


そこにいたのは、在原夏樹の父親である在原ありはら樹生みきお。それを確認しつつ享は簡素なリビングへと案内する。そして、享は在原に椅子を勧め、お茶と菓子を用意し、対面の席に着く。享が席に着いたことを確認した在原樹生が口を開く。


「簡素だな、この家は。まあ、男の一人暮らしだとこのくらいか。取り敢えず、入学おめでとう。来栖家の当主は君があの学校に通ったことに疑念を持っていたが、通ったことは喜ばしいことだ。さて、前置きはこのくらいにしようか。まず、仕事だ。よろしく頼むよ。」


そう言って樹生は享に封筒を渡す。その封筒の中を確認する享。


「承知しました、とお伝えください。」

「ああ、伝えておこう。次に、君が疑問を持っていることについて説明をしよう。おそらく、私の娘たちのことだが…平たく言えば、あの方が指示したから、だ。」

「あの方が、ですか?それはそれは、また突然ですね。」

「ああ、そして、あの方からの君に対しての依頼もある。」

「…依頼、ですか。命令、指示ではないんですか?」

「ああ、依頼だと強調されていた。」


享は驚いていた。あの人が依頼という形をとったことは仕事を請け負うようになってから初めてのことだった。その表情を見た樹生が付け加える。


「私も長いが、依頼という形は初めてだ。」

「そうなんですか。ちなみに、どういった依頼ですか?」

「来栖燦の警備だ。」

「…在原さんのご息女がいらっしゃるはずですが。」

「…確かに夏樹は強い。しかし、次世代の主力級の1人と目される君ほどではない、違うかい?」

「強さに関してはなんとも言えませんが…。しかし、その依頼の意図がわかりません。まさか、あの方は、来栖燦と在原夏樹の2人がいて対処できないことが起こると考えていらっしゃるんですか?」

「あの方の意図など分からん。因みにだが、君がこの依頼を受けた場合、君への制約は緩和されるようだ。現在、君の異能は許可時以外では禁止にされているが、依頼受諾後には、本家の許可を待たずして使用可能という方向性になるらしい。まあ、これが君にとってメリットになるとは思えないが…」


樹生のいう通り、異能の使用の制約が緩和されてもそれほどのメリットは亨には無い。一番のメリットが発生するとすれば、2人の話に出てくるあの方から指示される仕事である。享が実際に課せられる仕事は、国に敵対する組織の構成員の駆除や諜報活動などの実力行使の仕事であり、異能の使用が必要なこともある。しかしながら、その場合においては事前に許可を得たり、使用を許可する通達などがなされたりするため、制約により不便はあれど実害はそれほどないのだ。これらのことより、依頼を受けるメリットはほとんどないのだ。


「…お受けした方がよろしいのでしょうね。」


長い沈黙の末、亨が答えたのはしぶしぶの承諾。


「いいのか、断れるぞ?」

「断れば立場はあまり好ましい方向にはいかないと思いますので。」

「何かあった際の交渉材料にされる、ということか…」

「ええ、そういうことです。」

「なるほどな。お前も苦労が絶えないな。」

「…そうですね。ところで、あの二人には誰がお伝えされるのですか?」

「私が伝えることになるだろう。」

「確認ですが、つきっきりで警備をする必要性はないですよね?」

「ああ、学院内での襲撃の際、なんらかのできる形で干渉してくれ、ということらしい。まあ、つきっきりの警備となれば、夏樹が嫌がりそうだしな。」

「ええ、嫌われている、というより苦手にされているようですので。」

「すまないな。では、警備の方をよろしく頼む。じゃあ、ごちそうさん。見送りは不要だ。」


そう言って、立ち上がる樹生。亨は立ち上がって軽く礼をする。玄関が閉まる音がしたあとに、ティーカップなどの片づけをし、自室に戻り制服を脱ぎ捨てる。そして、樹生から渡された封筒を再度確認したのち、クローゼットの奥から黒い服を取り出し、何となく眺める亨。その黒い服を眺める目の奥は少しだけ黒く沈んでいた。

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