第67話 二人のゴール(終話)

 夜の営業が終わり、宿にはあの兄ちゃん一人という状態になった。

「外のシャワールームが行列になっていますね。数を可能な限り増やしましょう」

 ウダヌスが窓から外庭をみて呟いた。

「もちろん、外の人には気付かれないようにしました。これだけ作業員がいますからね」

 ウダヌスが笑みを浮かべた。

「……またやったよ」

 俺は苦笑した。

「金庫と打ち上げがぴったり一致です。問題ありません。

 ランサーがフロア用に使っている手提げ金庫を、もっとしっかりした金庫にしまった。「宿チームはお客さんがいるので、交代勤務でカウンターに座っている事にしましょう。その他の方々はお疲れさまでした。明日もお願いしますね」

 残った宿チームは、一人がカウンターに座り、残りは二階に登っていった。

「あれ、どこいくんだ?」

「仮眠室です。十部屋も合ったので、一部屋潰して仮眠室にしました」

 ランサーが笑った。

「では、オーナー特権ということで、私のお付き合いをお願いしたいのですが」

 ウダヌスが酒瓶片手に笑みを浮かべた。

「オーナー特権ですか。申し訳ないので、家に帰ってからにしましょう。では、お願いしますね」

「分かりました。任せてください」

 カウンターの子が力強く答えた。

 あとは宿チームに任せ、俺たちは居住スペースに引っ込んだ。


「なにか作るよ!!」

「うん、練習の一環でね」

 ケニーとコリーが口々にいって、疲れているだろうにキッチンで料理を始めた。

「二人とも、無理しないで下さいね」

 ランサーが声を掛けた。

「さて、飲みましょう」

 これが楽しみだったといわんばかりに、ウダヌスはグラスに酒を注いだ。

「はぁ、疲れましたね。嫌な疲労ではありませんが」

 ランサーが笑った。

「ひたすら歩いていたもんな。相棒、簡単な回復魔法を使え!!」

「うん、今考えていた。動かないで」

 ランサーが動きを止めると、相棒が呪文を唱えた。

「ありがとうございます。大分楽になりました。大変ですが、面白いですね」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「さて、整理が終わったところで、さっきの噂話をちゃんと書きましょうか」

 ランサーが紙を持ってくると、メモ書き程度だったネタ元をそれなりに纏めて紙に書いた。

「なにしてんだ?」

「はい、こういうお店には旅のネタを探しにくる冒険者も多いのです。これも、私が冒険者だから分かる事ですね」

「なんだ、自分で行くのかと思ったぜ」

 俺は苦笑した。

「店まで持った以上、しばらく旅は出来ませんからね。代わりに冒険者贔屓の店にしようと思っています」

 ランサーが笑った。

 こっちも疲労しているはずのリュカが、俺をそっと抱きかかえた。

「はいはい、悪いが俺たちは寝るぞ」

「はい、分かりました。おやすみなさい」

 ランサーの声を背後に、俺たちは部屋に入った。


「さて、これは勢いではありません。ずっと考えていた事です。今でも悩んでいます」

 ベッドに俺たちを座らせ、その前の床にリュカが正座した。

「な、なんだよ!?」

「うん、どうしたの?」

 俺たちが聞くと、リュカが意を決したかのように、服のポケットから首輪を二本取り出した。

「飼い猫という言葉は嫌いです。パートナーとでもいいますか。その……」

「分かった分かった、もう好きにしていいぜ!!」

 もごもごいっているリュカに、俺は笑った。

「何事かと思ったよ。つけたいならつけていいよ」

 俺と相棒は笑った。

「こ、こうも簡単に……では、さっそく」

 リュカが俺と相棒に首輪を付けた。

「俺たちの旅の最後かねぇ、これ」

「そうだねぇ、ゴールが吸血鬼のお姫様でっていうのも面白いね」

 俺と相棒は笑った。

「えっ、それって!?」

 リュカが慌てた顔になった。

「いや、俺たちが旅に出たのは、野良は飽きたから誰か面倒みてくれないかなって甘ちゃんな目的もあったんだ。だから、こんな正座までして首輪を付けてくれる物好きに出遭っちまったら、他にどこいくんだよ」

「今まで通り変わらないよ。単に僕たちの中で目的が変わっただけだから。疲れてるでしょ、早く寝ようよ」

「は、はい、よく分かりませんが、変わらないならそれでいいですよ」

 リュカは笑みを浮かべ、ベッドに座った。

「さて、寝ましょう。安心したので、よく眠れそうです」

  相棒を小脇に挟み、腹の上に俺と載せたリュカは笑みを浮かべたのだった。

「あれ、なにやら聞こえると思ったら、ついにコーベットとムスタに首輪を付けてしまいましたか」

 部屋に入っていたランサーの笑い声に、リュカが跳ね起きた。

「こ、これは、その……」

「分かっています。あくまで、気持ちの表れだという事は。二人とも、特に変わりはないのでしょう?」

「まあ、特にはな。いざって時の保護者が出来たくらいだ」

 俺は笑った。

「だそうです。私も変わらず接するつもりです。そこは、許して下さいね」

「許すもなにも、そうしてもらえないと困ります!!」

 ランサーは笑い、部屋から出ていった。

「ビックリしました。ね、寝ましょう」

「ランサーは、パーティ内に変なゴタゴタが起こるのが嫌なんだ。それさえなければ、文句はいわないさ」

 俺は笑った。


 いつも通り早朝に目を覚ますと、リュカも起きた。

「おはようございます。今日も頑張りましょう」

「お互いにな。さっさと相棒を起こそうぜ」

「はい、そうしましょう」

 リュカが相棒を起こし、俺たちは部屋をでた。

「おっ、噂の首輪はそれか!!」

「また、大変な猫を拾ったねぇ」

 起き出していたケニーとコリーが声を掛けてきた。

「おう、ついに物好きが出たぞ!!」

「物好き……だよねぇ」

 俺と相棒は笑った。

「はい、物好きです。それは、認めますよ」

 リュカが小さく笑った。

「俺たちの密かな目標がこれだったからな。野良は飽き飽きしていたんだ。その一つが達成できたからな。そんなに無茶はしないさ。あとは、みんなでここを盛り立てる。それでいい」

「なに、飼い主探して旅してたの?」

 ケニーが笑った。

「裏の目標だ。できたらいいな程度のな。こんなデカい守る者が出来たんだ。俺は満足だぜ」

「僕もね」

 コリーが笑みを浮かべた。

「実はランサーが一番気がかりだった事なんだ。私たちはあちこち行ったけど、猫チームはまだあまりいけてないって。困ったなっていってたよ」

「これだって旅だ。どっかにいくだけじゃねぇだろ」

 コリーの言葉に、俺は笑みを浮かべた。

「それを聞いて安心しました、一番気がかりだったのです」

 こちらも起きたようで、ランサーが笑みを浮かべた。

「気にしないでいいぜ、十分旅したからな」

「うん、僕たちだけじゃどうにもならなかったよ」

 相棒が笑みを浮かべた・

「では、朝食をとって、今日も頑張りましょう

 ランサーが笑った。

「全て見越し通りでした。これがずれると、大変なんですよ」

  酒を飲みながら、ウダヌスが笑みを浮かべたのだった。


(完)

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