第51話 吸血娘の身の上
状況が落ち着いたところで、俺たちは改めて昼メシに取りかかった。
黙っていたケリーとコリーも、状況が分かったためか、笑顔でリュカと話し始めた。
「どうなるかと思ったが、いいやつで安心したぜ」
俺はメシを食って、手で顔を拭いながらいった。
「いいやつかどうかは……ああ、血液美味しかったですよ……ダメだ。本当だけど、これをいったら!?」
「……おう、褒め言葉と受け取っておくぜ。今まで『可愛い』か『キモい』の両極だったからよ。『美味しそう』なんてのは初めてで困っちまうぜ」
「うん、しかも近くにいた僕じゃなくて、いきなりコーベットにいったもんね。マズそうだった?」
相棒が笑った。
「え、えと、その朦朧としていたので……本能が『いけ』と命じたとしかいえません」
瞬間、全員で笑った。
「私たちやランサーもウダヌスもいたのに。よりによって猫のコーベットに行くとは!!」
「全くだね。一番量が少ないのに」
ケリーとコリーが俺とリュカを交互にみた。
「量というな量と……」
俺は苦笑した。
「さて、このままなにもなければ、明日の早朝スタートでグレイス・シティに戻ります。各自、準備をして下さいね」
「あの、グレイス・シティというのは?」
リュカが心配そうに聞いた。
「私たちが本拠地にしている街です。港もあるいい場所ですよ。この王都からさほど離れていませんし、あとの事は国王様の仕事です。ここに留まる意味がないですからね」
「なるほど、分かりました」
リュカが頷き、程なく全員の昼メシが終わった。
「あっ、そうだ。あのボロボロの服じゃ目立っちゃうから、新しいのを買いに行こう」
階段を登ろうとして、ケニーが足を止めて振り向いた。
「そうだね、いい考えだよ」
コリーが笑みを浮かべた。
「服ですか……確かにボロボロですね。気がつきませんでした」
リュカが苦笑した。
「私とコリーなら、王家御用達の店にも入れるし、さっそく行こう」
「護衛を兼ねてってところだね。私もなにか買おう」
そんな会話をしながら、ケリー、コリー、リュカの三人が宿から出ていった。
「では、私たちは飲んでいるとしますか」
「はい、そうしましょう」
そして、毎度おなじみランサーとウダヌスのささやかな飲み会が始まった。
「よし、俺たちは部屋に戻ろうぜ」
「うん、そうしよう」
俺と相棒は猫用出入り口から部屋に入った。
「それにしても、また変なパーティになったな」
ベッドの上に丸くなって、俺は苦笑した。
「元々微妙に変なパーティだったし、今さらでしょ」
隣で丸くなっていた相棒が笑った。
「まあ、いいけどな。その方が面白ぇしよ」
俺は小さく笑みを浮かべた。
「それにしても、メンレゲを出発した時はこうなるとは思ってなかったね」
「ああ、俺もだ。なんたって、神だぞ神。ビックリなんてもんじゃねぇよ。いまだに微妙に信じてねぇけどな!!」
俺は笑った。
「僕は信じてるよ。こんな嘘を吐く理由がないもん」
「まぁな、先が見えてるってのも本当らしいしな。それでいていわねぇのは、未来が変わっちまうって事で納得だ。嫌な未来だったら、絶対なんとかするもんな」
俺は苦笑した。
「さて、一寝入りしようぜ。夕方まで帰ってこねぇだろ」
「そうだね、おやすみ」
相棒の声が聞こえ、俺はそっと目を閉じたのだった。
猫とはとかく寝る生き物である。
ということで、俺が目を開けると、窓の外は夕焼けに染まっていた。
「あれ、本当に夕方まで寝ちまったな。おい、相棒」
俺は隣で寝ていた相棒を揺り起こした。
「あれ、もうこんな時間だ。寝過ぎだね」
相棒は笑みを浮かべ、ベッドから下りた。
俺も下りると、そのまま猫用出入り口から廊下に出た。
階下に下りると、真新しい服を着たリュカとケニーとコリーがいた。
「どうだ、私のセンスも悪くないだろ!!」
ケニーが笑みを浮かべた。
「いや、服には興味がないからな。まともな見た目になったな……くらいだぞ」
「うん、同じく」
俺と相棒がいうと、ケニーはすっこけそうになった。
「あ、あのね、こういう時は嘘でも褒めておくもんだぞ……」
「ちなみに、ケニーのセンスは最悪だから、選んだのは全部私だから」
コリーが笑った。
「こ、こら、それはいうなって!!」
ケニーが慌ててコリーに蹴りを入れた。
「いいじゃん、事実なんだし。何着か買ったから、当分は買い足さなくてもいいと思うよ」
「はい、お金まで出していただいてしまって……後でお返ししますので」
リュカが、決まり悪そうに笑みを浮かべた。
「いいって、私も自分用に買ったし。ああ、今はランサーもウダヌスも不在だよ。近くの酒場に行ってくるって。どこまで飲むんだろ」
コリーが笑った。
「そういや、グレイス・シティに戻ったら部屋割りどうしようか。猫部屋は満員だろうし……」
「ご心配なく。私はまだ寝なくていいのに、ベッドに横になってる方が苦痛なのです。寝なくちゃダメ? となってしまってイライラしてしまって。座る場所があれば平気ですので、もう一つのソファにします。リュカはベッドを使って下さい。猫にも私にも必要のない物ですので」
ウダヌスは笑みを浮かべた。
「平気ならその方がいいね。私とコリーを同じ部屋にして、空いた一部屋を使ったらどうかなとも考えたんだけど、いきなり一人部屋じゃ不安だと思っていたからさ。リュカが嫌じゃなければそうしようかな」
ケニーがリュカをみた。
「ご迷惑にならないなら、私はなにもいいません。よろしくお願いします」
リュカがペコリと頭を下げた。
「よし、そういう事にしよう。あとは、自然に決まるでしょ。ランサーたちがいつ帰るか分からないけど、もうすぐ晩ご飯が届くよ」
楽しそうなケニーの声に、俺は笑みを返したのだった。
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