第44話 王都への爆走
そうじゃなくても明け方に一回起きる俺だったが、早朝出発に備えて早めに寝たため、明け方に起きた時は絶好調だった。
「おはようございます。本当に早起きですね」
ベッドに座っていたウダヌスが笑みを浮かべた。
「そっちには負けるがな。相棒も起こさなくちゃな」
俺は、隣りで丸くなっていた相棒を揺り起こした。
「あれ……もう時間になったんだ」
大きなあくびをして、相棒はソファの上で伸びをした。
「よし、いこうぜ。もしかしたら、もう全員起きてるかもしれねぇし」
「うん、行こう」
ウダヌスが扉を開け、俺たちは部屋の外に出た。
階下にはすでに全員集まっていた。
「それでは、馬車を取ってきます。いつでも出発出来る準備を」
ランサーが笑みを浮かべ、宿から出ていった。
「最短ルートを全力で飛ばすって。下手すれば、今日中に着いちゃうよ」
ケニーが笑った。
「まあ、急ぎみてぇだからな。なにもなきゃいいけどな」
俺は笑みを浮かべた。
「落ちないでよ。真面目にどうしようって思ったから」
コリーがため息交じりにいった。
「あれは……事故だ。うん。ごめんなさい」
「コーベットが素直に謝ったよ。これだけで事件だって」
余計な事をいった相棒に猫パンチを浴びせ、俺は鼻でフンといった。
そんな事をやっている間に、ランサーが馬車を操って、宿の出入り口に横付けした。
「よし、いこうぜ!!」
俺たちは馬車に飛び乗った。
門の前に一番乗りした俺たちは。ケニーとコリーの手作りサンドイッチで、朝メシを済ませた。
しばらくすると、馬車の周りに人が集まり始めた。
「凄いですね。朝のこんな時間から、こんなに人が集まり出すなんて」
ウダヌスが当たり前の感想をいった。
「俺も最初は驚いたぜ。朝早くから仕事に出る人たちなんだ。この混雑を避けるために、とにかく一番最初に並ぶんだ」
俺は笑みを浮かべた。
「なるほど、大変なんですね」
ウダヌスが笑みを返してきた。
ちょうど開門時間を迎えたようで、重い音とともに門が開いた。
「では、いきますよ」
ランサーは街道に馬車を出すとと、王都に向かって一気に加速した。
体感で数十分もしないうちに、最初の村を通過した。
「と、飛ばすなぁ……」
「読後二日以内にくる事となれば、急がないといけません。もう元凶はどこかに逃げてしまったにせよ、それを報告しないといけないので」
ランサーは小さく笑みを浮かべた。
「なんでもいいけど、事故るなよ!!」
「もちろんです。最悪の遅刻ですからね」
ちょうど街道をのどかにいく、荷馬車が前方に迫っていた。
「追い越します。揺れますよ」
ランサーが操る馬車は、街道から外れて草原の上を走り始めた。
整地されていないので、当然馬車は盛大に揺れ、あっという間に荷馬車を追い越して街道に戻った。
「そ、そのうち、馬車がぶっ壊れちまうぞ!!」
「今回だけ特別です。私も怖いので」
ランサーが苦笑した。
「ったく、勘弁してくれよ!!」
俺は小さく笑みを浮かべた。
ひたすらぶっ飛ばしていたランサーが、懐中時計とかいう時間が分かる道具を懐から取り出してみた。
「お昼時ですね。どこかで休憩しましょう」
「次はヨサノハデスっていう村だよ。もう三分の二は進んでる。飛ばしすぎだよ!!」
後ろでケニーが笑った。
「村ですか……街ならよかったのですが、店があるか分かりませんね。この辺りに止めて、料理を作った方が早そうですね。船旅で食料が残っている事もありますが。準備しましょう」
ランサーは馬車を草原に進めて駐めた。
「よし、準備だ!!」
「久々だね。急ごう」
ケニーとコリーが荷台からガタガタ準備する音が聞こえた。
「あの、私もなにか手伝った方がいいですよね?」
ソワソワしているウダヌスに、俺は笑った。
「多分、邪魔っていわれちまうぜ。あっという間に準備しちまうからよ」
「うん、もう終わったんじゃない?」
相棒が笑った。
「こら、早くしろ。メシができちゃうぞ!!」
ケニーの声が聞こえてきた。
「ほらな!!」
「は、早い。ビックリしました」
ウダヌスが滅多に見せない驚き顔を浮かべた。
「うん、降りよう」
俺たちは馬車から降りた。
外には火をおこして調理する機械が置かれ、シートが引かれた地面には、メシが乗った皿が並べられていた。
「また、ご馳走じゃねぇか。気合いはいってるぜ」
「ほとんどが湯戻しすればいい携帯食だからね。豚の腸詰めの燻製がアクセントだよ!!」
ケニーが笑った。
最後に火を止めたランサーがシートに座ると、俺たちも全員座った。
「さて、揃いましたね。頂きましょう」
全員でいただきますと挨拶を続け、俺たちはメシを食べた。
「美味しいです。いつもの宿もなかなかですが、これはこれで……」
ウダヌスは元気よくおかわりまでして、物珍しそうに食べていた。
「味気ない携帯食をどう美味しく食べるか、事あるごとに研究していまして。これはヒットのようですね」
ランサーが笑った。
こうして昼飯を終えた俺たちは、早々に道具を片付けて撤収し、再び馬車の移動を再開したのだった。
ランサーがガンガン飛ばしたお陰で、夕方よりやや早い時間には城下町の門に到着した。
「待たれよ。今は通すわけには行かぬのだ」
門番の鎧姿が俺たちを止めた。
「私たちは国王様に呼ばれてここにきたのです。これを」
ランサーが例の手紙を門番に見せた。
「なるほど、そなたたちか。魔王を名乗る輩を撃退したのは。追跡の兵が目撃したのだ。晴天にも関わらず、稲妻が魔王を貫いたと、信じられぬ事をやったのは。その件について、国王様は大変お喜びであった。その報告にきたのだろうが、国王様は病で伏せておられるのだ。この隙になにが紛れ込むか分からぬと、今は住人以外の街の出入りは固く禁じておる。確かにお主たちがきた事は報告する。安心して帰るがよい」
門番は胸を張った。
「……なに、そんな派手なのぶちかましたの」
小声で呟き、俺は苦笑した。
それはともかく、一方的な物言いだったが、ランサーは笑みを浮かべた。
「コホン、なにやってるの。国王様?」
「なんだ、気がついたか。今回は気合い入れたのだが……」
門番が兜を脱ぐと、どっかでみたことがある国王だった。
「声が同じなのでモロバレです。どこで笑おうか我慢していましたよ。どんなノリですか」
「うむ、一回偉そうな門番をやってみたかったのだ。ビビって帰っていく姿が面白くてな」
国王が笑った。
「……タチ悪ぃぜ。ったく」
俺は小声で呟き苦笑した。
「はいはい、それじゃ私たちは勝手にはいりますよ。朝一で飛ばしてきたので、疲れもありますから」
どうにもならん国王を無視して、ランサーは馬車を進め、門を潜って街に入った。
「宿はこの前のところです。今日は六人部屋が空いているといいのですが」
ランサーは笑って、大通りを進み路地裏に入った。
「お疲れさまでした。ゆっくりしましょう」
ランサーの声と共に、俺たちは馬車から降りた。
「おう、きたな。なんか人数増えてるし、元気にやってるじゃねぇか!!」
前と同じで元気よく兄ちゃんが声を掛けてきた。
「大部屋空いてる?」
聞きながら、ランサーが金貨3枚をカウンターに置いた。
「空いてるぜ、こりゃまたもらいすぎだよ。また出前だがメシ付きだな」
兄ちゃんが鍵をランサーに渡した。
「ああ、そうだ。これからも機会があると思ってな、全部屋に猫用出入り口を付けたんだ。上客さまへのご奉仕てやつでよ!!
「それは気が利くわね、助かったわ。じゃあ、部屋借りるわよ」
ランサーが目配せしたので、俺たちは階上の部屋へと向かった。
「あれ、ベッドしかなかったのに、改装したんだね」
「うん、ベッドに隙間もあるし、小さなテーブルがあるよ」
部屋は以前より若干広くなり、俺にしてみたら広大ともいえるスペースになっていた。
「あっ、テーブルで思い出しました。族長に手紙書かないといけません。メンレゲの調査について」
「あれ、マジでいってたのかよ」
俺は苦笑した。
「こと鉱山に関しては、ドワーフは冗談はいわないですよ。では、書いちゃいますね」
ランサーは椅子に座ると、鞄から紙を取り出してペンでサラサラとなにやら書き、封筒に入れた。
「人間社会の郵便では届かないので、この宿のオーナーに頼みます。何気に顔が広いので助かります」
ランサーは封筒の封を閉じ、部屋から出ていった。
「おい、相棒。あのしょぼくれた村に何かが起きるぜ」
「うん、活性化するのはいいことだよ」
相棒が笑みを浮かべた。
「ご飯の前に軽く寝るよ。あまりに揺れるから、お昼寝できなかったし」
コリーが苦笑してベッドに入って、布団を被った。
「ああ、それ私も。ハード過ぎたよ!!」
ケニーもコリーのベッドの隣のベッドをキープして布団を被った。
「私はこの街を少しみたいです。ご一緒にいかがですか?」
ウダヌスが笑みを浮かべて聞いてきた。
「いっておくが、俺も相棒も全くといっていいほど知らないぞ。それでよければな」
「はい、構いません。ただブラブラしたいだけですので」
ウダヌスが頷いたので、俺は頷いた。
「よし、相棒。いくぞ!!」
「うん、コーベットだけよりマシだね。
相棒が笑みを浮かべた。
「ど、どういう意味だよ……」
「だって、ケンカ売られたら買っちゃうでしょ。で、攻撃魔法でドカン。この街でやったら、甚大な被害がでるよ。
相棒が笑った。
「あ、あのな……やらないとはいえないぜ」
俺はため息を吐いた。
「でしょ。よし、いこう」
「はい、本当に仲がいいですね。羨ましいです」
ウダヌスが笑い、俺たちは部屋の外にでた。
「あれ、お出かけですか?」
ちょうど戻ってきたランサーが声を掛けてきた。
「はい、ちょっとぶらついてこようかと。ケニーとコリーは寝てしまいました」
「そうですか。私が案内しましょう。この街は、知らないと簡単に迷子になってしまうので」
「ありがとうございます。では、いきましょう」
楽しそうなウダヌスの声に笑みを浮かべ、俺たちはランサーの後についていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます