第43話 またアイツ

 ひっそりと装備のレベルが上がった俺たちは、可能な限り練習した。

 一番苦労したのは、やはりランサーだった。

 振った斧からなにかが出るという感覚がなかったためだろうが、それでも夕方には通常の斧と魔封の力による風の魔法を問題なく切り替える事が出来るようになった。

「これは、使い方次第でとんでもない武器かもしれませんね」

 ランサーが笑った。

「あまり無茶はしねぇ方がいいぜ。あくまでも、プラス要素だからな」

「分かりました。あくまでも斧ですね。では、時間も時間です。そろそろ宿に戻りましょう」

 閉門時間すれすれまで粘っていた俺たちは、練習をやめて宿へと戻った。


「おっ、帰ってきたな。手紙が届いてるぜ」

  宿の兄ちゃんが声を掛けてきた。

「手紙……誰からなんの用事でしょうね」

 ランサーが手紙を受け取り、封を切った。

「国王様からです。例の魔王が、ついに城の中を荒らすようになったようです。とことん暇なようですね」

 ランサーが口の端を上げた。

「なにが世界のどこかでだよ。他に行くところなかったな」

 俺は苦笑した。

「またか……」

「何気に頑丈で強いんだよね」

 ケニーとコリーがため息を吐いた。

「あれ、どうされましたか?」

 宿で留守番をしていたウダヌスが、階段を降りてきて、不思議そうに聞いてきた。

「国王様からの手紙で、前に一度戦った魔王がまたイタズラを始めたようでして……討伐依頼です」

 ウダヌスが笑みを浮かべた。

「それで、倒せそうですか?」

「そ、それは……かなり難しいですね。戦力が桁違いに大きいので」

 ランサーがため息を吐いた。

「ならば、無視です。ここでいってしまうと、国王も呼べばくると思うでしょうし、魔王とやらも同じです。えっと……ちょうど今は城から離れていますね。キツいお仕置きをしておきましょう」

 ウダヌスが笑みを浮かべた。

「……な、なにしたの?」

「はい、お尻を火傷させましたところ、慌ててどこかに逃げてしまいました。これで、もうイタズラすることはないでしょう。倒せる確信がある相手ならともかく、倒すことが難しいようであれば、教えて下さいね。この程度の嫌がらせはしますので」

 ウダヌスが笑みを浮かべた。

「なんだアイツ。ケツを火傷させられてて逃げちまったか」

「いきなり得体の知れない攻撃を受けたのです。普通は逃げますよ」

 ウダヌスが笑った。

「ま、まあ、王都にはいかないといけません。王令で呼ばれた以上は、無視は出来ません。この辺りは、ウダヌスに直接説明してもらう方が早いでしょう」

「分かりました。私が神であることを明かさねばなりませんね。どうやっても、説明が付きませんから」

 ウダヌスが苦笑した。

「それは、マズいですね。なにに使われるか分かりません。コーベットが開発した魔法ということにしましょうか。コーベット、申し訳ありませんが承諾して頂けますか?」

「ったく、どんな魔法だよ。別に構わないけどな!!」

 俺は苦笑した。

「ありがとうございます。ウダヌスが神だという事は、私たちの間の秘密にしましょう。知られていいことはないので。無難に人間で登録したのはそういう意味もあります」

「だろうな。ロクでもねぇのに目を付けられたら厄介だぜ」

 俺は笑みを浮かべた。


「今日は閉門時間を過ぎてしまったので、明日の朝出発する事にしましょう」

 ランサーが話を締め、俺たちは部屋に戻った。

「王令ですか。よく分かりませんが、どうしても王都に行かないといけないのですね。大変です」

 ウダヌスが椅子に座って苦笑した。

「俺もよく分からねぇんだけどな。どうもそういうものらしいぜ」

「うん、そうみたい」

 俺と相棒は苦笑した。

「まあ、これも旅ですね。そういう意味では、とても楽しみです」

「そうだな、何でも楽しまねぇとな」

 楽しそうなウダヌスに、俺は笑った。

「ランサーが朝早くっていってたから、明け方に起きて出発だぜ。今日は早く寝ないとな」

「そうだね。僕たちの旅は、大体そうだからね」

 相棒が笑みを浮かべた。

「そうですか。それは熱が入っていますね。ますます楽しみです」

 ウダヌスが笑みを浮かべたのだった。

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