第33話 神たるもの
ふと起きると、窓の外は夜になっていた。
腹も減ったし、そろそろ晩メシだろうと部屋から出て、廊下の柵の隙間から下を覗くと、ちょうど相棒が階段を登ってきていた。
「ああ、起きたんだ。ご飯だから起こしてこいって」
「おう、分かった。いこうぜ」
俺は相棒と一緒に階段を降りて、テーブルの場所に行った。
「これで、全員揃いましたね。ウダヌスの歓迎会を始めましょう。オーナーに頼んで、今日はいつもより豪華なものになっています」
「気遣いは無用なのですが、ありがとうございます」
ウダヌスが椅子を立ち上がって一礼した。
「いわれみれば、そうだな」
「うん、美味しそうだね」
俺の言葉に相棒が答え、笑みを浮かべた。
「よし、食べよう」
「うん!!」
コリーの声にケニーが反応し、全員で食べ始めた。
メシを食べながらも、ランサーとウダヌスは酒も進み、元気よく話していた。
「こりゃいいな。早く馴染んでくれそうだ」
俺はそっと呟き、笑みを浮かべた。
メシが終わり、俺は主に相棒と雑談していた。
ケニーはコリー。ランサーはウダヌスという感じで、夜が深くなるまで話し込み、最初に席を立ったのはケニーだった。
「よし、次の行く先を考えよう」
「うん、分かった」
相棒がケニーに続いて席をたち、階上にいった。
「相変わらず、熱心に探しますね。いいことかもしれません、あんな積極的なケニーはなかなか見られませんよ」
ランサーが笑った。
「相棒もだぜ。いつも、俺の後ろにくっついてるパターンだったんだが、これはいい傾向だな!!」
俺は笑みを浮かべた。
「私もケニーがいなくても平気になってきた。慣れだね」
コリーが苦笑した。
「皆さんいいことです。パーティ内で変にグループが出来てしまうと、全くいいことがないので」
ランサーが笑みを浮かべた。
「さて、私たちも部屋に戻りましょうか。いつまでも片付けができないと。オーナーに申し訳ないですからね」
ランサーの声がけで、俺たちは席を立った。
「では、戻りましょう」
ランサーを先頭に、俺とウダヌスという順で階段を登り、ランサーは自分の部屋に入った。
俺もウダヌスを連れて、自分の部屋に入った。
普通にウダヌスがドアを開けてくれたので、俺はそのまま室内に入った。
「いやはや、素敵な夜でした。何千年ぶりですか。心が洗われました」
ベッドに座り、ウダヌスは笑みを浮かべた。
「まあ、普通に考えて、あんな場所に何千年なんて、やってられないよな……」
俺は苦笑してソファに飛び乗った。
「まあ、神などやってると、たまにはそういう事もあります。だから、なんとも思ってはいません。困るのは、封じた者ですからね」
ウダヌスは苦笑した。
「それにしても、とんでもねぇ力を持っていることは分かる。それを封じる結界なんて、どこの化け物だよ」
「想像も出来ないでしょうが、遙か昔に今よりももっと盛んに魔法が研究されている時代があったのです。空飛ぶ大陸や地底や海底の王国……これらは、全て存在したものです。現在の魔法技術では、作るのは困難でしょう」
「な、なんだそれ。少し作りたくなっちまったぞ!?」
「やめておいて下さい。今度は私があなたを封じる必要が出てしまいます。これらのものは、あってはならぬものです。こういう飛び出てしまった枝葉を刈る事を剪定するなどというのですが、その一環として空中大陸を海上に墜とした時に、運悪く見つかって封じられてしまったのです。お陰で、大陸ごと消す予定が半端に残ってしまいまして。それが、このイケアハナ大陸なのです」
「な、なんだと、この大陸って!?」
俺の声にウダヌスが頷いた。
「そう、元は天空にあったのです。長い年月の末に。現在の位置に固定されたようですが、こうなると消す必要はありません。むしろ、そんな事をしたら未来に大きな悪影響が出るでしょう。なかなか大変なのです」
ウダヌスは苦笑した。
「……エラい事聞いた。この大陸の秘密じゃねぇか」
「これは大規模ですが、小規模ならいくらでもあります。安心して下さい。オシャベリネコという種を絶やすつもりはありませんので」
ウダヌスが笑った。
「ああ、そうか。そういう事も出来るのか。ますます怖いぜ!!」
俺は苦笑した。
「やりません、安心して下さい。希少種ですからね」
ウダヌスは笑みを浮かべた。
「さて、そろそろ休みましょう。といっても、私は横になるだけです。ここで、天使たちの報告や作業指示を与えます。一晩で終わるでしょう。神に睡眠はほぼ不要ですから、これで大丈夫なのです」
「あ。あんま無茶するなよ…………」
俺は小さくため息を吐き、ソファの上で丸くなった。
翌明け方、ふと目を覚ますと、隣で相棒が丸くなっていた。
ベッドではウダヌスが軽く目を閉じ、静かな朝だった。
「さて、仕事にしろ旅にしろ、早めに起きて準備しておくか」
俺はソファから飛び降りると、体を大きくのばした。
俺は寝ている相棒を一瞥し、屋の外に出た。
早くも朝メシを作ってくれているようで、建物の中はいい匂いに満ちていた。
「今日も美味そうだな。先に食っちまうか」
俺がテーブルにつくと、奥で調理していた兄ちゃんが顔を見せた。
「なんだ、ずいぶん早いな。ちょっと待ってろ」
兄ちゃんが再び店の奥に戻り、メシを持ってやってきた。
「はいよ!!」
「おう、食うぜ!!」
テーブルに置かれたメシを、俺はモソモソ食べた。
その最中、階上で音が聞こえた。
「コーベット、待ってよ!!」
相棒があたふたと降りてきた。
「あの夜中からやってたんだぜ、どうせ寝たばかりだったんだろ。起こせるかっての」
俺は苦笑した。
「それはそうだけど……」
「そんな事より、行く場所決まったのか?
俺の問いに、相棒はため息を吐いた。
「そう簡単にはね。気晴らしに船でも乗るかって話にはなった」
「おいおい、船って片道二日はかかる街からだろ。気晴らしにしちゃ、気合い入り過ぎだろ!!」
俺が返すと、相棒は不思議そうな顔をした。
「あれ、港ならすぐそこじゃん。寝ぼけてるの?」
「……えっ?」
俺は一瞬固まり、次の瞬間には二階に向けて走っていた。
猫用出入り口から慌てて部屋に飛び込むと、ベッドに座ったままウダヌスが舌をペロッと出した。
「この方が、なにかと好都合でしょう?
「いや、好都合かもしれねぇけど、なんで相棒の記憶まで変わってるんだ!?」
ウダヌスが笑みを浮かべた。
「作り替えの事実を多くの人が知っていては、大混乱の原因になります。そこで、あなたの記憶にだけ残すようにしました。このように、冷静に受け止めて考えてくれますからね」
「い、いや、俺って冷静なのか、これで」
これによって、どこか胡散臭いと思っていたウダヌスが、神だという事を信じるしかなくなった。
「安心して下さい。むやみやたらに、こんなことはしません。あなたにだけ、こっそり本当の自己紹介です。船がここから出ていれば、この上なく便利でしょう」
「ま、まぁな。船の威力は知ったばっかりだしな。あんまり脅かすなよ」
俺は苦笑したのだった。
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