第18話 魔法を憶えよう

 昼メシの場に、ケニーが地図の拡大複写版を持ってきていた。

「この癖のある描き方に慣れるために、なるべくみてるようにしたんだ。出来ることなら、制作者に会ってみたいくらいだよ」

 ケニーがメシを食べながら、起用に地図を眺めた。

「マックドライバーはちと変わった爺様だからな。会ってくれない可能性が高いぞ」

「うん、それ以前に村にあまりいないからね。いつも世界を旅してるから」

 俺と相棒は笑った。

「いつも旅してるか、いいね。そういう爺様!!」

 コリーが笑った。

「だから、あんな隠し通路みたいなものも発見出来るのでしょう。あんな場所、疑いもしませんでしたよ」

 ランサーが苦笑した。

「いや、疑う方がおかしいって」

 俺は笑みを浮かべた。

「うん、へそ曲がりだからね。普段は僕たちですら追い払われるのに、いきなり気まぐれで旅の話なんてするから、気になって仕方なくなっちゃって、コーベットがいついい出すかって待ってたんだ。こっそりね」

 相棒が笑った。

「そういえば、二人とも仲いいよね。固い友情だなとか、勝手に思ってたよ」

 ケニーが地図から目を離して、笑みを浮かべた。

「そりゃまあ、俺も相棒もこうやって喋るから、野良集団でも変に浮いてたし、村人で相手してくれるのは、こっそりやってくる子供くらいのものだったんだ。俺も猫並みに臆病なんだが、相棒はさらに臆病でな。いつも一緒にいたらこうなってたんだ」

「そうなんだよ。コーベットがいないと、怖くてね。まして、ここは人間社会のど真ん中だし、一人じゃ歩けないかもね。情けないけど」

 相棒が苦笑した。

「なるほど、それでいつもコーベット君の後を追うんですね。分かる気がします」

 ランサーがいって笑った。

「ったく、弾よけにしやがってよ。いいけどな」

 俺は苦笑した。

「まあ、改めていいますが、ここにいるのは全員同じパーティのメンバーです。苦楽を共にする仲間として、深い絆で結ばれると思います。よろしくお願いしますね」

 ランサーが頷いた。

「猫でよければって感じだけどな。魔法がなかったら、ただのオシャベリネコだぞ」

 俺は笑った。

 こうして、俺たちの遅い昼メシタイムは流れていった。


 メシも終わり、時刻は夕方近くになった。

「そうだ、三人ともマジック・ポケットが使えるようになったよ」

 食後の雑談の最中、コリーが空間にポケットを作った。

 それに呼応して、ランサーとケニーもポケットを作った。

「おっ、それで問題ないぜ。ポケットの容量は無制限だから、鞄なんかを使うと整理できていいぜ。なにが欲しいか念じれば、勝手に出てくるからよ。これも、魔法の一種だからな」

 俺は笑みを浮かべた。

「使ってみると不思議なものです。どこにいくにも、手ぶらでいいので」

 ランサーが笑った。

「今まで重くて大変だったけど、これなら今まで断念していた洞窟とか迷宮なんかもいけるね。一番大変なのは、必要な物資の運搬だから」

 ケニーが笑顔を浮かべた。

「気をつけないといけないのは、何らかの方法で魔法を封じられた場合、これも使えなくなるからな。俺たちがわざわざバックパックに猫缶とか地図をしまっていた理由はこれだ。今はバックアップしてくれる人がいるから、持ち運びしてねぇけど、面倒なところにいくなら、最低限の装備として持って行くぜ」

 俺は小さく頷いた。

「あらら、手ぶらとはいきませんか。でも、今までより格段に楽になりました」

「うん、大違いだよ。これは使える魔法だ」

 ランサーとコリーがいった。

「これが使えるだけでも違うだろ。相棒にも聞いてみな。俺は攻撃魔法ばっかりでよ。コイツは危ねぇから教えるつもりはないけど、相棒は便利な魔法の宝庫だぜ」

「こら、変な事いわない」

 相棒の顔色が青くなった。

「いいじゃん、浮遊の魔法で遊んでみたらどうだ。

「あれは、制御にコツがいるんだよ。知ってるくせに!!」

 相棒が俺の顔に猫パンチをぶち込んだ。

「……なに、怒ったの?」

「怒ってない。無責任な事いったから、ちょっとムカついただけ!!」

 俺は苦笑して、呪文を唱えた。

 椅子ごと宙に浮かんだ俺は、天井付近で停止した。

「なにポカンとしてるんだ。これが浮遊の魔法だ。使えるとなかなか便利だぜ」

 あっけにとられているランサー、ケニー、コリーに俺は笑った。

「ああもう。あのレベルでマスターなんだけど、年単位で時間が掛かるから、事故が多くて死者も出る、何気に高等な魔法だから!!」

 三人の熱い視線をまともに受けた相棒が、ワタワタと叫んだ。

 俺は術を操り、元の場所にいずごと着地した。

「まあ、簡単な魔法じゃねぇのは確かだけどよ、使えるとこれが便利でな。ちなみに、物を浮かせて持ち上げるのも可能だから、重たいヤツを持ち上げてやる時もいいぜ」

「コーベット、これはダメだよ!!」

 相棒が慌てていってきた。

「……いいな」

「……うん、いいね」

「でも、教えてくれそうにありませんね。

 ケニーとコリーが呟き、ランサーが苦笑した。

「ちゃんとした設備がないと、墜落したときに死にかねないからな。この街の規模なら魔法学校があると思うぜ。国際魔道連盟に加入しているところなら、種族でうるさくいわれねぇと思う。暇があったら、行ってみたらどうだ。攻撃魔法以外なら、気安く教えてくれるはずだぜ」

 魔法学校は基本的には誰でも自由に入れるし、習いたい魔法があればそれを教えてくれる場所だ。

 攻撃魔法は厳しい審査をパスする必要があるが、日常で使えるような便利魔法は下手すればタダで教えてくれるものだった。

「魔法学校ですか、考えた事もなかったですね」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「エルフなのに魔法が使えないのが、密かなコンプレックスだったんだよね」

 ケニーが苦笑した。

「そうなんだよ。エルフって魔力が高いのに、使える魔法が一個もないってなんなの?  って感じだったし。魔法学校か」

 コリーが笑みを浮かべた。

「まだやってる時間だろ。気になるなら、見学だけでもしてくるか?」

 俺が提案すると、三人が頷いた。

「はじまったよ、コーベットのこれ。直す必要があるか分からないけど、無理は禁物だよ」

 相棒が苦笑した。


「魔法学校ね。あるよ、ジンジャー通りの二十四番街。敷地が広いから行けば分かるよ」

 ちょうど宿の真向かいにある案内所で聞くと、街の地図と一緒にそんな答えが返ってきた。

「ジンジャー通りですか。ちょっと距離がありますね。気がつかないわけです」

 ランサーが笑った。

「適当でいいんだ。なにか便利な魔法が使えればいい。さっきの浮遊もその一つかな」

 ケニーが小さく笑みを浮かべた。

「私もそんな感じ。攻撃魔法もそうだけど、命に関わる回復魔法も怖いんだ。だから、本当にあれば便利程度でいい」

 コリーが頷いた。

「回復魔法も怖いね。よく分かってる」

 相棒が笑った。

「俺もそれでいいと思うぜ。本来、魔法は生活を便利にするために創られたものだ。派手な攻撃魔法も傷を癒やす回復魔法も、その延長線にあるからな」

 俺はゆっくり歩き始めた。

「ダメだ、俺が地図を見ても意味がねぇ。現在位置すらすぐに忘れちまう!」

「はいはい、ジンジャー通り二十四番街ね」

 たまたま俺が持っていた地図を相棒がひったくり、そのまま先頭にたって歩き始めた。

 俺たちはごった返すメインストレートを避け、裏道を歩いて魔法学校を目指した。

 あのメンレゲですらそうだったが、裏道は柄の悪い連中のたまり場になっている事が多い。

 しばらく歩くと、行く先に溜まっていた馬鹿野郎どもがちょっかいを掛けてきた。

「おい……」

 俺は暴風を起こす魔法を使い、なにもいわせないまま三人ほど吹っ飛ばしてやった。

「お、おい、逃げろ。化け猫がいるぞ!?」

 地面に倒れた三人は、慌てて逃げ出した。

「なんでぇ、情けねぇな。おととい来やがれ」

 俺は笑った。

「今のは攻撃魔法?」

 コリーが問いかけてきた。

「攻撃魔法なんて立派なもんじゃねぇよ。練習用に作ったガラクタだぜ」

「作った!?」

 ケニーが声を上げた。

「ああ、特に攻撃魔法なんだが、基礎的な概念や理屈は教えてくれるんだが、その先は自分で考えてオリジナルを作るしかねぇんだ。その課程で作った、風を起こすだけの魔法だぜ。ハッタリかますには便利だから、よく使うんだけどな」

 俺は小さく笑った。

「へ、へぇ……予想以上にデキる猫様だったよ」

 コリーが目を丸くした。

「さて、邪魔が消えたところでいきましょうか。楽しみになってきました」

 ランサーが笑みを浮かべた。


「へぇ、ここが魔法学校か。広いねぇ」

 ついた場所は、街の壁付近にある広大なスペースを占領しているレーベン魔法学校というところだった」

「この規模なら、攻撃魔法系もやってるな。魔法学校によっては、やってない小さなものもあるんだ。どっちが偉いっていう話じゃねぇが、攻撃魔法系をやってる学校はどうしても格上みたいに思われるからな。半端な教師はおいてないはずだ」

 俺は先頭に立って、開け放たれたままの校門を通って中に入った。


「はい、見学と体験のお申し込みですね。体験はこちらの三名様でよろしいですか?」

「ああ、間違いないな。それでいいぜ」

 学校の受付のお姉さんに声を掛けて手続きを済ませ、俺たちは玄関でしばらく待った。

「お待たせしました。私はこの学校の校長タコマです。よろしくお願いします」

「校長自らに案内してもらえるんだな。これはラッキーかもしれねぇぞ」

 俺は小さく笑った。

「では、参りましょうか。魔法の授業は、基本的には座学です。仕上げに実技となります」

 俺たちはゾロゾロと校長の後に続き、学校の奥へと進んでいた。

「ちょうどこれから『明かり』の魔法の授業がありますので、体験される三名の方は是非受けて下さい」

「明かりか。便利そうだね」

 ケニーが呟いた。

「便利だがそれだけじゃねぇぞ。魔法の基礎として、必要な事が全部入ってる大事な魔法だぜ。絶対に覚えろよ」

 俺は呪文を唱え、「明かり」の光球を作った。

「おや、猫で魔法とは珍しいですね。通常は魔法発動に必要な魔力が足りないはずですが……」

 校長が俺を不思議そうに見つめた。

「こっちの相棒もそうなんだが、生まれつきの絶対魔力が人間の水準すら越えちまっているんだ。猫のくせに生意気だろ」

 俺は笑った。

「あ、あの、猫が喋る事はスルー?」

 ケニーが信じられないという顔をした。

「はい、そのくらいで驚いていたら、魔法学校の校長は務まりませんよ。色々な方がきますからね」

 校長は笑みを浮かべた。

「そ、そうなんだ。凄いね」

 ケニーが苦笑した。

「さて、そろそろ授業が始まります。急ぎましょう」

 校長の案内で、何人か人が集まっている教室にランサーたちが入っていった。

「コーベット、なんだか懐かしいね。僕たちもこうやって勉強したよね」

「ああ、懐かしいな。まさか、また魔法学校にくるとは思わなかったぜ」

 俺は苦笑した。

「あの、お二人はどうなさいますか。先ほどの『明かり』の魔法で、大体の力量が分かりました。かなり、魔法慣れしていますね」

 校長が笑みを浮かべた。

「まあ、これしかねぇって必死だったからな。自信はあるぜ。まあ、それで無敵だと思うほど、お調子者じゃねぇけどな」

「僕はどうかな。回復魔法が得意技だけど、結界魔法にも自信はあるし、まあ、何でも屋だね」

 相棒が小さく笑った。

「なるほど、自信はあれど謙虚ですか。そのくらいでいいと思います。もし、ここでお待ちになるようでしたら、授業が終わるまで私は校長室で仕事をしていますが……」

「邪魔にならねぇなら、授業参観といきたいところだな。大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ。大切ですが、それほど神経質な内容ではないですしね」

 校長が教室の扉を開いてくれた。

「それじゃ、また後で」

「はい、またきます」

 校長が笑みを浮かべた。

 俺と相棒は教室の後ろに入り、授業の様子を伺った。

 中ではまさに座学の最高潮で、真剣な様子のランサーたちが見えた。

「では、実際にやってみましょう。これが自在に使えるようになると、魔法使いっぽくていいですよ」

 教師が砕けた調子でいった。

 全員で呪文を唱え、初回で発動した人はいなかった。

「力み過ぎですね。いくら気合いを入れても、魔法は発動しませんよ。何度でも挑戦して下さい」

 教師が言わなくても、全員何度もチャレンジした。

 そのうち、一人二人と成功しはじめ、まずはケニーが成功した。

 次いで、ランサーとコリーが同時に成功した。

 全員が成功すると、教師が頷いた。

「いいでしょう。あとは練習あるのみです。早い方なら、この授業中にマスターしてしまう事でしょう」

 教師は頷いて、教卓の後ろにある椅子に腰を下ろした。

「ここで、俺たちが介入したら台無しだぜ。これは、自分でやらねぇとな」

「うん、分かってるじゃん」

 相棒が小さく笑った。

 四苦八苦している様子の三人だったが、やがて三人ともが自在に光球を操り、明度調整までするようになった。

「よし、覚えたな。術をコントロールするって事を。実はそんなに難しくねぇんだ」

「これは教えて教えられるものじゃないからね。三人ともいいセンスしてるよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

 結局、教室にいた全員が「明かり」をマスターし、教師は満足そうに頷いた。

「これが、皆さんが手に入れた『術を操る』という感覚です。これを覚えて頂くために、この授業があるのです。教えられる事ではないので、この魔法の習得という方法を取っているのです。皆さん、素晴らしい。授業は以上で終了です」

 教師が一礼して教室を出ていくと、和んだ空気になった。

「あれ、みていたのですか?」

 ランサーが俺に気がつき、苦笑した。

「あれ、いつの間に?」

「さすが猫、気がつかなかったよ」

 ケリーとコリーも俺に向かって苦笑した。

「上出来じゃねぇか。タダで一つ覚えたぞ」

「まあ、この魔法ならいつきてもタダだと思うけど、一回は凄いよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

「よし、あとは校長を待って、学校見物といこうぜ」

 俺がいうとほぼ同時に、校長がやってきた。

「いかがでしたか。では、見学を続けましょう。教室はどこも同じですので、次は校庭にでましょうか。ここでは、主に攻撃魔法系の練習をするための場所です。いずれ、使うかもしれませんね」

「おう、景気づけに一発ぶち込んでやるか」

「コーベットの一発は強烈だからダメ!!」

 慌てて相棒が止めた。

「なんでぇ、ケチ!!」

「そういう問題っじゃないから!!」

 相棒がため息を吐いた。

「私はみたいかな。どれほどの力をもってるのか」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「ああ、冗談だって。こんな街中でやっちまったら、大騒ぎじゃ済まねぇもん。なっ、相棒!!」

「あのね、喜ぶところじゃないよ。村を一個消したんだよ。反省してよ」

 相棒がため息を吐いた。

「む、村一個消したって……」

「あ、アクティブ過ぎる……」

 ケニーとコリーの顔に冷や汗が浮かんだ。

「なるほど、最低でもそれだけの力があると。覚えておかないと、いざという時に困りますからね。

 ランサーが笑みを浮かべた。

「あくまで、練習の時に起こしちまった事故だからな。勘違いすんなよ」

 俺は苦笑した。


「ここが校庭です。街の中なので、あまり広くはないですが」

 校長に案内されたのは、街の中としては破格に広い校庭だった。

「いや、これだけあれば、攻撃魔法系の何かを覚え立てのヤツが練習するには、ちょうど手頃な広さだろ」

 俺は呪文を唱え、杖先から火球を飛ばした。

 校庭から火球が飛びだそうかというところで、火球を自爆させて消した。

「これが術の制御だ。どの魔法でも、絶対に必要になる感覚だからな。忘れるなよ」

 俺は笑みを浮かべた。

「あらら、今度はこちらが先生ですか」

 ランサーが苦笑した。

「初歩の火炎攻撃魔法ですか。お手本のような、綺麗な術でした」

 校長が笑みを浮かべた。

「一番最初がこれだ。大した威力じゃねぇから、今じゃほとんど使わねぇがな。さて、次はどこだ?」

「はい、あとは小さな図書館くらいなので、見学はこのくらいでよろしいですか?」

「まあ、図書館はゆっくりみるべきだな。俺はいいぜ」

「私も大丈夫です」

 三人を代表するかのように、ランサーがいった。

「では、玄関まで送りますよ」

 校長は笑みを浮かべ、俺たちを玄関まで先導した。


「ありがとうございました。またお会いしましょう」

 玄関で校長に手を振って送られ、学校から宿に向かって帰る事にした。

「気がついたら、空がもう夜ですね。かろうじて日が差している程度です。遅くなってしまいましたね」

 ランサーがいった。

「でも、面白かったよ」

「うん、面白かった」

 ケニーとコリーが同時に感想をいった。

「ならよかったぜ。俺が見た限りでは、まともな魔法学校だと思うぜ。いい加減なところが見当たらなかったからな」

「うん、メンレゲの学校よりマシだよ」

 相棒が笑った。

「さて、この時間の裏路地は危険です。素直に表から帰りましょう」

 ランサーの一言で、俺たちは雑踏の中に踏み込んだ。

 なるべく空いた道を選んだとの事で、遠回りにはなったが無事に宿に到着した。

 一階の食堂は開店して、客がちらほらと見えたので、俺たちはそのまま二階に上がった。

「それでは、一休みしたら一階で集合しましょう」

「分かった、あとでな」

 俺と相棒は、ランサーに答えてから猫用出入り口を潜った。


「もうすっかり夜だな。結構動いた気がするぞ」

「うん、ちょっと疲れたね」

 寝るまいと思っていたベッドについに乗っかり、快適な居心地に呼ばれてやってきた睡魔に抗っていると、相棒が小さく笑った。

「眠いなら寝なよ、猫らしく」

「違うな、俺たちはオシャベリネコだ」

 相棒と俺が笑った。

「あーあ、住民登録されたってことは、人間社会で堂々としていいって事だよな。実際はどうか知らないけど」

「そうだね。まあ、なにも変わらないけど、パーティ登録されたし気持ちだけは野良とは違うって思えるね。ありがたい事だよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

「だな、やっと落ち着いた感じだぜ」

 しばらく相棒と雑談していると、部屋の扉がノックされた。

「お腹空いてないかもしれないけど、みんな一階の食堂に集まっているので、よろしかったら……」

 ケニーの声が聞こえ、俺はベッドから飛び下りた。

「分かった、今いくぜ」

 俺は相棒と一緒に部屋を出た。

 一階のボックス席に三人がいるのを見つけ、俺たちは真っ直ぐその席にいき、準備されてた座面かさ上げ用の詰め物の上に座った」

「今日は色々やって疲れたでしょうから、早めに寝るようにしましょうか」

 ランサーがいった。

「だな、さっき寝そうになってたぜ」

 俺は笑った。

「それじゃ、まずは明日の予定を立てよう。どうする?」

「うん、それを決めないとダメだね」

 地図担当の二人が俺をみた。

「そうだな。当然相棒は知ってるだろうが、俺たちが旅に出た理由はこの世界をみてみたいなんだ。この街も本来は経由地だったんだよ。でも、こうやって状況が変わった今、どうしようか悩んでいるところなんだ」

 俺がいうと、ランサーが笑みを浮かべた。

「やりたい事をやる事が一番です。チェックアウトしなければ、部屋はこのまま確保できます。最初にここのオーナーに確認済みですから安心して遠出できますよ。私やケニーとコリーも邪魔するつもりはありません」

「じゃあ、悪いけど街道を使って次の村だか街だかにいってみたいんだ。どう回ってきたかは、相棒に確認してくれ」

「分かった、どう回ってきたの?」

「うん、ここがメンレゲでしょ……」

 ケニーと相棒が普通の地図で打ち合わせを始めた。

「久々にこの街を離れるんだね。今から楽しみだな」

 コリーが笑みを浮かべた。

「楽しみっていってくれるなら、それだけで十分だぜ。退屈かもしれねぇがな」

 俺は小さく息を吐いた。

「なんでも楽しむのが冒険者です。私も今から楽しみですよ。やっと、この街から離れて動くきっかけになりましたからね。居心地はいいですが、退屈といえば退屈だったのです」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「ここにいる全員が揃えば、なんだって出来る気がしてきたぜ。これが、パーティで行動するって事だな」

「その通りです。今日はお酒を控えめにしておきます。大酒飲みのドワーフ的にはですけれどね」

ランサーが笑った。


「結論として、ここから街道を走って南東街道に入り、リュクセンっていう港町まで行くのが一番って話になったよ。

 ケニーが笑みを浮かべた。

「うん、その先は沿岸の道を行くんだ。ずっと海がみえるから、楽しいかなって思ってさ」

 相棒が楽しそうにいった。

「おう、そこは任せるぜ。地図の見方も分からねぇから、文句いわねぇよ」

  俺は苦笑した。

「リュクセン……馬車で飛ばしても一日はかかる距離ですね。思い切ったことしますね。間違いなく野営か徹夜で走りですよ」

 いってる内容のわりには、楽しそうにランサーがいった。

「このところやってなかったから、この辺りでやってみようかと」

 ケニーが笑った。

「俺は初経験だけど、経験者が三人もいれば大丈夫だな」

「油断は禁物だよ。もっとも、弓を持ったエルフの前に立つとどうなるか、しっかり思い知らせてやるけどね」

 コリーが笑みを浮かべた。

「おいおい、無茶すんなよ。よし、これで明日の予定は決まったな。また明け方にここ集合でいいだろ?」

 俺が問いかけると、全員が頷いた。

「そうと決まれば、今日は早めに解散な。魔法を憶え立ての頃は、『明かり』の魔法でもちゃんと休まねぇと魔力痛っていって、全身が筋肉痛みたいな感じになっちまうからな。結構しんどいぜ」

「そ、そうなの!?」

「うわ!?」

 ケニーとコリーが声を上げた。

「では、今日はもう解散にしましょう。長距離走行で筋肉痛のようなものは、なかなかキツいですからね。お会計お願いします」

 こうして、俺たちは普段より早めに休んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る