第19話 移動と初野営
「コーベット、そろそろ時間だよ」
俺は起きて番をしている相棒に揺り起こされた。
「もう時間か。結局、あまり寝てないぜ」
俺は苦笑した。
「僕もあまり寝てないよ。ある意味、旅の再開だからね。よし、いこう」
「ああ、いこうぜ」
俺はベッドの上で伸びをしてから、床に降りた。
「バックパックを出さなきゃね。先にコーベットが出てよ。僕が押し出すから」
「分かった」
俺は猫用出入り口から先に廊下に出て、部屋の中から押し出されたバックパックを適用に床に転がした。
最後に相棒が出てくると、俺はバックパックの中身を確認した。
「まあ、猫缶くらいしか入ってねぇけどな」
「僕はそれプラス地図だね」
二人で小さく笑い、久々にバックパックを背負った。
「まあ、馬車で下ろすんだがな、気持ちだけな」
「そういう事。そう考えると、馬車って偉大だよね」
俺たちは一階に降りた。
「おっ、猫チームが起きたぞ」
俺たちより先に、コリーが起きて待ていた。
どうやら、手にしたショートボウのメンテをしているようだった。
「そのバックパック、なにが入ってるの?」
「猫缶くらいだな。非常食は持ってねぇとよ」
俺の答えにコリーが笑った。
「いい心がけだね。ちなみに、ランサーはもう起きてるよ。こんな時間でも開いている冒険者向けの店があってね。馬車の点検と食料なんかの買い出ししてるよ」
「へぇ、そんな店があるのか。知らなかったな」
「僕も初耳だよ。色々あるねぇ」
俺と相棒がそれぞれ言ったとき、手にした剣を杖代わりにヒーヒーいいながら階段を降りてくるケニーの姿があった。
「あーあ、魔力痛だな」
俺は苦笑した。
「あ、あんなになっちゃうのか。怖い!!」
コリーが声を上げた。
「慣れの問題なんだけどな。相棒、治してやってくれ」
「分かってる、痛いんだよね。これ」
相棒がなんとかやってきたケリーに回復魔法を使った。
「ぎゃあああ!?」
「痛いんだけど、すぐ直るから……」
悲鳴を上げて床をのたうち回ったケニーが、程なく荒い呼吸で立ち上がった。
「……魔法、恐るべし。ちょっと甘くみてた」
ケニーが額の汗を右腕で拭って、苦笑した。
「なにか寝られなくて、ずっと起きてたせいかな。ムスタ、寝ちゃったらよろしく!!」
「うん、ゆっくりでいいよ。地図は頭に入ってるから」
相棒が笑みを浮かべた。
「よし、全員揃ったな。あとは、ランサーが帰ってくるのを待つだけだな」
俺がいってから程なく、ランサーが宿に入ってきた。
「準備が出来ました。皆さん揃っているので、このまま出発しましょう」
こうして、俺たちは宿を出たのだった。
「結構、気合いいれて物資を揃えたなぁ……」
馬車の荷台にはいくつも木箱が積まれ、狭いという程ではないが今までどころではない物が積んであった。
「これでも、マジックポケットを使って、すぐに使わないものはそちらに入れてあります。とても使いやすいですね」
ランサーが満足したように笑みを浮かべた。
「まあ、便利に使ってやってくれ。あれは、そんなに魔力を使わないからよ」
「はい、そうします。では、皆さん出ますよ」
御者台にはランサーと俺。荷台の前列には地図担当のケニーと相棒。最後尾で弓を片手に守りを固めているのは、コリーだった。
ランサーが馬車を走らせ始め、いつも通り門扉の前についた。
「物資を揃えるついでに、皆さんの朝食を買っておきました。最後尾の端に置いてあるので、コリーにお願いですが一つずつ配って下さい」
「はいよ、これだね」
コリーの声が聞こえ、すぐに弁当が回ってきた。
「ここだとまだ高価なのですが、海沿いに出るならと焼き魚弁当にしました」
「おお、贅沢!!」
すぐ後ろのケニーが笑った。
「景気づけです。コーベット、あなたもどうぞ」
「い、いいのか。魚なんて食っちまってよ」
俺は弁当の容器に顔を近づけ、薄暗い中まずは魚に口をつけた。
「美味いぜ、この味が一番好きなんだ。猫には魚だぜ」
「いつもこうとはいかないですよ。今は特別です」
こうして、豪華な朝メシが終わり、後は開門を待つばかりになった。
日が昇るとほぼ同時に開門となり、俺たちの馬車は街道に出た。
「今日一日走り続けて、沿岸の街リュクセンですか。なかなか無茶しますね、楽しいですが」
ランサーが笑っていった。
「距離感が分からねぇが、ランサーがいうなら無茶なんだろうな。無理はすんなよ」
「無理しないと届かない距離ですよ。早くとも、到着は明日の明け方になりますが、状況を見て手前の街や村で休憩を入れます。久々の遠距離ですね」
ランサーが鼻歌を歌い始めた。
「ん?」
なんとなく気配を感じ、俺は御者台から周囲を見回した。
明るさを増しつつある草原の左斜め前方から、馬を中心にした連中がこちらに向かって突進していた。
「盗賊か……」
この時間、街から出てきた馬車を狙って、よく待ち構えているんですよね。止めますか?」「
「いいよ、あれなら十人程度だろ。これで、十分だ」
俺が呪文を唱えた瞬間、背筋が凍るとてもいうような感覚に襲われた。
「油断した。ヤバい、魔封じを食らった。攻撃魔法は使えん!!」
「では、止めます。打撃で押し返しますので」
馬車が急速に速度を落とし、停車すると同時にランサーとケニーが飛び下りていった。
ランサーの代わりに御者についたコリーが笑った。
「この野郎、抜かったな!!」
「ったく。そりゃ、魔法使いが盗賊やっちゃいけねぇって法はねぇけどな!!」
「うん、無効化しよう」
俺の魔封じを解除しようとした相棒の手を止めた。
「戦場はここじゃねぇ。援護出来る事はあるだろ。いってこい!!」
「……わかった、そうだね。いってくる」
相棒が馬車から飛び下り、やや前方でやり合っている二人の元に向かった。
「おっと、抜け駆けはいかんな!!」
御者台の上に立ち、コリーが矢を放った。
なにやら悲鳴のような声が聞こえ、コリーが笑みを浮かべた。
結局、十数分程度で勝敗が決まり、最後まで粘っていた盗賊の一人をケリーが斬り倒して終わった。
「おっ、終わったな。私は定位置に戻るぞ」
コリーが弓を片手に馬車の中に引っ込んだ。
「はい、終わりました。大丈夫ですか?」
御者台に座ったランサーが、心配そうに聞いた。
「ああ、別にダメージはねぇ。相棒、頼んだ」
「うん、分かってる」
相棒の呪文詠唱が始まり、しばらくして俺の寒気は消えた。
「終わったよ。大丈夫」
「おう、助かった。ったく、朝から気持ち悪いな」
「うん、まさか魔法使いが賊にいるとはね」
相棒が苦笑した。
「では、全員無事なら出発します」
ランサーが再び馬車を走らせ始めた。
街道をひたすら走り、陽光がしっかりと地面を差す頃になって、前方に分岐点が見えてきた。
「その分岐を右ね!!」
ケニーが声を上げた。
「はい、分かりました」
馬車はやや速度を落とし、交差点を右折した。
「あと大きな分岐はないよ。ほぼ一直線だね」
ケニーの声が聞こえた。
「だそうです。本当に大丈夫ですか、顔色というか毛並みがボサボサで、大丈夫とは思えないですが……」
「久々に妙なものをもらったせいで、全身の魔力の流れがおかしくなってるだけだ。放っておけば、勝手に治るから心配すんな」
俺はため息を吐いた。
「うん、魔力乱流っていって、封印系の魔法を受けるとしばらくこれに陥る事があるんだ。コーベットの油断が招いた事だよ。危ないな」
相棒が苦笑した。
「ったく、ろくな出足じゃねぇぜ!!」
「ま、まあ、平気ならいいのですが、こんなになってしまうとは」
ランサーが心配そうにいった。
「うん、今回はコーベットが攻撃魔法を放つ瞬間を狙われたからね。行き場がなくなった魔力が体内で暴れて乱流を起こしてるんだ。これが収まるまで、魔法は使えないよ」
「分かってるよ。ほっときゃ一時間もあれば治るさ」
俺は苦笑した。
「……一時間か。ケニー、一番近い村までどのくらい?」
「あと十分もあれば着くよ」
ケニーの声を聞いて、ランサーは頷いた。
「ちょっと様子をみましょう。村内なら変に襲われる事はないと思います」
「大丈夫だって」
ランサーが真顔になった。
「こう考えて下さい。その一時間の間に、魔法しか効かない魔物が出たらどうしますか。一時間も待ってくれませんよ。こう思えば、停止して様子を見るのは当たり前です」
「……はぁ、しょうがねぇな。休むしかねぇか」
ランサーが笑みを浮かべた。
「はい、納得しましたね。村まで、なるべく急ぎます」
こうして、馬車はすぐ先にある村を目指した。
街道に面して休憩の茶店が並ぶ村には、まもなく到着した。
「さて、休憩にしましょう。ケニーとコリーはなにかおやつでも買ってきて下さい」
ケニーとコリーが馬車を飛び下りていった。
「横にならなくて大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。横でも立っていても状態は変わらねぇからな。これに効く回復魔法なんてねぇし、待つしかねぇんだ」
「そうだね、これに効く回復魔法なんてないよ。地味に待つしかない」
相棒が苦笑した。
「今まで何度もこの状態のコーベットをみてきたから、僕は慣れっこだからね。アンチマジックメイジャーの対策をしないなんて、油断しすぎだよ。
「……返す言葉がねぇよ」
俺は苦笑した。
「あの、素朴な疑問なのですが、なぜコーベットだけ狙い撃ちにされたのですか。魔法が使えるという意味では、全員該当すると思いますが……」
「それは、俺が使おうとしたのが攻撃魔法だからだ。狙われた段階で、まっとうな魔法使いなら感知できるんだよ。だから、魔法は攻撃より防御魔法の方が有利だっていわれてる。そこを逆手に取って、俺の攻撃魔法が発動寸前ってタイミングで、無効化魔法を使われたんだ。あの短時間で、一瞬の駆け引きするのが魔法戦だ」
俺は笑った。
そこに、おやつを抱えたケニーとコリーが戻ってきた。
「コーベットの具合は?」
「とりあえず、団子を買ってきたよ」
「なにか小難しい事をいえるようなので、本人のいう通り大丈夫のようです」
ランサーは苦笑した。
「いっただろ、放っておけば治るって。怪我でも病気でもないんだからよ」
俺は笑った。
「まあ、だったら団子でも食え。どうせ、饅頭みたいに知らないだろ!!」
コリーが球状の物体が三つ刺さった串を俺の顔の前に差し出した。
「……なに、口を開けろってか?」
「おうよ、物覚えいいな」
俺は苦笑して、口を開けた。
予想より早く、俺は回復した。
「よし、もう問題ねぇぞ」
「分かりました。では、出発しましょう」
馬車を駐めていた村の出入り口から動こうとしたとき、八頭立ての馬車が通り過ぎていった。
「高速郵便馬車ですね。よかったです、背後につかれると道を譲るのに大変で」
ランサーが笑みを浮かべた。
「へぇ、馬車も色々あるんだな」
「乗合馬車の特急便も大変です。大きな街道だけ走っていますが、あれは十六頭立てなので、譲る場所がなかなか難しいですよ」
ランサーが改めて馬車を動かし、再び馬車は進み始めた。
ガタガタ揺れながら進む馬車は、程なく見えてきた次の村をそのまま通過した。
「この街道は港があるリュクセンに直結してる街道なので、比較的交通量が多いです。ということは、盗賊も多いという事になります。無理しないで休んだ理由はここにあります。万全で挑まないといけません」
「なるほどな。油断はできねぇか」
俺は小さく息を吐いた。
「まあ、噂ですがこんな旅人が乗っている馬車か、金目のものを満載した荷馬車か、手慣れた輩には簡単に分かるそうで、私たちはまず厄介な賊には狙われないはずですが。街道パロールも頻繁ですし、隠れる場所がないので魔物は少なめと聞いています」
「分かった。ワーム系は気をつけた方がいいけどな。あれは、地中からいきなり顔を出すからよ」
俺は周囲の気配を探ったが、揺れる馬車の上ではそう上手くいかなかった。
「相棒、どうせ探索の魔法使ってるんだろ。どうだ?」
「うん、使ってるけど異常はないよ」
俺の後ろから相棒の声が返ってきた。
「なんかあったら教えてくれ」
「分かってる、いわれなくてもそうするよ」
俺は笑みを浮かべた。
「なるほど、ここはコンビの強みですね」
ランサーが笑った。
「いつもこのパターンだ。探査魔法は俺も使えるが、相棒の方が精度も確度も上だからな」
馬車は快調に走り続け、五個目の村が見えてきた頃だった。
動きはトロいがデカい人間型の何かが、俺たちの方に向かって歩いてきていた。
「なんですか、あれは?
「ああ、魔法人形ともゴーレムともいうが、要するに魔力で動く人形だ。簡単な命令しか実行できねぇがな。村に向かってるこっちに向かってきたって事は、大体の予想はできるぜ」
俺は笑みをうかべ、呪文と同時に杖を抜いて攻撃魔法を放った。
光球が巨体に向かって飛び、まずは右足を吹き飛ばした。
「村に向かってくるヤツを攻撃しろってんだろ。見え見えだぜ」
片足を失い、地面に倒れ込んだ巨体に、俺は再び呪文を唱えた。
まさに這ってでも俺たちを攻撃しようとしていた巨体が、粉々になって飛び散った。
「材料は土塊……クレイゴーレムか。この程度なら、ある程度の魔法使いなら余裕で倒せるが、打撃でやろうとすると、日が暮れちまうぜ」
俺は苦笑した。
「なんだってこんなもの作ったんだ。村に入れないって事は出る事もできねぇんだぜ。そこまで見分けつかねぇからよ」
「そうですね、慌てた様子で門を開けているのも気になります。聞いてみましょうか」
ランサーが笑みを浮かべ、程なく馬車は村に入った。
「いやぁ、感謝だよ。昨日泊まったヘボ魔法使いが、練習とかいって村の外でやりやがってな。本人はそのまま逃げちまうし、どうすりゃいいのか分からねぇしで困ってたんだ」
馬車を止めるなり、いきなり村人たちに囲まれた。
「なるほど、それは災難でしたね。もう大丈夫です」
代表してランサーが応対した。
「どうお礼していいか……」
「ただの通りすがりですし、気遣いは無用です。では」
ランサーが笑みを浮かべ、馬車をそっと出すと、囲んでいた村人が一斉に離れた。
そのまま街道に出て、馬車は徐々に速度を上げていった。
「なんだ、ちょいちょい何かが起きてるな」
「まあ、これだけの距離を移すれば、どこかでなにかが起きていても不思議ではありません。歩きは歩き、馬車は馬車でまた違うものです」
ランサーが笑みを浮かべた。
「確かにな、まずスピードが全然違うぜ。これはこれで、いいな」
俺は行く先の景色を見つめ、笑みを浮かべた。
正確な時間は分からないが、ちょうど昼メシ時だろうという時間で小さな街に到着したため、馬車を駐車場に駐めて、俺たちは店探しに奔走するハメになった。
俺と相棒がモロに猫なので、多分変なペットか何かだと思われたのだろうが、衛生管理上の問題で……と、やんわり断られまくったのだ。
結局、テラス席とかいう外に張り出した床の席ならいいという小さな店をみつけ、なんとか昼メシにありついた。
「これでもよかったぜ。俺と相棒だけだったら、多分どの店もダメだぜ」
「そうだね。二人じゃなくてラッキーかな」
「全く、これだから人間は……これからは、弁当にしましょうか。その方が落ち着くでしょう」
ランサーが苦笑した。
「俺も相棒も贅沢はいわねぇよ。食えればいいさ」
「うん、なんでもいいよ」
俺と相棒は顔を見合わせて笑った。
「あるいは、街の外で自炊でもいいかもね」
ケニーが笑みを浮かべた。
「ああ、それいいね!!」
コリーがそれに乗った。
「それは非常時用と考えてはいたのですが、無理に街や村に合わせなくていいという利点もありますね。まあ、臨機応変にやりましょう」
ランサーが纏め、昼メシも無事に終わった。
再び馬車に乗った俺たちは、街道を一気に駆け抜けていった。
いくつも村や街を通過し、空は徐々に夕焼けに染まってきた。
ランサーがふと道ばたに馬車を止めた。
「次の村までは間に合いません。まだ明るい今のうちに野営の準備をするか、徹夜で走るかを決めましょう」
「僕は野営の方がいいと思うよ。この先に進むのは危険かな」
「同感。この先はちょっとした山を越えるから、山中で野営なんてハメにならないように、今のうちに夜をやり過ごす準備をしよう」
相棒とケニーがそれぞれいった。
「だそうです。リーダーの意見は?」
「意見もなにも、地図みてる二人が揃って野営推奨なら、俺は反論できねぇだろう。今日はここまでだ」
「分かりました。では野営の準備をしましょうか。面倒なテント張りからやります。ケニーとコリーもよろしく」
「いつも通りだね」
「久々だ!!」
ケニーとコリーも馬車の中の箱からなにやら取り出し、馬車から降りてなにか作業してるようだった。
「……おい、相棒」
「……だって猫だもん。猫の手を借りても、全然役に立たないよ。猫パンチしても意味ないし」
俺と相棒は同時にため息を吐いた。
「せめて、アラームでも仕込むか?」
「終わってからね、じゃないと範囲が分からないよ」
アラームとは魔法の一種で、警戒ラインを越えると派手な音が鳴る。
それ故に、変なところに仕掛けるとただ邪魔なだけになってしまうのだ。
「とりあえず、馬車から降りようぜ」
「そうだね、ここでじっとしてる意味がないからね」
俺と相棒は馬車から降りた。
「早いしすげぇ……」
道ばたの草原には小ぶりの家のようなものが組み立てられ、布製の屋根ようなもので家の周囲が覆われていた。
「……おい、思ったより広いぞ」
「……うん、アラームは僕がやるよ」
「宿泊はこんな感じです。ヒソヒソしてどうしましたか?」
ランサーが近寄ってきて、笑みを浮かべた。
「いや、警戒用のアラームって魔法を仕掛けようと思ったんだけどな。予想より広かったから相棒の出番だなって話をしてたんだ」
「そんな魔法があるんですね。ぜひお願いします」
「仕掛けるのは寝る前だ。うっかり警戒エリアから出ると、ものすごい音が出るからよ」
ランサーが笑みを浮かべた。
「分かりました、ケニーとコリーはすでに夕食の準備をしています。これも、旅の楽しみかもしれませんよ」
「だな、こんなのやった事ねぇからな」
「これはこれで、楽しそうだね」
相棒が笑った。
「さて、食事が出来るまではお二人はテントの中にいて下さい。暗くなると大変なので、食事は明るいうちに済ませましょう」
ランサーが笑みを浮かべた。
「テントって、あの家みたいなやつか?」
「はい、食事が出来次第呼びにきますね」
ランサーが、なにか作業している場所に移動し、俺と相棒は出入り口が開けっぱなしのテントとやらに入った。
「へぇ、しっかり出来てるもんだな。これを、あの短時間でか。すげぇな」
「うん、僕も驚いたよ」
俺たち全員が入っても、まだ余裕がありそうなテントの中は、なかなか快適だった。
「まあ、立ってるのもなんだ。座ろうぜ」
「うん、ちょっと疲れたよ」
この旅程の遅れは、街で昼メシが食える場所を探したからだった。
急ぐ旅ではないが、これはさすがに問題だろう。
「はぁ、眠いぜ……」
猫箱のスタイルで座っていると、よく寝られなかった分の睡魔が襲ってきた。
「寝ちゃいなよ。見張りは僕だね」
相棒が俺の隣に座った。
「ここで寝ちまったら、晩メシの時にまた中途半端で起きちまうだろ。だから、今は寝ないでおくさ」
「そうだね、もうすぐかな……」
相棒がいったとき、のぞき込むようにしてケニーが顔を見せた。
「もうすぐだよ。煮込めば終わりだから、はぁ疲れた。
ケニーがテントに入ってきてそのまま横になった。
「さすがに一休みってところ。野営なんて久々だからね。楽しいけど疲れるよ」
ケニーが小さく笑みを浮かべた。
「俺たちは初めてだな。こんなデカいテントだっけか。それとは思わなかったぜ」
「テントも色々あるけど、これは大型の方だね。ランサーの拘りで簡単に立てられるように改良してあるんだ。重いけどね」
ケニーが笑った。
そのとき、コリーが顔を見せた。
「こら、サボるな。もう出来たよ!!」
「出来たって、いこうか」
ケニーがテントから這い出たので、俺たちも外に出た。
「適当に野菜を切ってスープにしただけ、パンもあるよ」
コリーが笑った。
「いつ使うか分からなかったので、足が早い肉類は購入しなかったのです。そこは、ご容赦を」
ランサーが苦笑した。
「適当ってわりには美味そうだな」
「うん、お腹空いたね」
俺と相棒は、鍋なんかを載せて火が使えるようになっている機械をみて、やっぱり旅慣れているなと思った。
「それじゃ、食べちゃおうか」
「私が配膳します。猫チームは二人が持っていくのを待って下さい」
ケリーとコリーは、起用にスープが入った皿を二つずつ持って、簡易式の折りたたみテーブルの上に乗せた。
「パンを持ってくるから待ってて」
コリーがカゴに入れたパンを持ってきた頃には、もう空には夜闇が迫っていた。
「急ぎましょうか、いただきます」
最後に自分のスープを持ってきたランサーが、テーブルの上に置くなり挨拶をしてきた。
こうして、まるで夜闇に急かされるような晩メシが始まった。
「おかわりたくさんあるから、ガンガン食べちゃって」
コリーが笑みを浮かべた。
晩メシを済ませた俺たちは、カンテラというらしいが、火の明かりをテーブルの上に置き、適当に雑談していた。
辺りはすっかり夜になり、静かな夜を迎えた。
話題も尽きた頃、俺は椅子の上に立ち上がった。
「そろそろ寝た方がいい時間だろ。相棒がアラームの魔法を使うから、地面に浮かんだ線を越えないようにな。マジでうるさいから」
「うん、あれは誰だって起きるよ」
相棒が笑い、素早く呪文を唱えた。
いびつな円が馬車を含んで俺たちを取り囲み、かなり余裕をもって描かれた。
「これでいいでしょ。あまりギリギリでも狭苦しいからね」
「いいんじゃねぇか。もっと広い方がいいとか、注文を出すなら今のうちだぞ」
俺の言葉に全員頷いた。
「いいみたいだぜ。あとは、見張りは俺と相棒でやるから、あとはしっかり寝てくれ。明日まで疲れが残ると困るし、夜目が利く俺たちがベストだろ」
「それやるなら、私たちも混ぜてよ。猫ほどか分からないけど夜目は利くし、二人一組で行動した方が安全でしょ。私はムスタと組みたいな、ケリーはコーベットでどうかな?」
「結構大変だぜ。まあ、相棒が嫌って言わなきゃいいと思うけど、どうだい?」
「うん、僕は構わないよ。これなら、猫の特技とエルフの能力が活かせると思うし。これで、コリーが平気ならいいんじゃない」
相棒が笑みを浮かべた。
「コリーはどうだ?」
「私でよければいいよ。頑張ろう!!」
コリーが小さく笑った。
「はい、決まったようですね。よろしくお願いします」
俺たちのやりとりをみていたランサーが、気のせいか嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。
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