第17話 ここが我が家だ

 明け方近くなって、ちょうど交代で起きていた俺は、相棒をそっと揺り起こした。

「あれ、もう時間?」

「ちょっと早いが、このくらいでちょうどいいだろ」

 俺と相棒は伸びをして眠気を払ってから、部屋の外にでた。

 一階に下りるとまだ誰もいなかったので、ゆっくりと全身のグルーミングに取りかかった。

 そのうちに時間が過ぎ、毛並みが整った頃になって、ランサーが下りてきた。

「おはようございます。ずいぶん早起きですね」

「ああ、もう時間だからこれ以上寝なくていいやってなってな」

 俺は苦笑した。

「そうですか。私は馬車を準備してきます。二人が起きてきたら、宿の前にきてください」

「分かった」

 ランサーが宿を出ていき、しばらくすると外で馬の蹄の音が聞こえてきた。

「もう馬車は完了らしいな。あの二人は寝坊かよ!!」

「いや、僕たちが早すぎるんだって。もうくるんじゃないかな」

 相棒が小さく笑った。

 その言葉を証明するかのように、バタンと派手な扉の音が聞こえ、慌てた様子でケニーとコリーが下りてきた。

「なんか聞き覚えのある馬の蹄の音が聞こえたと思ったら、やっぱり出遅れた!!」

「ごめん、寝坊した!!」

 ケニーとコリーがそれぞれいった。

「いや、これが多分普通の明け方だと思うよ。僕たちが早すぎるだけだから」

 相棒が笑った。

「そういえば、寝るのが早すぎて起きちゃったから、みんなの朝食作ってからまた寝たんだよね」

 ケニーが一階食堂の奥にいった。

「はい、これ。門で散々待つし持っていこう」

 大きなバスケットを二つも抱え、ケニーは宿の外に出ていった。

「それじゃ、俺たちも行こうぜ」

 宿の外に出ると、見覚えのある幌馬車が駐まっていた。

「集まりましたね。乗ってください、いきますよ」

 俺たちが馬車に乗り込むと、まずは適当に座ってランサーの運転で門に向かった。

 いくらなんでも早い時間らしく、馬車は門の最前列をキープして止まった。

「はい、まずは朝ご飯。適当に作ったサンドイッチだけど、食べて!!」

 ランサーも御者台から中に入ってきて、ケニーが開けたバスケットの中にあった何かを取った。

「あー、その顔はサンドイッチも知らなかったな!!」

 コリーが笑った。

「……なあ、あんなハイテクなもの知らねぇよな」

「……ハイテクじゃなくてハイソじゃないの?」

 俺と相棒がヒソヒソやっていると、コリーが三角形に切って、中に何かを挟んでいるパンを俺の前に差し出した。

「どうぞ」

「は、恥ずかしいぞ」

 思わず相棒をみると、普通にケニーに食わせてもらっていた。

「なに遠慮してるの。毒なんて入ってないから」

「わ、分かったよ!!」

 俺は口を開け、パンを囓った。

「美味いな……」

「ケリーの得意料理だよ。色々味があるから、適当に取ってあげるよ。

 自分もサンドイッチとやらを食べながら、コリーが笑った。

 こうして小っ恥ずかしい朝メシも終わり、ケリーが地図を取り出した。

「これは、昨日複製させてもらった地図だけど、ケイプヒルまではなにもなければ街道を真っ直ぐで大丈夫だよ。こうやって、事前に情報を教えておくんだ。走り出してからいっても遅い場合があるから」

「分かった、なるほどね」

 ケリーの言葉に相棒が頷いた。

「君は私の隣で直接いって。可能な限り合わせるから」

 ランサーが俺の頭を撫でた。

「まあ、基本は任せるぜ。それでいいだろ?」

「もちろん、それで十分です」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「ねぇ、地図に『アーガイプ渓谷』って赤文字で書き込んであるよ。『この絶景は一度はみておくべし』って書いてあるし、街道からそれほど外れた場所じゃない。北東街道の起点から入れるよ。帰りに寄ってみよう」

 地図を見ながら相棒がいった。

「えっ、どこにそんな……あった。変わった描き方している地図だから、見落とし注意だね」

 ケニーが苦笑した。

「北東街道の分岐ってそんなに遠くないですよ。今まで何度も通って、特にこれといったものはなかったはずですが……さすが、マックドライバーといったところですね」

 ランサーが笑った。

 こうして、俺たちが時間が過ぎるのを待っていると、周囲が騒がしくなってきた。

「そろそろ開門時間ですかね。では、準備しましょうか」

 ランサーに目配せされ、俺は御者台に乗った。

 ランサーが隣に座り、手綱を持ってしばし。

 街の門が開くと当時に馬車は街の外に出て、街道を進んでいった。


 目的地のケイプヒルまでは、二頭立てのこの馬車なら荷物満載でも数時間らしい。

 ほぼ明け方に出発した馬車は、かなりの速度で街道を突き進んでいた。

 こうすれば、魔物などに狙われる心配が少ないらしく、実際ここまで一回もそういった連中に出遭っていなかった。

「あのよ、聞きたかったんだがよ。なんで俺たちにここまで関わる気になったんだ。嫌でいってるわけじゃなくて、単なる興味なんだけどよ」

 俺はランサーに苦笑した。

「そうですねぇ、危なっかしくて勝手に動いてしまったというところでしょうか。私だけではなく全員猫好きですし、不思議ではないでしょう」

「まあ、実際助かってるからいえた義理はねぇんだけどな、無理して俺たちに合わせなくていいぜ」

 俺は笑みを浮かべた。

「無理なんかしていませんよ。手狭になっていた宿を引き払って、今の宿に引っ越しするきっかけをもらいましたからね。長年のお付き合いがあって、同じ街で他の宿に引っ越すなんて、なにか理由がないと無理ですから。お客さんのえり好みはしない宿でしたが、喋る猫となると、要するに猫だよねぇとなってしまうのです。こうなると、宿を替えるしかありませんから、私たちは満足していますよ」

 ランサーが小さく笑った。

「まあ、毛が抜けるとか理由があって拒絶されるのは分かるんだが、半日探して全滅っていうのも悲しいもんだぜ!!」

「それは、私たちも似たようなものです。猫より気持ち楽なくらいですよ。ドワーフとエルフが同時にいるという点で、かなり怪しいですからね。幌馬車を使う理由の一つがここです。どこにも泊まれなかった時に備えて、いわば臨時の小屋として使うためですね。このところいつもの街に腰を据えているので、その心配はないですが」

 俺は苦笑した。

「俺や相棒を連れていたら、間違いなくどこも泊めてくれねぇぞ。臨時の小屋が役立っちまうぜ!!」

「その時はその時です。まあ、大抵は少し料金を増すだけで泊めてくれます。猫だけだと、なにかあったら困ると完全拒否でしょうがね」

 俺は苦笑した。

「ひでぇな。ちゃんと会話出来るだろうに。これだから、人間はよく分からねぇぜ」

「まあ、そういうものです。私も分かりません」

 ランサーが苦笑した。

 馬車は快調に飛ばし、行く先に村の姿が見えてきた。

「おや……」

 ランサーの目が細くなった

「ああ。やられてるな。交戦中ってところか。連中の裏に回り込んでくれ。ぶちのめしてやる」

 俺は腰の杖を抜いて構えた。

「裏に……了解」

 馬車が大きく街道を外れ、草原の中を走り始めた。

 村を大きく迂回するように飛び出た馬車が、砂糖に群がる蟻のように襲撃を仕掛けている盗賊団の真裏に出た。

 俺は呪文を唱え杖を振りかざした。

 無数の光りの矢が撃ち出され、狙った盗賊の輩のみに命中して小爆発を起こした。

 それで息を吹き返した村の自衛団の攻撃によって、盗賊の群れは散り散りになり敗走していく様子が見えた。

「……もっと村から離れろ。一発で仕留めてやる。

 俺は舌で口の周りを嘗めた。

「はい、これまでにしましょうか。ダメですよ、悪い事考えたら」

 ランサーは苦笑し、馬車を村に向けた。

「盗賊を一網打尽にするのって悪い事なのか?」

「敵意を持っていない相手を攻撃したら、やってる事は違ってもあの輩と同じです。今は、村の被害状況確認とパーティの更新手続きが先です」

 ランサーは笑みを浮かべた。

「そういわれたらそうなんだけどよ……まあ、なんか面倒そうだしそうした方がいいか」

「はい、同じ苦労をするなら、こちらが優先です」

 馬車は草原を走り、再び街道に戻って閉じたままの村の門の前で停車した。

 しばらくして門が開き、慌てた様子の住人が三人ほど飛び出てきた。

「通りすがりのようだが、助力感謝する。ついでといったら申し訳ないが、けが人が多数出ていてな。治せる人がいたら治して欲しい。この村には医者がいないんだ!!」

「おーい、相棒。お呼びだぞ」

 俺は後ろを振り向いていった。

「うん、分かってるよ。さて、一仕事しようかな。コーベットもきてよ」

「分かってるって、やれやれ」

 俺が隣のランサーをみると、すぐに頷いた。

「私たちも手伝いに出ましょう。怪我した方の移動や介助は出来ると思います。

 こうして、結局全員で馬車を降り、俺は回復魔法を使う相棒の隣に立った。

 昔からそうなのだが、俺がこうやっている方が術の精度も確度も明らかに差が出るのだ。

 これは、本人も分からないようだが、気持ちの問題だろうという極めてシンプルな結論に至っていた。

「こりゃ、大変だね。十人かそこらだと思っていたけど」

「そうか、あの数の盗賊とまともに張り合っていたとなれば、むしろ少ないと思うぞ」

 俺の返しに、相棒が笑った。

「僕が座っていた場所からは、人数まで分からないって。よし、頑張ろうか」

 ……かすり傷程度の人は除き、骨折などの重傷を負った人だけで二十六人。死者が出ていないのは幸いだった。

「さて、予想外の事でバタバタしましたが、役所は通常業務をしているようですね」

 騒ぎの片付けが進む中、ランサーは馬車をゆっくり走らせ、村役場前の駐車場に駐めた。「明かりは点いているな。それどころじゃない気がするけど、行ってみるか」

 俺たちは馬車を降りて、全員で役所の建物に入った。


「ああ、先ほどはお世話になりました。私は村長のグランデと申します」

 こういった建物は初めてだったが、どことなく無機質に感じる広い空間で、いきなりすっ飛んできた爺様にお礼をいわれた。

「いえ、冒険者なら当然のことです。一番功労があったのは、こちらの猫たちです。

「猫?」

 村長の目が俺と隣に立っている相棒に向けられた。

「はい、こう見えて魔法の使い手なのです。ね?」

 ランサーに見つめられ、俺は苦笑した。

「そうそう変な目でみないでくれよ。探せばどっかの路地裏にいる喋る猫だぜ」

「おっと、失礼。初めてお会いしたもので、あの攻撃魔法はこちらの?」

 村長が俺にチラッと視線を向けた。

「俺は他に芸がなくてね。こっちの相棒はすげぇんだけどな。そんな事より、やる事やっちまおうぜ」

 俺はランサーをみた。

「ああ、そうですね。私たちが冒険者なのはお察しとは思いますが、この猫たちをパーティに加えたので、パーティ登録の変更をお願いしたいのです。よろしいでしょうか?」

「はい、もちろんです。七番の冒険者相談課窓口で手続きをお願いします」

「ありがとうございます、では」

 村長と別れどこまでも続きそうな長いカウンターの前を通り『⑦ 冒険者相談課』と簡素な案内板が建てられた窓口の前で止まった。

「ここは私がやります、後ろのソファにでも座っていてください」

 さすがにこれは、俺では難しいだろう。

 カウンター越しに、係のお姉さんとランサーが喋り始めた。

「なんか、落ち着かないな」

「うん、こういうのは苦手だね」

 カウンターと通路を挟んで、反対側のソファに腰を下ろしてるのは、他でもないケニーとコリーだ。

「落ち着かないよね、私もそうだった」

「うん、なんか怖いんだよね」

 ケニーとコリーがそれぞれ笑った。

 長々とお姉さんと話していたランサーだったが、苦笑してカウンターを離れた。

「お待たせしました。登録が完了しましたが、まずは種族が猫ではダメだったので係の人と相談して『オシャベリネコ』にして、街のあの宿を住所にして住民登録しました。こうしないと、冒険者として登録出来ないので。ケニーとコリー、私も同様に住所を変更してあります。変更点はそのくらいですね」

「お、オシャベリネコ……」

「うん、すっごい種族が生まれたよ」

 相棒が笑った。

「住民登録したという事は、この国の正式な住民であるという事です。税金などの面倒な事は慣れている私がやりますので、気にしないでいいです。さて、これで面倒な役所仕事は終わりです。街に帰りましょうか」

「ま、まあ、化け猫よりはいいか……」

「うん、よかったよ。オシャベリネコってそのままだね」

 俺と相棒は苦笑した。


 役所前に駐めてあった馬車に乗ると、地図を確認した相棒がいった。

「まだ昼前だし出発前にいったアーガイプ渓谷にいってみよう。北東街道の分岐点を街道側じゃなくて、反対側に曲がればいいよ。馬車が入れるかは分からないけど」

「その辺りは、いってから考えればいいだろ。その前に、真っ直ぐ帰りたいヤツはいるか。全員が乗り気じゃない時はやめておこう」

 俺の問いかけに全員が沈黙で答えた。

「分かった、いこうぜ。一生に一度はみておくべき光景ってヤツを拝みにな」

 俺は笑みを浮かべた。

「あらら、すっかりリーダーやってるじゃないですか。私は副リーダといったところですかね」

 ランサーが笑った。

「ここで嫌っていってもやらされるだろ。だったらやってみるさ」

 俺は苦笑した。

「その意気です。では、その噂のアーガイプ渓谷に寄り道して帰りましょう。北東街道の分岐は頭に入っていますので、取りあえずそこまでいってみましょう」

 俺とランサーは御者台に移動した。

 馬車はゆっくり走り出し、村の門から街道に出ると速度を上げて進み始めた。


 どれくらい走ったか。

 草原の中を走る他の街道が分かれている場所が近づくと、ランサーはゆっくり馬車を止めた。

「ここが分岐点です。見たところ、何かがある感じではないですね」

「馬車の上じゃ分からないかもな。降りてみんなで探してみようか」

 俺たちは馬車を降り、一見すると深い茂みにしか見えない道ばたに突っ込んだ。

「ん……道があるぞ。おい、ここだ!!」

 茂みをかき分けた先に、かなり痛んではいたが馬車も通れる道があった。

 全員が集まってきてちょっとした歓声が上がった。

「この邪魔な茂みがなければ、馬車で行けそうなんだけどなぁ。攻撃魔法なんか使ったら最悪道が崩壊するかもな」

 俺は苦笑した。

「無理はいけねぇな。馬車を空にはできねぇから、交代でいくか?」

「それでもいいですが、私の武器は斧なので、この程度の茂みならすぐに排除出来ますよ」

 ランサーは背中に背負っていた斧を手に持った。

「そりゃいいな。早速やってくれ」

「はい、分かりました。では……」

 バカデカい斧を片手で易々もったランサーは、バリバリと激しい音を立てながらあっという間に茂みを片付けてしまった。

「はい、終わりました。こんな道が潜んでいたなんて、全く思いもしませんでした。

 ランサーが笑みを浮かべた。

「それじゃ、行ってみようぜ」

 俺たちは馬車に戻り、茂みに覆われていた道へと進んだ。


 どれくらい続くかと思っていたが、馬車は程なく終点に到着した。

 まるで展望台のようになった広いスペースにはなにもなく、その先にはどうやって出来たのか、まるで爪で引っ掻いたように、荒々しく深い谷が広がっていた。

「すげぇ、草原からいきなり谷だぜ。しかも、深い……」

「うん、普通じゃないね。こんな地形あり得ないから」

 俺の声に相棒が返してきた。

「こ、これは……」

「凄すぎるぞ……」

 ケニーとコリーがそれぞれいった。

「本当に、世の中不思議な事が多いですね。だから、冒険はやめられないのです」

 絶景を眺めながら、ランサーが笑みを浮かべた。


 しばし絶景を眺めていた俺たちは、再び馬車に乗って街道に戻った。

「さてと、もう夕方に近い昼だし、真っ直ぐ街に戻ろうぜ」

「そうですね、遅い昼ご飯かあるいは晩ご飯になってしまうかもしれません。出来るだけ飛ばします」

 ランサーが一気に馬車の速度を上げた。

「こりゃ速い。無茶はすんなよ!!」

 俺は声を張り上げた。

 そうでもしないと、声が聞こえないのだ。

 それからしばらくして、街の姿が前方に見えてくると、ようやくランサーは馬車の速度を落とした。

 そのまま街の門を通り抜け、広場のすぐ側にある宿の前に駐めた。

「はい、お疲れ様でした。私は馬車を駐車場に預けてきます。持ち物を忘れないでくださいね」

 ランサーを除く俺たちで馬車の点検をして、地図などの大事なものを回収した事を確認してから飛び下りると、ランサーはそのまま馬車に乗ってどこかに向かった。

「コーベット、もう夕方になっちゃったね。でも、これは馬車があったから出来た事だよ。二人で行動してたら、あの分岐点までで下手すれば一日かかったよ」

「だな、馬車様々だぜ」

 相棒に笑みを返すと、俺は大きく伸びをした。

「まあ、積もる話はあとだ。取りあえず一休みしようぜ」

 相棒、ケニーとコリーが頷き、俺たちは宿に入った。


「それでは、私は自分の部屋で地図を整理します。見落としがないかも含めて」

 ケニーが笑みを浮かべ、階段を上っていった。

「私は厨房を借りて簡単な昼ご飯を作ります。出来たら呼びに行きますので、猫チームは部屋で休んでいて下さい」

「おう、助かるぜ」

 俺は相棒と一緒に階段を上り部屋に入った。


「書類上はここが僕たちの家なんだよね。やっと落ち着いた感じだよ」

「ああ、オシャベリネコなんて妙な種族になっちまったがな」

 俺は笑った。

「そんな事はどうでもいいよ。コーベットもそうだけど、みんなで家族だよ。野良出身にしては、堪らなく嬉しいよ」

「まぁな。嬉しくないといえば大嘘になるな。いきなりだから、どうしていか分からんが、こんな感じでいいんだよな?」

「うん、これでいいと思うよ。コーベットも仕切ろうと思えば出来るって分かったしね」

 相棒が小さく笑った。

「ったく、茶化しやがって。まあ、やるだけやるさ」

 俺は苦笑して、床に丸くなった。

「なに、寝ちゃうの?」

「バカいえ、お前じゃないんだからよ。ちょっと疲れただけだ。

 俺は軽く目を閉じた。

「やっぱり寝るじゃん」

「だから、寝ないって。目を閉じただけだろ」

 俺は目を開けて苦笑した。

「あのな、寝るつもりはないが、そんなに寝かしたくねぇのか?」

「そんな事はないけど、寝るならベッドにしないって思ってさ。自分の家と思えば、勢い余って壁爪研ぎとかやりそうだよ」

 相棒が笑った。

「それはやめろ。ベッドねぇ、そのくらいならいいか」

「うん、隣にくっついていいかな。ベッド一つだけど、なにもないとスカスカして落ち着かないんだ」

「いいじゃねぇの。俺は嫌じゃないぜ」

 俺が立ち上がった時、部屋の扉がノックされた。

「お昼出来ましたよ」

 コリーの声が聞こえた。

「ああ、今行く」

 俺はいつも通り先に出て相棒を待ち、相棒が出てくると立ち上がった。

「ケニーは先に行ってます。ランサーが宿に戻りがてら惣菜を買ってきたので、結構豪華な食事になりましたよ」

 コリーが小さく笑った。

「よし、やる気出てきたぜ」

「コーベット、あんまり燃えると太るよ。人の事いえないけど」

 相棒が笑った。

「では、いきましょう」

「ああ、楽しみだぜ」

 笑みを浮かべたコリーに返し、俺も笑みを浮かべたのだった。

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