第15話 新パーティ誕生
街に着き、最初に行った場所は、ランサーの部屋だった。
重たそうな革袋を軽々と担いで階段を登り、扉の鍵を開けて中に入ると、とコリーが続いた。
「俺たちもいいのか?」
俺が聞くと、部屋の中のランサーが笑った。
「当たり前の事を聞かないでくれ。君たちがいなかったらどうにもならなかったんだぞ」
「そうか、じゃあちょっとだけな。いいだろ?」
俺は相棒に問い掛けた。
「まあ、いいと思うよ。いこう」
俺たちは室内に入った。
ケニーが動いて部屋の扉を閉めると、そのまま施錠した。
「金の音がするので、安全策だ。では、山分けといこうか。
ランサーが革袋の紐を解いて、床に中身を開けた。
「うわ、金貨の山だよ!?」
相棒が声を上げた。
「イマイチ分かってねぇんだが。金貨って凄いのか?」
「なにいってるの。普通に暮らしているなら、一枚で半年は遊んで暮らせるほどだよ」
俺の間抜けな問いに、相棒がなぜか怒り気味に答えた。
「お、怒るなよ……って事はなんだ。当面は金の心配はいらねぇって事か?」
「まあ、そうなるな。よし。分けようか。私は細かく枚数を数えたりはしない主義でね。まずは山の半分……こんなものかな」
ランサーが手で山を半分に切った。
それから、片方の山をさらに三つにきった。 「よし、こんなところだろう。一番働いてくれた猫チームは半分持っていく権利がある。異議があるならいってくれ」
「ケニーもコリーもなにもいわなかった。
「い、いや、これはさすがにもらい過ぎな気がするが……」
「う、うん、実際はただ魔法を使っただけだし……」
「謙遜するな、異議なしとして、この配分でいいだろう」
三人はあらかじめ用意してあった様子で、大きめの革袋に三つの切れ目が入った金貨の山を一つずつしまった。
「これだけあると財布なんかに入らないね。コーベットしか使えないけど、ここはマジック・ポケットを使うしかない。
「おお、そうだな。この量をどうやって運ぼうか考えていたんだ。マジック・ポケットなら余裕だな」
俺は呪文を唱えた。
すると、虚空に黒い穴が開き、金貨の山を吸い取っていった。
「なんじゃ、今の!?」
「び、ビックリした」
ケニーとコリーが同時に声を上げた。
「ああ、マジック・ポケットっていってな、亜空間に色々ぶち込んでおけるんだ。念じれば、簡単に取り出せるしなにかと便利だぜ。初級の便利魔法だな」
「初級といっても、独特のセンスが必要というか、実は結構難しいんだよ」
俺と相棒がいうと、ケニーとコリーが俺を見た。
「あの……」
「教えてください。その魔法」
ランサーが吹き出した。
「魔法が憎いほど嫌いなお前たちが、いきなりどうしたんだ」
「これは『装備』だから……教えてください」
ケニーがさらに食いついた。
「まあ、こんなのでよければいくらでも教えるけどよ、魔法が憎いほど嫌いって……理由は聞かねぇけど、俺がゴーストを蹴散らしているのは見るのも嫌だったろうな」
「あれは必要な事だったのと、使っているのが猫だったからです。もし、人間だったら我慢できたか分かりません」
ケニーは苦笑した。
「なにがあったかは聞かねぇし、これは人間が編み出した魔法だ。それでよければ、ペンと紙を用意しろ。ランサーもやるか?」
「そうだな、メシの前に軽く頭を使っておくか。一ついっておくぞ。ドワーフは魔法が使えないというのが定説だぞ」
サンサーの声に俺は小さく笑い。呪文を唱えた。
すると、ランサーの体が光り輝いた。
「な、なんだ!?」
「これが、ランサーが生来持っている魔力だ。これだけ強かったら、マジック・ポケットなんて簡単だぜ」
「うん、結構強いね。ところで、あとの二人が『こっちもやれ』って目でいってるよ』
相棒が小さく笑った。
「あのな、これはお前も出来るだろ」
「出来るけど、ここは先生の出番でしょ。僕は隅っこで見ているよ。
相棒は部屋の隅で丸くなった。
「ったく……どれ、エルフは高魔力って聞いてるからな、その辺りを気をつけて、どうだ」
俺はランサーと同じ魔法を使った。
ケニーとコリーが激しく発光して、部屋中目映い光りに包まれた。
「二人とももったいねぇくらい魔力が高いな。まあ、使うも使わねぇも自由だがよ。とりあえず、マジック・ポケットだな。面倒だから、三人纏めて覚えようぜ。さっき相棒がいったように、ちょっとばかり癖があるが、覚えちまえば楽だぜ」
俺は目を細め、小さく笑みを浮かべた。
「うわ、便利すぎる!!」
「……くそっ」
「……なんだ、この底知れぬ敗北感は」
結局、マジック・ポケットが使えるようになったのは、コリーだけだった。
「こんなの、寝ながらでも練習できる。よし、メシいこうぜ」
「はぁ、そうだな。ランチタイムが終わってしまうからな」
苦笑してランサーがケニーとコリーの背中を押した。
「ほら、いくぞ」
「はーい!!」
「コリーのバカ!!」
というわけで、俺たちは食堂に向かった。
「ここの昼定食は肉か魚しかないのだ。どちらかをいえばいい」
「そりゃいい。魚と見せかけて肉だ!!」
「僕はコーベットと一緒でいいよ。なにを頼むのが正解か分からないから、死なば諸共でね」
こんな調子で、昼間もいるらしい店員を捕まえて、ランサーが纏めて注文した。
「仕事の後は、これがたまらないのだ」
ランサーが座って真っ先に飲み物を注文したのだが、エールという酒だった。
ケニーとコリーな仲良く同じ赤い酒で、俺と相棒は水だった。
「それにしても、今回は思い知ったよ。打撃で魔法の代替えはどうしても出来ないとな」
「反対もあるぜ、魔法じゃどうにもならなくて、逃げ帰るしかなかったてな。メンレゲの裏山ですらそんなのがいたんだ。世界にはゴロゴロしてるだろうさ」
俺は苦笑した。
「さて、どうだろうか。この依頼達成で、私たちは自由になったというと語弊があるが、ここを起点にどこにでもいけるように気持ちが切り替わった。君たちは世界をみて回るといっていたが、二人では立ちゆかぬ事も絶対にある。気が許せるなら、私たちも仲間に加えて欲しいのだ」
「おいおい、変な猫二匹だぜ。仲間に加えて欲しいって頼むのはこっちだがな。もちろん、断る理由なんかねぇよ。よろしく頼むぜ」
俺が笑みを浮かべた時、料理が次々に運ばれてきた。
「よし、新パーティ結成の結成だな。リーダーはコーベットだったな。君に一任しようと思う。あくまで、私たちは連れということだ。
「おいおい、猫にリーダやらせてみろ。思いつきでなに言い出すか分からないぞ」
「うん、それを調整するのが僕の役目だね。他にこの役が出来る人はいないし」
「分かってるじゃないか、さすが相棒だな」
ランサーは笑った。
「ったく、俺だったら間違いなく猫なんかにリーダーを託す気にはならんが、何かいう前にどんどん決まっていくな」
俺は苦笑して焼き肉を囓った。
「これ、美味いぞ。食ってみろ」
「そう、それじゃいただきます」
相棒はも一口肉を囓った。
「確かに。あっ、きたきた」
三人分の焼き魚定食が運ばれてきたところで、本格的に昼飯となった。
「世界をみるといっても、色々あるぞ。単に街や村ばかりをみて回るのも面白いが、時々冒険染みた事をしないと飽きてしまうからな」
「俺たちがやってた事はそれだな。ここまではこれといった場所がなくて、移動ばっかりだったけど、あの馬車が使えるだけで助かるぜ!!」
「うん。かなり助かるよ。地図にあってもいけなかった場所が何カ所かあってさ」
相方が笑みを浮かべた。
「地図か。市販品のものでも高価なはずだ。ケニーが持っているものだけでも、いくらかかったかな……という感じだ」
「ああ、地図読みはケニーだったんだね。それじゃ、あとで僕たちの地図を見せるよ。メンレゲに住んでる変なオジサンで、名前もまた変わっていてマックドライバーっていうんだけど……」
瞬間、三人が口の中に入っていたものを吹き出した。
「ゲホゲホ……な、なんだって、マックドライバーの地図だと!?」
三人を代表したようにランサーが素っ頓狂な声を上げた。
「ほらな、ロクなジジイじゃななかったぜ」
「い、いや、この反応は違うでしょ……そう、この旅にでるって話したら大喜びしちゃて、いきなり描き始めちゃってさ。ご飯終わったらみせるよ」
「それは冒険者なら絶対見なききゃダメ。急いで食え」
「あいよ!!」
「はぁ、そうくると思ったよ。
三人がテーブルまでぶっ壊しそうな勢いで、食事を始めた。
「お、おいおい……」
「うん、無理しないでマイペースでいこう」
相棒が笑った。
食事を終えた俺たちは、さっそく、二階に移動した。
「ちょっと待ってて」
俺たちの部屋に相棒が猫用出入り口から入り、見慣れた地図を持ち出してきた。
「ずいぶん小さいな。猫用だから大きく出来なかったのか。まあ、なんとか読めるか」
地図を手にしたランサーが呟いた。
「所々に市販の地図にはないものが色々書き込んであるんだ。僕たちはそれで、市販の地図にはない滝にいったよ」
「ああ、この赤い字で書かれたものか、これは細かくて読めないな」
ランサーがいうと、すかさずケニーが地図を取った。
「……これ、一枚だけ複写していいですか。こんな地図表に出したら、もうそこら中荒らされ放題になってしまいます。複写の目的は、単にみんなで見られるサイズにしたいだけです」
「うん、僕よりこの地図お価値が分かるみたいだし、何枚でも複写していいよ。地図に適当な大きさの紙を持ってる?」
「そりゃ当然持ってるよ。何回も描き直ししてるから」
ケニーが頷き、相棒が笑みを浮かべた。
「それじゃ、ケニーの部屋に行こうか。
「おっ、相棒がなんかやるぞ。いこうぜ」
俺は小さく笑った。
二人部屋の一つを占領しているので、室内は広かった。
「紙はこれいいか。床かベッドに広げればいい?」
ケニーがいった瞬間、手にしていたその紙が一瞬光った。
「ん?」
何か感じたのかケニーは手に持っていた紙をみた。
「うげげ、もう終わってるし!?」
「そんなネタで驚くか。不可能だぞ!!」
笑ってケニーに近づいたコリーの動きが止まった。
「ま、マジだ。地図が出来上がってるよ!!」
相棒が小さく笑った。
「複写の魔法といっておくよ。忠実に複写できたはずだよ」
何事もなかったかのような相棒にしている相棒をみて、ランサーが笑った。
「こういう領域でも猫様の方が上だよ。まいったね」
ランサーはケニーのが持ってた地図を取り上げて、見やすいサイズに丁寧に折るとまたに手渡した。
「意地でもなくさないようにな」
「も、もちろんエラいもの預かってしまった」
その地図を鍵が掛かるトランクに収め、はしっかり施錠した。
「なんだ、おい。お宝が描かれた地図自体もお宝ってか?」
「もちろん、こんな地図他にはないから」
俺の問いに笑顔で答え、はトランクを目立たないところに移動した。
「さて、リーダー。どうしましょうか。半日では、馬車を使ってもどこにもいけないですが……」
「それなら、全員好きにしてればいいぜ。って、マジで俺をリーダーにするのかよ」
俺は思わず苦笑した。
「もちろん、こんな事冗談ではいわないです」
ランサーが笑った。
「へぇ、出世したねぇ。相棒として嬉しいよ」
相棒が笑みを浮かべていった。
「いっておくが、相棒は相棒だぞ。相棒、リーダーってなにやればいいんだ?」
「うん、みんなの愚痴聞き役?」
俺は思わずスッコケた。
「まあ、それも一つあるのは確かです。もちろん、そうした理由は色々あるのですが、どうしたいか伝えてくれればいい。そのように動きます。出来るかどうかの可否も今までの経験で判断して伝えます。リーダーという言い方はちょっと違うとは思いますが、他にいい言葉がなくて」
ランサーが苦笑した
「なるほどな、要するに俺と相棒の旅を手伝ってくれるって事か。そりゃありがたいが、またなんで急にそう思ったんだ?」
「急ではありませんよ。あなた方がこの街にきてから、珍しいのでずっとマークしていたのです。案内所の方にこの宿に誘導するようにお願いし、こうしてみんなで相談した結果です。お節介で申し訳ありません。放っておけなかったのです」
ランサーが頷くと、ケニーとコリーも頷いた。
「ここで、大きなお世話だっていったらスッキリするかもしれねぇが、この先手助けが必要な事は俺も分かっていたからな。頼りにしてるぜ!!」
俺は苦笑した。
「よし、長くなっちまったな。街から出ないで自由行動でいいんじゃねぇか。晩メシは全員集合で」
「では、私は野暮用を片付けてきます」
ランサーが部屋から出ていった。
「野暮用か。なんだろうな」
思わず呟くと、ケニーとコリーが苦笑した。
「旦那さんの墓参りだよ。遺骨はここの墓地に埋葬されているんだ」
「多分、家でも買って定住するんじゃないかな」
ケニーとコリーがそれぞれいった。
「それほどまでに、気に入っているんだな。この街を」
「うん、羨ましいね。メンレゲで生まれ育って、色々あったから思い入れはあるけど、いつか出てやろうって気持ちの方が上だったな。じゃなかったら、コーベットについていく事はなかったと思うよ」
相棒が小さく笑った。
「俺はとにかく出たかったからな。外の景色が見たくてな。それ以外は今のところ考えねぇぞ」
俺は苦笑した。
そんな俺たちを、ケニーとコリーが優しく見つめた。
「そういや、お前たちはなんでだ。人間社会にエルフがいる事も珍しいはずだが?」
「それはね、私たちって結構似てるでしょ。実は双子の姉妹なんだ。エルフって双子は忌み子っていわれて嫌われるんだよ。ある程度自活出来るような年齢になったら、集落から追い出されてさ。気がついたら、ここにいるって感じだね」
ケニーが笑った。
「生みの親が実母だとすれば、ランサーは育ての親みたいな感じなんだよ。今のところ、離れる理由がないってのもあるけど、この関係がいいんだ」
コリーが話を締めて苦笑した。
「なるほどな、俺も相棒も野良だから、そういう話には同情しちまうぜ」
俺は笑みを浮かべた。
「同情はいらないよ、お陰で今があるんだしね」
「そういう事!!」
ケニーとコリーが同時に笑った。
「そっか、それもそうだな」
おれは小さく笑み浮かべた。
「ああ、そうだ。ケニー、地図読みは僕とやろう。急に暇になっちゃうと困るんだ。
「もちろん、大歓迎だよ。一人でやるの大変なんだ、これが」
相棒とケニーが笑った。
「私は戦闘に巻き込まれた時の第一矢を放つ役目で、必ず馬車の最後尾に乗ってるよ。走ってる馬車を襲うなら、後ろからが鉄則だからね。先制で叩ければ、矢の一本だけで決まるときもあるんだな。リーダーはどう考えても、御者台にいるランサーの隣でしょ」
「そうだね、意思疎通の早さを考えたら、その方が絶対いいね」
ケニーと相棒が早くも連携を見せ始めた。
「まあ、それもそうだな。怒られなきゃそうしよう」
俺は笑った。
「さて、俺たちは自分の部屋に帰るぞ。なんかあったら扉をノックしてくれ」
俺と相棒はどの部屋にもある猫用出入り口の潜って廊下に出て、自分たちの部屋に戻ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます