第14話 これが冒険者
日が昇り、時刻は早朝から朝になった。
閉ざされていた街の門が開き、ランサーが操る馬車は街道に進み出た。
「それにしても、どこに行くんだ?」
俺の問いに、同意の意味らしく相棒が頷いた。
「それがねぇ。ランサーも猫並みに気まぐれなんだ。私もコリーも全く読めないんだよね」
ケニーが苦笑した。
「すぐ近所だ、心配するな」
一瞬だけ笑みを後方に向けたランサーの声が聞こえた。
その言葉を証明するかのように、馬車は街道から分岐した細道へと入っていた。
「一つ仕事が入っていてね。魔法が使える猫チームの手を借りたかったんだ。無論、分け前は弾むので、協力して欲しかったのだ。
「なんだ、先にいってくれれば、別に断らなかったのによ!!」
俺が相棒を見ると、小さな笑みが返ってきた。
「仕事ってなに?」
「なにも聞いてないよ」
ケニーとコリーが声を上げた。
「それは、いってないからな。いつも通りでいい。どのみりち、あれは魔法がないとどうにならんからな」
「うぐぇ、まさかあそこ!?」
「うげぇ……」
ケニーとコリーは露骨に嫌な顔をした。
「な、なんでぇ……」
「うん、かなり嫌な場所だね。覚悟しておこう」
相棒が小さく笑った。
「こりゃすげぇ、明るい時までくっきり見えるほど密集しやがるな」
程なく馬車が到着したのは、小さな村の古びた豪邸の前だった。
「うん、これは生半可な魔法じゃ通用しないね」
相棒がのんびりとした口調で、地面に下りた俺と並んで呟いた。
「分かるか、さすがだな。気持ち悪いからという事で、この村から掃除の依頼がきていたのだ。しかし、魔法を使えるものが一人もいなくて往生していた。まさしく、好機だったのだよ」
「無理に触っちゃだめだよ。憑かれて面倒な事になるからね」
相棒が杖を構えていった。
そう、この屋敷に密集していたのは。ゴーストという低級霊だった。
大抵の場合、浄化の魔法であっさり消滅させられるが、ここまで密集されると一発くらいじゃ完全除去は不可能だろう。
「それじゃ、始めるぞ。相棒」
相棒は頷くと呪文を唱え、俺たち全員が青白い光りが覆った。
これは、変なものが憑かないように展開された、特殊な防御魔法の一種だ。
これで準備完了。俺は杖を片手に「破邪の法」という除霊魔法を使った。
屋敷全体が光りに包まれ、怪しく光るゴーストの数は目に見えて減った。
「見える奴らが全部消えたら、今度は建物と敷地だぜ。相手によっては物理的な攻撃が有効な場合があるんだ。つまりは、逆にぶん殴られる事もあるって事だ。突入してからが本番だぜ!!」
俺の声に無言で放つ空気を鋭くした、ランサー、ケニー、コリーの三名。
ランサーは何でも叩き切れそうな大柄の戦闘用の斧を持ち、ケニーは剣を構え、コリーはショートボウという短い弓を取り出した。
全員の準備が出来た事を確認した俺は、惜しみなく浄化の魔法をひたすら使った。
程なく目に見えるゴーストが消え、俺は朽ちかけた門に向かって走った。
「待って、私たちが先頭を行きます」
ケニーが剣を構えて、放っておいても崩れ倒れたであろう門扉を蹴り飛ばした。
そこにランサーとコリーが飛び込み、庭をウロウロしていた動く屍ことゾンビどもをバリバリ倒して倒していった。
「おっと、出たぞ。これだけ密集していたら、絶対いると思ったからな!!」
まるで屋敷に覆い被さるように、巨大な黒い物体が出現した。
「他の連中は気がついてねぇな。レイスの存在に……」
レイスとはゴーストが固まって絡まって出来た巨大な霊体だ。
そんな経緯もあって、ゴーストの上位モンスターに定義されている。
これを目視出来る人間は少なく、気がついたらやられてたというタチの悪さだ。
「ドワーフとエルフも目視出来ないに追加だな。コイツの倒し方も同じだけどよ、魔力使うんだよな!!」
俺は本気で破邪の法を使った。
その途端、屋敷を包む込む勢いだった黒い物体は全身が粉々になって霧散した。
「はぁ、さすがに疲れたな。でも、ここで休むわけにはいかないぜ。中にはまだいるはずだからな」
「ダメだよ。庭のゾンビ排除が終わるまで休憩。分担しないとね」
相棒が小さく笑った。
「分かったよ。それにしても派手に暴れるねぇ。物理的な攻撃なら半端ねぇぜ」
「そうだね。でも、猫じゃ無理だよ」
相棒が笑った。
「よし、庭は片付けたぞ。あとは、建物の中だな」
ランサーが息を吐いた。
「そうだな。もうほとんど残ってないとは思うが、念のためだ」
「うん、分かった」
相棒がさっきと同じ防御魔法を使ってくれた。
「これで、不意打ち食らっても、相手が自滅するだけだ。いこうぜ」
「はい!!」
今度はケリーが扉を蹴破った。
「なんだおい、蹴り飛ばすのが好きなのか?」
「前からやってみたかったんです。この期を逃す手はありません」
ケニーが笑った。
「なるほど、気持ちは分かるな。
「ほら、ボサッとしない!!」
ランサーに尻を叩かれ、ケニーは慌てて建物の中に入った。
「さて、仕事しようか」
相棒が笑った。
「よし、もう一息だ。行くぜ」
俺は建物の中に飛び込んだ。
幸い、三人ともばらけずに行動していた。
外観同様、中もかなり痛んでいた。
俺たちは部屋の一つ一つをチェックしながら家の中を駆け抜けていった。
「これだけ霊が集まったんだ。なにか、理由がある。地上は異常がないとなれば地下だな。あればだけどよ」
「うん、でも確かに地下になにかあるね。微かだけど、変な力場を感じない?」
相棒にいわれて、俺は何か感知出来ないか神経を集中させた。
「……あるな。しかも、この玄関ホールの真下だぜ。どっかに階段があると思うが、探すのが面倒だな。危ねぇから下がっていてくれ」
「ダメだって、この建物が全壊しちゃうって!!」
相棒が笑って呪文を唱えた。
「ああ、ここだね。僕とコーベットじゃ難しいから、三人で蹴破ってください」
「おい、探査魔法まで使って慎重にやって、結局蹴破るのかよ」
俺は笑った。
「よし、そういう事なら任せろ。いくぞ。
「はい」
「これ楽しい!!」
三人が同時に柱に蹴りを入れると、朽ちた扉が破壊され、いかにも怪しい地下への階段が出現した。
「先頭は俺が先がいいだろう。相棒は後ろにいてくれ。後の順番は任せたぜ」
俺がいうとランサーが動きはじめ、ケニー、コリー、ランサーの順になった。
「いいか、いくぞ」
俺たちは地下への階段に足を踏み入れた。
さほど長くはなかった地下の階段を下りると、そこは本来は倉庫にでも使っていたであろう広めの空間が一つだけあった。
「なに、これ?」
空間の中が見えたか、ケニーが声を上げた。
「うん、こういう魔法実験する人って結構多いんだけど、なにが楽しくて不老不死の法なんて作ろうとするんだろうね」
相棒が苦笑した。
「全くだな。部屋全体に魔法陣が描かれてる以上、下手に近寄れねぇな。あの真ん中で白骨になってる野郎はもう動かねぇと思うが、この魔法陣の性質はどうも霊体を呼ぶものらしいから、危ねぇよ。相棒、アレだ」
「うん、それしかないでしょ」
相棒が呪文を唱えると、紫色の光りを放っていた魔法陣が一瞬で崩壊して地下空間は静まりかえった。
「よし、帰ろうぜ」
「そうだな、異議なしだ」
全員で回れ右して、階段を登り玄関ホールで相棒が魔法で全員のコンディションを確認した。
「うん、全員問題なしだね。元凶は絶ったけど、ここにいるだけであまり体によくない。放っておけば、腐った魔力も消滅するけど、今はまだダメ」
「だとさ、急いでこの家から出た方が良さそうだ」
俺の言葉にランサーが笑みを浮かべた。
「そうだな、もう用はないからな。撤収だ」
俺たちは急いで屋敷から出た。
「あの、斡旋所に依頼を出した村長ですが、あの古屋敷の……」
「ああ、全部片付いたよ」
ランサーが苦笑した。
「あの、一体なにが原因だったのでしょうか。再発防止の為にお聞きしたいのですが」
「それについては、この猫に聞いてくれ。私じゃわからん」
村長はポカンした顔をして俺をみた。
「簡単っていえば簡単だ。そうなった原因までは分からねぇが、どうもあそこに住んでた魔法使いが絶対禁忌の術を研究していたようなんだが、なんかミスったんだろ。本人は命をおとし、暴走した魔法が霊魂を呼び寄せるものに変質していたんだ。俺たちがやったのはその魔法陣の解除だ。以上報告おしまい!!」
「喋る猫は置いといて、要するに霊魂を集める魔法を止めて頂いたのですね。これで、あの気持ち悪いものを見なくて済むわけですね。ありがとうございます。報酬を取ってきます」
村長はダッシュであの廃屋を除けば、この村では一回り大きな家に入っていた」
「まあ、これが私たちの仕事なんだ。今回は助かったよ。三人ではどう頑張っても達成出来なかったからね。ゴーストに武器が利かないとは思わなかったからな」
「実はレイスって面倒なヤツも出たんだぜ。気づいてなかったみたいだがよ!!」
「な、なんだと……恩人だぞ。それは」
ランサーがケニーとコリーをみた。
「お前たち、なにか見えたか?」
「参考までに、お前らが庭でゾンビ相手に暴れてる時だ」
俺は笑った。
「き、気がつかなかった……」
「う、うん、全然見えなかったよ」
ケリーとコリーが俺をみた。
「お前ら、猫がいきなり立ち止まってる時あるだろ、天井を見上げてな。なんかいて、それを見てるのかもな。ただぼんやりしてるだけとか、遠くで聞こえた音を分析してるのがほとんどだけどよ」
俺は笑った。
「……猫のあの行動、やっぱりそういう事なの?」
「……コリー、私に聞かれても困るよ」
ランサーが笑った。
「まあ、いいじゃないか。後は報酬をもらえば一件落着だ。実はこの依頼だけが、受けた以上どうしてもやらないといけないが、どうにもならない事でな。オススメの場所なんて嘘を吐いてしまった。申し訳ない」
「いや、こういうのがなかなかなくて、楽しかったぜ」
「うん、面白かった。普段使わない魔法も使えたしね」
俺と相棒は同時に笑った。
「お待たせしました。重いので気をつけて」
そのとき、大きな革袋を台車に乗せた村長がやってきた。
「なに、このくらい大した事ないさ」
ランサーは村長が持ってきた革袋を簡単に持ち上げると、場所の荷台に放り込んだ。
「村長、私たちはこれにて失礼する。この屋敷の四方を厳重に柵で囲って、誰も進入出来ないようにして欲しい。まだ、危ういそうだからな」
ランサーがいうと、村長は頷いた。
「分かりました、早速手配します。ありがとうございました」
頭を下げる村長に笑顔を向け、ランサーは馬車の御者台に乗った。
「よし、帰るぞ」
ケニーが叫び、コリーが馬車に乗り、相棒も飛び乗って最後に俺という時になって、俺は屋敷の玄関に目をやった。
「……やっぱり、近寄ってたらどうなった事やら」
俺は呪文を唱え、威力を最低限に抑えた攻撃魔法を放った。
杖から飛び出した一つの光球が玄関先で炸裂し、ボロボロだった屋敷があっという間に倒壊した。
「な、なに、どうしたの?」
コリーが慌てて声を掛けてきた。
「いやなに、仕事に一つ見落としがあったもんで、それを片付けただけだ」
俺も馬車に飛び乗り、ランサーが笑って出発した。
「見落としですね。確かに。では、帰りましょう」
ランサーが馬車を出し、ゆっくりと村の中を走って道に出ると、きた時とは逆に枝道から街道に出た。
「特に猫チームは疲れた事だろう。宿に戻ってゆっくりしよう」
馬車を走らせながら、ランサーがいった。
「疲れたって程じゃねぇが、ゆっくりはしてぇな」
「うん、僕もそんな感じかな」
相棒が笑みを浮かべた。
「気がついたらもう少しで昼だね。あの宿のランチは好評なんだ。急いで帰ってまずは食べよう。休むのはそれからだ」
馬車は快調に飛ばし、無事に街に着いたのだった。
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