第13話 いよいよ冒険か?

 俺のアンテナに何かが引っかかり、それが部屋の前で止まると、軽くノックされた。

「誰だ?」

 俺はそっと杖を構えた。

『ケニーとコリーです。少しよろしでしょうか?』

 外からケニーの声が聞こえてきた。

「ああ、構わねぇけど扉が開くかは分からねぇぞ。猫用出入り口しか使ってねぇからよ」

『なるほど、試してみます』

 ガチャガチャと音がしたが、扉が開く気配はなかった。

「やっぱり、鍵が掛かってるな」

『予想通りです。では、私の部屋までお願いします』

「分かった、ちょと待ってろ」

 俺は隣でねている相棒を揺り動かした。

「ん……どうしたの?」

「あのケニーとコリーが、なんか俺たちに用事があるみてぇだ。外で待ってると思うから、急いでいこうぜ。

「そうだんだ、分かった」

 相棒は大きく伸びをして、答えた。

「よし、いくぞ」

「うん」

 俺たちは猫用出入り口から外にでた。

「ただでさえ睡眠時間が少ないのに、ごめんなさい」

 ケニーとコリーが申し訳なさそうに立っていた。

 俺の後に相棒が出てくると、二人は軽く頭を下げた。

「なんだ、改まって?」

 俺が問いかけると、コリーが頷いた。

「立ち話もなんです。部屋よりも一階の食堂スペースにしましょうか」

「ああ、どこでも構わんぞ」

 コリーの言葉に俺は頷き、ぞろぞろと階段を下りていった。

 

 閉店して片付けも終わったテーブルの一つを無作為に選び、ケニーとコリーが椅子に座った。

 俺たちテーブルを挟んで座り、ケニーとコリーは苦笑めいた笑みを浮かべた。

「軽くお話しておこうかなと思いまして。私たちは最初は四人パーティだったのです。ランサーの旦那さんなんですけどね」

「はい、それが三人になってしまった理由は、全くの事故だと思うのですが、ある洞窟を探索中にトラップが作動して、ランサーの旦那さんだけなくなってしまったのです。事あるごとに馬鹿野郎というのは、誰かに対してではなく自分に向けてなのです。なので、もしそういわれても怒らないで下さいね」

  コリーとケニーがそれぞれいった。

「いや、怒らねぇけどよ。また、エラい目に遭ったんだな」

 俺は小さく息を吐いた。

「冒険者には常について回る問題です。分かった上でやっているはずですが、今のランサーはどこにもいけないはずなんです。それなのに、あなた方まで巻き込むといったらなんですが、私たちと一緒にあなた方もいこうと誘った時は、本当に驚いたのです。これも回復の一途なのかと思ったもので、勝手な話ですがどこに連れていかれても、軽く流して下さい」

「クレームはあとで私たちが聞きますので、よろしくお願いしましす」

 ケニーとコリーが頭を下げた。

「よっぽどランサーがお気に入りなんだな。まあ、俺も嫌いじゃねぇし、ここまでされたら嫌とはいえねぇぜ」

「そうだね、僕たちで役に立つか分からないけどね」

 俺と相棒は同時に笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。では、やすみましょう。起こしてしまって申し訳ありませんでした」

「いや、これってわりと重要な話だぜ。知らねぇと、よけいに傷を深くしかねないからな。分かった」

 俺は頷いた。

「察して頂いてなによりです」

 コリーが静かに優しく笑み浮かべた

「よし、戻ろうぜ。まだ何時間かは寝られるだろ「

「はい、そうしましょう」

「ありがとうございました。

 交互に返事を返してきケニーとコリーが頭を下げた。

 これが期になり解散して部屋に戻ると、相棒が小さく笑った。

「さて、どこにいくんだろうね。僕たちなんて、いても役に立たないと思うけど」

「俺もそう思ったが、お呼びならなんか意味があるんだろ。まあ、覚悟は決めた方がいいかもな」

 俺は苦笑した。


「すまんな。こんな時間に」

 一階の食堂スペースに揃った俺たちに、ランサーが笑みを浮かべて声を掛けてきた。

「猫的には最高の時間だぜ。さて、どこにいくんだ?」

「それは見た方が早いと思う。大した距離じゃないが、私たちの馬車を使おうか。まあ乗ってくれ」

 ランサーに俺たちは続いて歩いた。

 宿の真正面にある馬車の公共駐車場にいくと、小型ながらもしっかりした幌馬車が駐められていた。

「すげぇな、馬車持ってるなんてよ」

「中古の安物だけど、とにかく頑丈なのが売りかな。まあ、乗ってよ」

 ケニーがいった。

「散らかっててごめんね」

 先に馬車に乗っていたコリーが、中を片付けながら苦笑した。

「俺たちは散らかってても構わんぞ」

 俺と相棒は、揃って馬車に飛び乗った。

 荷馬車に壁と屋根になる布を張っただけだが、なかなか快適そうだった。

「いい感じじゃねぇか。これなら、移動する家としても使えるしよ」

「夏は暑くて冬は寒いよ。家として使うのは無理かな。簡易の寝場所みたいな使い方してるよ」

 コリーが苦笑した。

「なるほどな、だからわざわざ街中の宿を使うんだな」

「そういう事。まあ、他にも理由はあるけど、今はどうでもいいね。点検してるランサーが御者台に座ったら。出発だよ」

「ケニーが笑みを浮かべた時、ランサーが御者台に座って馬車がゆっくり走り出した」

「そういや、この街はまだ探索していないな。あとでやるか」

 俺が呟くと、ケニーが笑みを浮かべた。

「じゃあ、あとで案内するよ。大したものはないけどね」

「それは助かった。よろしく頼む」

 ケリーじゃ笑みを浮かべた。

 馬車は閉じたままの街の門の前で停車した。

「これこれ、時間を間違えると大行列にハマっちゃうからね。そのために、早起きするんだ」

 コリーが苦笑した。

「そうか、出口だけ開いてても意味ないから、こっちも閉じるのか」

「その通り、これが僕が焦る理由だよ。入る隙なんてどこにもないから」

 相棒が笑った。

「それは、私たちも気をつけているんだ。こんなボロ馬車じゃ一晩越すのも怖くてね」

 ケニーが笑った。

「まあ、門が開くまでしばらく掛かるから、なにか適当に話して時間潰そう」

 コリーがいって、俺たちはどうでもいい話を続けたのだった。

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