第12話 ベテランとの出会い
交代で一回ずつ寝て、俺はベッドの上で伏せてなにするでもなく起きていた。
階下の食堂が賑やかになり、いい匂いが扉のこちら側にも漂ってきた・。
「おい、起きろ。メシの時間だぜ」
「あれ、もうそんな時間か。ごめん、寝過ぎた……」
相棒がゆっくり身を起こして、伸びをした。
「さて、一階に行こうか」
相棒が財布を身につけ声を上げた。
「宿代分くらいはメシ食うか。いくぞ」
俺たちは廊下を通って、食堂に下りた。
「おっ、猫の旦那のお出ましだな。今はちょうどピークでな。落ち着いた感じがよければもう少しあとにきてくれ」
宿の兄ちゃんが厨房から怒鳴るように声を上げると、食堂の客の視線が俺たちに集中した。
「こ、これは……出直しても敵前逃亡じゃないよな?」
「う、うん、怖さしかないもん」
そもそもが目立たない事を売りにしてる猫が、こんな賑やかな場所などただいるだけで怖くてしょうがない。
俺は相棒を連れ部屋に逃げ帰った。
「な、なかなか繁盛してるじゃねぇか」
「や、宿よりも食堂で人気なんだね。よく見えなかったけど、いろんな種族がいたよ」
俺は苦笑した。
「俺たちもその『いろんな種族』に入るのかねぇ」
「猫だからねぇ。まあ、人間からみたらそうだろうね。同じ猫からみても微妙だと思うよ」
相棒が笑った。
「はぁ、まあいいや。ちと早すぎたな、確かに飯時だ」
「うん、お酒も入るだろうし、僕たちがウロウロしたら迷惑になっちゃうね」
その時、誰かが階段を上ってくる足音をキャッチした。
「ヤバい、追撃の誰かだ。どっか、隠れろ!!」
「隠れるってどこに!?」
部屋の出入り口付近でワタワタしていると、扉がノックされた。
「ひ、ひゃい?」
思わず変な声が出てしまった。
『ああ、人間の標準語だね。通じるかな、あの私たちと晩ご飯どうですか。慌てて逃げられてしまったので、お誘い出来なかったもので』
扉の向こうから、元気な女性の声が聞こえた。
「……コーベット。どうしよう?」
なんとなく不安そうな相棒に、俺は笑み浮かべた。
「こういうときは、コーベットにお願いするに限るよ」
「おう、任せろ……私たちといったが、他にもいるのだな。種族だけもいいから教えてくれ」
『種族でいえば、私を含めてエルフが二人でドワーフが一名の三人パーティだよ。オマケでいえば全員女の子だよ』
「な、なんだって、エルフとドワーフが一緒なの!?」
いきなり相棒が声を上げた。
『ねっ、珍しいでしょ。興味持ったら出てきてよ
「相棒がここまで反応するって、スゲぇな……」
「そりゃ反応するよ。どっちも数千年単位でいがみ合っている、いわば天敵同士なんだから。気になってきたよ」
相棒の様子に苦笑して、俺は声を張り上げた。
「分かった、今出るぞ。扉の前には立たないでくれ」
『はーい、ありがとうございます』
こういうときは俺が先と、猫用出入り口を抜けて外に出た。
すると、まだ少女だろう、多分という感じの女性がたっていた。
続いて相棒も出てきて、小さく息を吐いた。
「逃げちゃったところ申し訳ないけど、また一階にきてくれるかな、四人掛けのボックス席を確保してるからさ」
「分かった、さっきはいきなりでビビっちまっただけだ。今度は問題ねぇ」
エルフの少女? が小さく笑って、俺たちを連れて階段を下り始めた。
またも視線が集中したが、なにをやっても目立つ俺たちだ。
二度目はどうという事はなく、彼女のボックス席にたどり着いた。
「いや、すまんな。この馬鹿野郎二人が、どうしても話したいと聞かなくてな」
耳が長いエルフは簡単に分かったので、こちら様がドワーフだろう。
なにか力仕事でもしていたのか、筋肉質でスマートな印象だった。
「私の隣でよければ、椅子に巣座ってくれ。先ほどオーナーに子供用の椅子を二つ並べて置いた」
「嫌じゃねぇよ。そりゃ逆だぜ」
俺と相棒がそに椅子に飛び乗った。
「逆とは?」
「ほら、俺たちってどうしても毛が抜けるだろ。靴なんか履かねえからどんなに丁寧にグルーミングしても、綺麗じゃないしな。これで、結構遠慮してるんだぜ」
「なるほどな。しかし、わざわざ呼び立てた以上は、遠慮はいらんぞ。料理を適当に頼もう」
ドワーフの女性は、トレーを持って店内を歩いていた店員を捕まえて適当に注文した。
昼間は見なかったので、夜の間だけ店員を雇っているのだろう。
とまあ、それはさておき、当然のように自己紹介が始まった。
「私が代表しよう。ドワーフのランサーで、この馬鹿野郎二人はエルフのケニーとコリーだ」
「よろしく!!」
「あの、いい加減馬鹿野郎で一括りにするのはやめて……。
俺たちの部屋にきたのは、苦言を呈したコリーと声で分かった。
「馬鹿野郎は馬鹿野郎だ。さて、そちらは?」
「ああ、俺も相棒も野良だから、勝手につけた。俺がコーベットで相棒がムスタだ。種族は分からんが、多分猫? だぜ」
俺は笑った。
「そうか。まあ、食べる方が先だな。ここの料理は、なかなかイケるぞ」
ランサーと名乗ったドワーフの女性が、テーブルの料理を適当に摘まんだ。
「俺たちが嫌われるだろうっていう点がここにもあってな、この手じゃ食器は掴めねえだろ。猫だけどいわゆる犬食いをするしかねぇんだ。そこは、勘弁してくれ」
「安心しろ、それも想定内だ。ちゃんと気遣って一度引っ込んだのに、うちのバカチンの我が儘で申し訳ない」
「さ、さっきからバカばっかだぞ。嫌な事でもあったのか?」
俺がツッコミを入れると、ケニーが小さく笑った。
「分かってるので大丈夫。お二人とも気にしないで」
「なにが分かったんだかな。まあいい、私たちは世界中を巡ってここにたどり着いたのが一ヶ月くらい前かな。ここは居心地もいいし、色々な仕事が舞い込むから路銀を蓄えるにも好都合なのだ」
「へぇ、世界中回ってるんだな。俺たちは、単純に普通に暮らしていた街を出てみたかったって感じだな。とりあえず、国内を色々回って飽きたら帰るし、勢い余って国境を越えちまうかもしれん。そんな適当なノリだ」
俺の言葉に、ランサーが笑った。
「それでいいと思うぞ、そういうロクでなし共の事を冒険者なんて呼ぶんだが、猫二匹のパーティなどまずいなくてな。こうして会ってみたかったのだ」
「そりゃいねぇだろうな。いたら怖いぜ」
俺は笑った。
そのとき、ランサーが追加注文したメシが運ばれてきた。
「その高さなら食えるだろう。私のお勧めだ」
「そのベーコンが絶品なんだ」
コリーが情報を補填してくれた。
「ベーコンね。相棒、熱々に突撃だ!!」
「うん、美味しそうな見た目と匂いだね」
俺たちはその料理をあっという間に食い尽くしてしまった。
「……いけね、ついマジで食っちまった」
「……僕も」
ランサーが笑った。
「気に入ったならまた頼むとしよう」
ランサーはまた店員を捕まえて注文した。
「まあ、今夜は懇親会のようなものとしよう。楽しく飲んで騒ぐ、それでいいだろう」
ランサーが笑い、酒が注がれたカップを傾けた。
いい感じで盛り上がっていると、宿の兄ちゃんがさりげなく伝票をテーブルに置いてった。
「おっと、閉店時間だな。楽しかったので、今日は私の奢りとしよう。猫チームは強制参加だったしな」
「おいおい、この量をただ飯かよ」
俺は慌てて声を掛けた。
「なに、いつも同じ顔ぶれで飲んでいるからな。こんな変なパーティーに声を掛けてくる者もいないし、本当に楽しかったのだ。割り勘とか野暮な事はいわん」
ランサーは笑って、金貨を一枚テーブルに置いた。
「おーい、酔っ払って後で間違えたといっても、その金貨は返さないぞ」
兄ちゃんがやってきて笑った。
「正当な対価だと思っただけだ。こんな薄い酒で酔えるか」
「はいどうも。これも猫様のお陰ってか」
兄ちゃんが店の奥に引っ込んだ。
「ん、俺たちがどうかしたのか?」
「な、なんでもない。君たちには、全く関係ない」
明らかに動揺した様子を見せたランサーだったが、すぐに元の調子に戻った。
「コホン。実は今まで使っていた宿も長くなったので、そろそろ引っ越しを考えていたのだ。そこにきて、君たちの噂をきいてな。早速今日からここの住人になったのだ」
「そうそう、ランサーなんか燃えちゃって、猫のオモチャとか買ってるし!!」
瞬間、コリーの頭にランサーのゲンコツが落ちた。
「全く……今のは聞いていない事にしてくれ」
「お、おう……」
相棒が苦笑した。
「確かに猫様々だね。でも、ずっといるわけじゃないよ。明日には発つつもりでいたから」
「無論、止めたりはしない。しかし、明日一日もらえないだろうか。この近くのお気軽コースで、見せたいものがあるのだが」
相棒が俺の顔をみた。
「そうだな、オススメのようだからな。明日はランサーたちと行動しよう」
「いって損はしないと思う。明け方には出たいのだが、構わないか?」
「ああ、大丈夫だ。さっき寝てるからな。明け方にこの一階でいいか?」
「それで構わん。では、明日に備えて寝るとしようか」
「おう、そうしようぜ」
こうして、俺たちは二階の客室エリアにいった。
「残っていた三部屋を貸し切った。以前から、三人揃って一人になれる空間が欲しかったので、これはちょうどよかったのだ。
「へぇ、ダイナミックなことするねぇ。俺たちは知っての通り201号室だ。どっちかが必ず起きてるはずだからよ。寝られないとかあれば、離し相手くらいにはなるぜ」
「ありがとう。私は202で、コリーが203、ケニーが205号室だ」
「分かった、また明日な」
俺と相棒は猫用出入り口から室内に入った。
程よくランプの光が踊る室内は、なかなかゆっくり出来そうな空間になっていた。
「おい、今気がついたんだがよ、ランサーたちじゃねぇか。俺たちの宿代を払ったの?」
「ああ、なるほど。そうは読めなかったよ」
俺は苦笑した。
「今さら返すともいえねぇな。困ったもんだ!!」
「な、なんでだろう。僕たちってそんなに凄い人……もとい、猫だったっけ?」
俺は苦笑した。
「二本足で立って、喋って、魔法まで使えたら、十分凄い猫って気もするけどな。さて、明日はどこに連れていってもらえるかねぇ」
「うん、地図にもこれといったものは書いてないし、気になるね。」
相棒が笑み浮かべた。
「へぇ、あのマックドライバーですら知らねぇ場所か。そりゃスゲぇな」
俺は笑い杖を持って立った。
「一応、順番でな。夜も遅いから、なるべく横になってろ」
「うん、ありがとう。おやすみなさい」
しばらく床の上でゴロゴロしていた相棒だったが、やがて猫箱スタイルで寝息を立てはじめた。
「よく寝るねぇ、猫だからか。俺も猫だが、こんなには寝られん」
思わず苦笑して、俺は全神経を使って周囲の気配を探り続けたのだった。
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