第14怪 ドッペルゲンガー③
「ねえ、知ってる?」
「清澄生徒会長……」
「元、生徒会長な」
「退学になったって、ほんと?」
「いや、退学じゃない。退学になったのは、誘拐犯の1年の方」
「でも生徒会長は降ろされたっぽいよ」
「あの子、四谷さんを襲った犯人の、一味だったんでしょう?」
「そうそう。犯人グループの名前なんだったっけ? あの……」
「学校の怪団」
「学校の怪団」
「学校の怪団」
「マジ? 俺結構たから先輩のコト好きだったのに……」
「私は正直イケ好かなかったわ。いっつも澄まし顔で、お高くとまっちゃってさ」
「自分の仲間を襲うなんて、最低……」
「裏切り者」
「ねえ、本当に清澄さんが四谷さんを誘拐したの? 私は信じられない……」
「ホントだって。何か、動画も出回ってるよ。学校の怪団って奴らと連んで、悪さをしてる動画」
「あたし、それ見た! 夜な夜な学校に忍び込んで、教室とかめちゃくちゃにしてたんでしょう?」
「はぁ? あれだけ私たちに校則違反がどうのこうの言っといて、自分は裏で破ってたワケ?」
「『裏アカ』で、犯行を仄めかしてたんでしょ?」
「『この清く正しく美しいだけの世界を、メチャクチャにしてやりましょう!』だってさ」
「何それ? 発想が犯罪者じゃん」
「噂じゃ生徒への暴言とか、社会への不満とかが絶えなかったらしいよ。元々そういう素質あんじゃん?」
「えー!? 私のこと書き込まれてたらどうしよ!? サイテーじゃん。マジ最悪」
「だから俺ずっと言ってただろ? ああいう清廉潔白な完璧主義者は、権力を握らせたら不味いタイプなんだよ。粛清、粛清……」
「粛清の意味、アンタ分かってる?」
「でもさ、何で捕まんないの? その犯人グループの1年生とかも」
「そりゃあ……なんでだろ?」
「そういやニュースとかでも、ぱったり取り上げられなくなったよなぁ……」
「続報も全然聞かないし。何か『誘拐事件』ごと、世間じゃもみ消されちゃった感じ」
「それが『特権階級』って奴なんだろ。清澄って、良いとこのお嬢様らしいじゃん。政府かなんかとコネさえあれば、犯罪だって無かったことにできるんだろうよ。あ〜あ、やってらんね」
「でも清澄会長を……」
「元会長な」
「清澄元会長を生徒会長に選んだのは、『審美眼』だろ? 『審美眼』が間違いだったってこと?」
「間違いだったのは『AI』じゃなくて、人間だったってことさ。『AI』はいつも『正しい』よ。道具の使い方を間違えるのは、いつだって人間の方なんだ」
「そういや、『審美眼』って言えばさ……」
□□□
二神の自宅にて、モニターから顔を背けた六道茜が、今にも泣き出しそうな表情で声を震わせた。
「私たちの事が、メチャクチャに書かれてあるっスよぉ〜!!」
「ひでえもんだな。ある事ない事……見ろよこれ」
その横で、二神が神妙な顔をして、掲示板とは別のページを指差した。
そこでは、二神と茜の写真を貼られた『アカウント』が、見るにも絶えない暴言の数々を数秒ごとに全世界に向けて発信していた。
「なんスか、これ?」
「『捏造』……って奴だろうな。俺たちのフリした誰かが、さも俺たちが言った事にして、そこら中で発言を乱発してるんだ」
「うわわ……なんスかコレ!? ぎゃー!! 私こんな酷い事言ってないっスよ! こんなの、絶対家族には見せられないっス! やめて、私の顔でそんな事言うのやめて……!!」
「なんつーかこれ……『ドッペルゲンガー』みたいだな」
なおも増え続けていく罵詈雑言の数々を眺めながら、二神が小さくため息をついた。茜がキョトンと目を丸くした。
「『ドッペルゲンガー』?」
「いるはずのない、もう1人の自分って奴だよ。例えばこの『暴言アカウント』を、俺を全く知らない奴が目にしたら、俺が言ったって思うだろうな。だって俺の顔がついてんだから」
「でも二神くんは、こんな事言う人じゃないっスよ!」
茜が、ネット上で暴れる二神の偽物を指差して憤った。
「会長だって、こんな書かれてるような、酷い事してないし!」
「それは茜が、俺たちみんなを知ってるからだろ? 知らない人にとっちゃ、ぱっと見本人がそう言ってるようにしか見えねえ」
「うぅ……確かに……」
「本当の俺じゃない。でも俺の顔をした誰かが……ネット上で無責任に言いたい放題やってやがる」
「誰かって?」
茜が二神の顔を覗き込んだ。二神は頭を掻いた。
「お前も見たろ? 俺たちを追い出した……」
「あんなの団長じゃないっスよ!!」
茜が飛び上がって反論した。
「あんなハナクソも穿らないような男は、団長じゃないっス! あれこそ、『ドッペルゲンガー』じゃないっスか!? 酷いっスよ、こっちの言い分も聞かず強制的に退学だなんて……」
「それも酷い暴言だが……」
二神は目を瞑った。
「それについては、俺も茜に賛成だ。あんなトンチンカンな野郎が、急に性格が変わったみたいに……」
そこまで言って、二神はふと考え込むように口元に手をやった。
「どうしたんスか?」
「いや……そういや『掲示板』の書き込みに、妙なのがあったと思ってよ」
「妙?」
二神はPCを操作し、再びモニターを元の画面に戻した。
表示されたページを、茜が顔を寄せて覗き込んだ。そこにはこんな文字が踊っていた。
【……そういや『審美眼』って言えばさ。最近生徒会のメンバーが、全員『黒いAIグラス』をしてるんだよね。あれって実は、小型の『審美眼』らしい。何でも市販前の実験ってことで、近々ウチの生徒全員に配布されるとか……】
「……どう言う意味っスか? これ?」
「……分からねえ。でも四谷が救出された時、確か黒い『AIグラス』してただろ?」
「あぁ……あれ以降、あの映像ぱったり見なくなったっスけど……」
茜が首をひねった。
「最後に会った七雲似の奴も、確か黒い『AIグラス』をしてたよな。もしあの『グラス』に、【洗脳効果】があるとしたら……」
「『AI』で人間を洗脳だなんて、そんな事できるんスか!?」
「さぁな。俺は『グラス』なんて高級なモン持ってねーから分かんねーよ。でも……」
目を丸くする茜に、二神は唸った。
「最初から色メガネ被せられて『これが正しいんだ!』って耳元で囁き続けられたら……一体どうやってそれを疑えばいいんだ?」
「…………」
「お兄ちゃん……」
すると、無言になった2人の後ろから、二神の弟妹たちがオズオズと声をかけてきた。襖から顔を覗かせる弟妹たちの顔を見て、二神がフッと表情を和らげた。
「おう、どうした?」
「お腹すいた……」
「ご飯……」
「ん……そうだったな。悪ぃ。今から作るわ」
二神が腰を上げ、弟妹たちにほほ笑みかけた。茜はその隣で二神の顔と、弟妹たちの顔を見比べて、突如目を輝かせた。
「分かったっス!!」
不意に立ち上がり大声を出す茜を、二神が怪訝そうな顔で振り返った。
「は? 何が?」
「団長は……兄弟がいたんス! 双子だったんスよ! 私たちを追い出した、あの
「もし黒い『AIグラス』が【洗脳装置】だとしたら……やべえよな。すごく嫌な予感がする」
「私の話、聞いてたっスか!?」
畳の上にズッコケた茜を見て、二神の弟妹たちが楽しそうに笑った。
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