第4話 人形職人、ゴーレム歌劇団に夢を見いだす

 ダンがゴーレム人形の歌劇団を結成することになったという情報は、ダンの指導を受けていたゴーレム部隊の魔導士たちの間に瞬く間に広まった。

 ある者は何を考えているのかと首を傾げ、ある者はとんでもないことを言い出したとただ驚き、そしてある者はなるほどその発想はなかったと感心した。


 そんなゴーレム部隊の魔導士の中で、話を聞きつけていの一番にダンの元に駆けつけたのが、ゴーレムの整備を担当していたレンダーであった。


「俺に美少女ゴーレムを作らせてくれ!」

 レンダーはダンに面会を求め解散されたゴーレム隊の旧宿舎の隊長室であったダンの部屋に押しかけた。そして、開口一番そう言い放つと、聞かれてもいないのに身の上を語り始めた。

「おれは魔術師を目指す前は人形師をやっていたんだ。故郷の街じゃ凄腕の人形師ってことで名を知られてたんだ。でも、舞い込んでくる製作依頼は幼児向けのビスクドールばかり。ちがうんだ、俺が本当に作りたかったのは等身大の美少女人形だったんだよ」

 なおも堰があふれたかのように美少女人形への情熱を語ろうとするレンダーを、アニーサが必死になだめる。

「すみません、ちょっと落ち着いてください。参加したいというお話は分かりましたけど、その話はティーダ皇女様と相談する必要がありますので」

「そ、そうか……ん? こ、これは!?」

 ふと机に視線を落としたレンダーが目にしたのは、ダンが思い描いたゴーレム人形をアニーサが紙に描いた、人形の少女の姿絵だった。

「これはなんというか、変わった服装だな」

 レンダーは紙を手に取り、まじまじと絵を観察する。

 立った状態でも床まで届こうかという長い髪を頭の左右で一つずつに束ね、髪留めには四角い輪飾りが付いていて、耳飾りが耳全体をすっぽり覆い隠している。

 髪も不可思議だったが、服装もまた見慣れぬものだった。袖丈がないのに襟があり、襟元は腰まで届く長いタイで締め、そしてスカートは極端に短く太ももまで足が見えている。手には上腕の中央当たりから手首まで届く長い付け袖、足は膝の上まで覆うタイツのように足にフィットした長いブーツをはいている。

 見れば見るほど奇妙な格好だが、レンダーの目にもっとも奇異に映ったのは顔の造形であった。瞳が人の倍ほども大きく、形状も異なる。人間の顔にある微細な曲線とは無縁の、出来の悪い細工物や古い絵画を思い起こされるものだった。

「ん? もう一枚あるのか……!?」

 もう一枚の紙には、人形の少女の表情の変化が描き起こされていた。つり目になったり、瞳が小さくなったり、さらに眉や口が上下に動いて斜めになったりと変化している。

 レンダーの知る精巧に人間をまねたビスクドール中には、瞳が閉じるなどのギミックを施したものもあったが、表情が動くことはない。しかし、ゴーレムであれば人間と同じような表情の変化を仕込むことが出来る。改めてそれに気付かされ、そしてその可能性に戦慄に近い衝撃を受けた。

「そうか、ゴーレムなら表情だって変化させることが出来るのか……そうだよな、できない理由がないよな。すげぇ、すげぇよ、隊長。間違いない、ゴーレム人形は世界を変えちまう。まさかこれほどのものだとは想像もしなかった」

 気がつくと、レンダーはあまりの感動に涙を流していた。

「レンダーさん……。これだけ見てそれがわかるんですね」

 常人にはレンダーが何に感動しているか想像も付かなかったであろう。しかし、ダンとダンの脳内に描かれた映像を能力を介して直接見ているアニーサの二人は、その理由がよく理解できた。そして、紙に描かれただけの設定資料でそれだけのことに気付いた、彼が豊かすぎる想像力に驚いていた。

 クリエイターの持つ想像力はすなわち活動の源泉である。これからまったく新しいものを作り上げようという時期に、レンダーのような技術と情熱と想像力を兼ね備えた人材は貴重である。

 気がつけば、三人は久しぶりに再会した旧知の親友のように意気投合し、ゴーレム歌劇団を通じて実現したい夢を語り合った。ダンの国で生まれたという想像の歌姫について、観客と一体になって盛り上がる舞台について、そして人形に魂を宿すことの素晴らしさについて。


 かくして、レンダーはダンとアニーサの強い推挙で翌日にオーナーであるティーダ皇女に面会した。

 その際、レンダーは若い頃に製作した人形をいくつか持ち込んだのだが、それが無事ティーダ皇女の眼鏡にかない、劇団付きの人形師第一号として採用されることになったのだった。


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ゴーレム少女歌劇団 彬兄 @akiraani

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