第3話 異国の青年はゴーレムのための劇場を求める
戦争終結後、ゴーレム部隊は規模を大幅に縮小することになった。
主な要因としては、ゴーレムに使われている魔石の半分以上がコシン教の祭器を分解して取り出したものであったことにある。戦時体制を大義名分に王が強権をもって回収した魔石は、戦争が終結したなら返却しなければならない。このため、10体あったゴーレムのうち6体は解体して魔石をとりだして返却、さらにクダイとダンが最初に作成した1体はクダンの私物の魔石が使われていたため、王国の保有するゴーレムは3体まで数を減らすことになった。
遠距離攻撃を主とするゴーレムは集中運用が基本。10体でも頭数が足りず手数を増やす小細工が必要だったというのに、たった3体では戦力としてはとても数えられない。
裏の事情としては、ゴーレム部隊は若手魔導士が中心メンバーであったため、若手の急速な台頭を恐れた保守派貴族に警戒されたという点もある。
かくしてゴーレム部隊は事実上解散し、残った3体のゴーレムはパレードや演武を披露するといった国の祭事を中心に使われる事になった。
しかし、そこで問題として浮上したのが、新型ゴーレムの発案者であり、部隊の実質的な指導者であったダンの論功行賞である。
ゴーレムの共同開発者であるクダイはゴーレム部隊の運用にはほとんどかかわっていなかったこともあり、従軍した兵士および魔導士のほとんどは30年以上におよぶ戦争をたった3か月で勝利に導いた立役者はダンだと認識している。ゴーレム部隊をやや強引に解散してしまった以上、報奨金程度でお茶を濁せば軍の若手を中心に不満が爆発する可能性があり、国内の戦後処理にしこりを残すことになりかねない。
かといって、言葉もろくにしゃべれない異国人のダンを、部下を持つような国家の要職につけたり、爵位や領地を与えることなどできようはずがない。
名誉職を作って年金を充てるなどの案も出たが、結局のところ、肝心のダンが褒賞として何を望むのかを確認しないことには話が進まない。王国首脳陣は早々にその結論に至り、ダンの希望を確認すべく会議が開かれることとなった。
その会議の場で、報償の望みを問われてダンは王国首脳陣の誰もが想像もしなかった要望を述べた。
「ゴーレムを踊らせる歌劇団を作りたい。そのための劇場が欲しい」
ダンの『ゴーレムを躍らせる歌劇団を作りたい』という前代未聞の宣言に、その場に居合わせた重鎮貴族たちは良い反応を示さなかった。ドガイ王国の重鎮貴族は伝統と格式を重んじる保守的な考えのものが多く、戦争の道具であるゴーレムを他の産業に転用しようという発想がない。ましてや、声を発することのできないゴーレムで歌劇団を作るなど、気でも狂ったのかと思うだけであった。
そんな中、唯一興味を示したのが皇女ティーダだった。
「ほう、なかなか面白そうではないか。もう少し詳しい話を聞こう。内容によってはケチな
皇女ティーダは先王の4女、現王の義理の妹に当たる。
商才に優れ、様々な商品を扱う王国有数の商会をいくつも抱えており、領地も役職もない外戚でありながら下手な領地貴族よりも財力もある。
また、見目もたいへん麗しく、社交界でも有数の美女としても知れ渡っている。吟遊詩人に天は二物を与えたもうとうたわれたこともある才女である。
しかし、宮廷内での彼女の評価は低い。なぜなら、齢30を数えようかというのにいまだに独身、結婚しない理由は自分が同性愛主義者だから公言する、フリーダム極まりない生きざまを貫いているからだ。
彼女の屋敷に務めるメイドは若く美人ぞろいで、例外なく彼女のお手付きだというのがもっぱらの噂である。
ただ、下心からか女性への面倒見はことのほかよく、悩み事相談などを通じて恩のある婦人は少なくない。社交界でも少なくない令嬢がティーダをお姉さまと慕っており、影響力はバカにできない。金も地位も影響力もあるが政治的には中立無派閥という、なんとも扱いに困る存在、それが皇女ティーダなのだ。
「ケチとはあまりの言いようではないか、ティーダ。誰も認めぬとは……」
「
そういって、ティーダはダンに詳細を話すよう促した。
「声、ゴーレムの動きに合わせる専門の役者、演じる」
まだ言葉になれていない異国人であるダンの説明はどうしてもカタコトになり、理解しづらい。ときおりアニーサが補足に入ってやり取りすることしばし、ようやくティーダは概要を理解した。
「なるほどな、つまり、ゴーレムを使った大掛かりな人形劇で歌劇を演じる、ということじゃな」
ダンが実現したいと言ったゴーレムの歌劇とは、等身大のゴーレムをゴーレム術者が動かし、舞台裏で声を専門とする役者がその動きに合わせて歌や台詞を演じるというものだった。
声の役者を分けることで、従来のオペラでは不可能だった情熱的な踊りを取り入れることもできるし、舞台の方にもゴーレムの技術を応用した演出ギミックを取り入れるという。
ティーダの商売人としての勘は、この案件は極めてハイリスクだが、成功すればとんでもないリターンがあると告げていた。
「いずれにしても、実物をこの目で見るまではなんとも言えぬのう」
話に区切りがついたタイミングで、王の横に控えた老貴族が静止に入った。
「ティーダ皇女、そろそろよろしいか。ここは商談をする場でありまぬぞ。この件、ひとまず皇女様にあずかっていただくということで、いかがでしょう?」
「ふん、おぬしらは本当に新しいものに興味をしめさんのう。そんなんじゃから帝国の弓兵に無策で何十年もいいようにやられっぱなしになるのじゃぞ」
痛烈な皮肉にその場にいた老貴族たちは眉をしかめ押し黙った。30年にわたって苦しめられた帝国の弓兵を打ち破ったのがダンの開発したゴーレムであり、今回の会議はその功績をたたえるために儲けらた場である。反論などできるはずもなかった。
「まあ、よいわ。妾とて、こんな面白そうな話をお他人にくれてやるつもりはないしのう。
形式としては老貴族の提案を受け入れる形であったので、満場一致でティーダの提案は受け入れられた。
初期投資を報奨金でまかうことで事業リスクを軽減するという思惑がティーダにはあったのだが、誰もそれに気づくことはなかった。
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