第5話
「久しぶり。珍しいな、紅穂から連絡寄越すなんて」
「うん。…ちょっと話があって、ね」
三ヶ月ぶりに会った洸は、随分と変わっていた。身長は高くなっているし、身体も引き締まったし…。
そういえば、大学でもバスケサークルに入ったって言ってたっけ。洸に微笑むと、私は「あのね」とおもむろに言葉を発した。
「ねえ、洸。…一つ質問しても良い?」
「…?どうした」
「……大切な話があるの。洸は、この話を聞いても…私と別れたりしない?」
「…どういう事だよ」
「…あのね、洸」
「私…妊娠したの」
「洸との子だよ」と続ければ、目の前の彼は息を呑んで僅かに目を見開いた。
動きの止まった私達の間を、一羽のカゲロウが音も無く飛び去って行く。
…時間が、止まった。そんな気すらした。
「…嘘だろ……」
「…驚かせてごめんね。でも…私、絶対にこの子を産みたい。洸に反対されても、学校を休む事になっても。だから…図々しいって分かってるけど、私の傍にいて」
「マジかよ…焦ったじゃねえか…。…心配すんな。俺だって男だ、ちゃんと責任は取る」
「!?…ねえ、それって……?」
「そのままだっつの。…色々すっ飛ばしちまったけど…結婚しようぜ」
「……!」
「勿論、今すぐとかじゃなくて…紅穂が卒業してからになっちまうけど。…本当は俺が紅穂を養えるくらい稼げるようになってから言うつもりだったけどな。こんな形で言う事になるとは思ってなかったけどな…。クソ、格好悪ぃ」
…胸の奥に、何かがじんわりと広がって行くのが分かる。
ああ、この人を選んで本当に良かった。
「う…ううっ、洸……」
「ほらほら、泣くんじゃねえ」
突然泣き出した私を、洸は優しく抱き寄せる。
肩の位置も腕の高さも、二年前とは随分変わってしまったけど…それでも、包み込むような温もりはあの時と同じで。
「良か…った……私、捨てられると思っ、てた……ッ」
「…言われなくとも離れねえよ。『別れよう』って言われない限り、俺は紅穂の意見を尊重するって決めてるからな。それに…んな事するかよ。紅穂も、俺達の子も、絶対に守る」
「…ッ」
驚いて見上げれば、くしゃりとした笑顔が私を優しく包み込む。
「有難な、紅穂。俺、すっごく幸せだ」
洸の優しさはひだまりのように温かくて、心地良くて。
そんな彼に微睡んだように微笑むと、愛しい温もりに顏を埋めて、私はそっと目を閉じた。
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