第3話
「
「柏浦洸、SG。宜しく」
全国指折りのSGとただのMG、増してまだ下っ端だった私。接点なんて勿論無かった、けど…。
変化は、四ヵ月後に行われた合宿で突如訪れた。
「ただいま布団!」
「藍先輩、隣の部屋に聞こえますよ…」
「あはは、ごめんって。…そういえばさ、突然だけど…紅穂は好きな人とかいないの?」
消灯時刻も近くなった宿泊部屋。敷いたばかりの布団にダイブしたMGの先輩が、ふと振り返ってそんな事を問うて来た。
「好きな人…ですか」
「そ。零音も主将と付き合ってるみたいだし、紅穂はどうなのかなーって」
「えーと……特には、いないですね」
「わっ残念」
つまんないの、とあからさまに口を尖らせる藍先輩。確かこの人も彼氏持ちだっけ、とぼんやり思っていると、「あっじゃあさじゃあさ」と輝いた目が私を布団へと引き込んだ。
「わあっ!?」
「洸とかどう?ほら、新しく副主将になったSG。最近紅穂も話すようになったでしょ?」
「いえ…あれは私が未熟だからで、柏浦さんが助けてくれるだけで…」
「分かってないなあ。洸、見たまんまだけどかなりクールだからさ、『どうでも良い人に手を貸す』なんて事無いよ。多分…ううん、絶対紅穂の事気に入ってるって」
先輩は、さっきとは一転して「良いじゃん良いじゃん!」とバシバシと布団を叩き出す。自分の事は棚に上げるのかなあ、折角彼氏いるのになあ…なんて気になって、「じゃあ、藍先輩は彼氏さんとどうなんですか?」と興味本位で問い返していた。
「…なあ、付き合おうぜ」
「…えっ?」
最終日の朝、体育館近くの水飲み場。
突然の言葉に何も言えないでいると、柏浦さんは「…そのままの意味なんだけど」と、半ばぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「桜瀬が好きだ、恋人になってくれ。…で、分かるよな」
「え…っ、じ、冗談ですよね?」
「本気だよ。桜瀬がMGになった時から…いや、部活動見学に来た時から。…嫌か?」
「そ…そんな事…」
ある訳無かった。彼の事は一人の人間として、勿論選手としても尊敬していた。
力強く展開されるドライブも、洗練されたシュートモーションも…そして、コートの外で見せる面倒見の良さも、全て。
…でも、これは恋愛感情じゃない。憧憬と尊敬の入り混じった、中途半端な憧れ。それでも…何故かは分からないけど、彼からの告白は不思議と嫌じゃなくて。
「…ありません。私も…柏浦さんが、」
私の言葉は、そこで途切れた。
「え…あ、あの……」
洗いかけのボトルも、捻ったままの蛇口も、全てが私の世界から消えた。
突然閉じ込められた彼の腕の中で、交ざり合った熱とうるさいくらいの鼓動に全てを奪われたから。
「あの、柏浦さ、」
「…絶対、大切にするから」
くぐもったような声と、痛いくらいに私を締め付ける引き締まった腕。
…あれから、もう少しで二年。彼と歩むうちに沢山の思い出が出来たけど…それでも、あの告白だけはいつまでも鮮やかなままで。
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