第2話

「――検査の結果ですが、胎嚢が確認されました。陽性です」

「…ッ」



 淡々と告げられた言葉は、鋭利なナイフのように私の脳髄を突き刺した。

 目を移せば、白黒の画面の中で小さく、でも確かに動く何かがその存在を主張しているのが分かる。

 有り得ない。そんなはず無い。認めたくなくて何度も首を横に振るけど…それでも、エコーに映る現実は何も変わらなくて。

「ここが心臓です。ほら、動いているでしょう?」

 医師はマウスを動かしながら教えてくれたけど…真っ白になった頭には、何も入って来なかった。


 …私が、妊娠?まだ十七歳なのに?


 下腹部に押し当てられた名前も知らない器具が、急にひんやりと感じられた。

「では、詳しく説明させて頂きます。こちらに…」

 非情にも、医師は画面から目を逸らして看護師達に何かを伝えに行く。




 …ここに、我が子がいる。まだぺったんこなお腹を撫でても、そこに宿るはずの命はまだ感じられなかった。






「…紅穂、どうだった?」

 会計を済ませて病院を出ると、外で待ってくれていた友達が、思い詰めたようにこちらへ駆け寄って来た。

「…陽性、だった。三ヶ月目」

「そっか。…おめでとう、って言って良いのかな」

「でも…休学するつもりだから。…もしかしたら、退学かもしれないけど」

「…うん」

 友達はふっと目を伏せたけど…「あ、それと」と何かを思いだしたように私の顔を覗き込む。

「…柏浦先輩には、いつ言う気でいるの?」

「…取り敢えず親が先かなって。うち父子家庭だし」

「…そっか。…偉そうになっちゃうけど…紅穂も、柏浦先輩も、後悔しないような道にしてね」

「…有難う、零音」

 



 心にじんわりと沁み込んでいく優しさに、私はふわりと微笑みを返す。

 


 友達は…御厨みくりや零音れねは、「ちょと寄り道して帰ろ。ガトーショコラの美味しいカフェ見つけたんだ」と私の手を引いた。

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