第4話

 …『彼』の事を思い出すのも、もう暫くぶりになる。



「お兄ちゃん、久しぶりにストバス行こう!」

「おう!」

 まだ小学生だった頃、私には血の繋がっていない兄がいた。

 御厨みくりや響樹ひびき。父の再婚相手の連れ子で、強豪・海皇かいおう中学校の主将を務めていた名PF。

 圧倒的な基礎力と類い稀なまでのPFとしての力量は、当時ミニバスでSFだった私の憧れで。

 全国レベルの実力を持つ兄と共に、コートを駆ける事が大好きで。



 …だけど、そんな幸せも一瞬で崩れ去って行った。




「零音!」


 

 全部全部、突然の事だった。


 コートを引き裂いた轟音も。

 

 地に叩きつけられる衝撃も。


 私を包み込んだ温もりも。



 …そして、手にまとわりつく、生暖かい感触さえも。


「零音…」


 抱き締められた身体から伝わる鼓動が、段々と弱まって行く。


 嫌だよ。行かないでよ。私を独りにしないでよ。



「お…兄、ちゃ……」


 愛しい人の名前をうわ言のように呟きながら、私は意識を手放した。







 目を覚ますと、私を待ち受けていたのは、殺風景な白い部屋と、精密機器に囲まれたままの、寝たきりの兄の姿だった。私の担当医と名乗った人物から、ストバスのコートに大型トラックが突っ込み、兄は私を庇って轢かれたと聞いた。


「アンタが殺したのよ!アンタが!アンタがストバスなんかに誘わなければ、響樹は死なずに済んだのに!」

「やめなさい…零音は何も悪くない…」

「悪くない訳無いじゃない!返してよ!私の響樹を!」



 ヒステリックを起こす母と、そんな彼女を宥める父。



 ごめんなさい。私が誘わなければ。私さえいなければ。





 …お兄ちゃんは、死なずに済んだのに。

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