サルビアとガーデニア 小説家志望の彼女と私

美木間

プロローグ

 待ち合わせの場所には、いつも彼女が先に来ていた。

 あと一本早く乗れたら間に合うのにと思いつつ乗り遅れた私は、電車のドアに寄りかかってメールを送る。

 彼女からの返信は了解のひと言。

 ああ、また間に合わない、ごめん、心の中で何度も詫びて、私は車窓を流れる景色を見る。

 春霞の街の向こうには都心のランドマークツリー。

 

 彼女と出会ったのは、大学に入ってすぐだった。

 数えてみたらもう12年、じき13年。

 干支ひとまわりだ。

 彼女の前で、年月を数えるのに干支を持ち出したりしたら、鼻で笑われるだろう。

 いや、彼女は瞬きすらしないで、スルーだ。

 それでいい。

 私は、きっと、早々に後悔して、自分の干支が何だったかも度忘れして、必死に思い出そうとするに違いない。


 彼女と会うのは、久しぶりだ。

 大学時代は楽しかった。

 充実していた。

 でも、もう一度やり直せる力を手にしても、時間を遡ってやり直したいとは思わない。

 そんな安い過去ではない。

 彼女と私と共に書いて、書いて、書いていた日々は。


 ただ、二人の岐路には立ってみたい。

 彼女は書き続け、私は立ち止まってしまった、その岐路に。

 そこにもどれば、今の自分を変えることのできる何かが見える気がする。

 そんなのは感傷だと冷たい声を浴びせられてもかまわない。

 やり直せなくてもいいから。

 ただ、そこに、立ってみたい。




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