第19-1話 最終決戦(1)
「馬鹿なやつだ。相手は神話の怪物なんだ。人の思惑通りに行くはずもないだろうに」
リオンは侮蔑するように言った。
「峰樹くん、立てるか?」
「なんとかな」
「万が一のため、トドメを手加減しておいたのが功を奏したか。君の傷は浅いようだね。僕は……もうダメみたいだ」
上体を起こし、リオンは苦笑した。俺との戦いで負った傷はまだしも、姫さんの腕で貫かれた腹部の傷が深い。天聖の力をもってしても、しばらくは延命するくらいしかできないだろう。
「峰樹くん、頼みがある。僕のスクール水着を受け取ってくれ」
「なっ!? そんなことをしたら、お前の傷が治らなくなっちまうぞ!?」
「邪悪の化身が蘇ってしまったんだ。あいつをどうにかしなければどの道みんな死ぬよ」
黒龍が吠える。その咆哮一つで神殿全体が大きく揺れる。
「君に僕の全てを託す。受け取ってくれ、我が魂のスクール水着を」
そう言ってリオンは自身の左手を俺に差し出した。彼の着ているスクール水着が淡い光を挙げる。俺は……その左手を握り返した。彼の手から俺の身体へと強大な力が流れ込んでくる。そして、俺の左手の甲に、ぼんやりと新しい紋章が浮かび上がってきた。
「さあ、変身するんだ! 今の君に敵うやつはいない!」
その言葉を背に受けて、俺はボロボロの手足に力を込めて、ゆらりと立ち上がった。右手と左手のスクール水着の紋章を重ね、厳かにその言葉を紡ぐ。
「――超変態」
漆黒と白銀。両腕から放たれた二つの光が集まり、俺の身体へと巻き付いてゆく。織りなされるのは、もはや着慣れてしまったスクール水着。だが、その色はいつもの紺色ではない。深雪のような純白のスクール水着――天聖でありながら、さらに、その布は二枚が重なり、後背部で縫い合わされてゆく。そう、これは究極のスクール水着――
――『
「さあ、神話の亡霊よ。姫様を返して貰うぜ」
俺を視界に入れた瞬間、黒龍はその大きな口から黒い炎を吐き出した。触れたもの全てを燃やし尽くす、暗黒炎のブレスだ。だが、そんな攻撃効きはしない。その黒い炎は、俺の手前で光の粒に浄化されて消えた。最強の盾――天魔二重奏(ダブルフロント)の自動防御魔術が無効化したのだ。
次いで黒龍は両肩についた巨大な翼を広げた。そこから無数の羽根が宙を舞い――それは一瞬にして消え去った。ヒュンヒュンとした風切り音が聞こえてくる。どうやら、あの龍の周囲を自動的に動いているようだ。なるほど、自動迎撃魔術には自動迎撃魔術ってか? 甘いな。
俺は身体を包んでいた天魔の力を、天聖の力に切り替える。そして、光を超えた速さをもって、黒龍の懐へと飛翔した。俺の動きを察知して、黒龍の羽根が襲い掛かってくる。さすがに素早いな。だが、超光速ほどではねえ! 俺目掛けて飛んでくる数百本の羽根を、光の剣で切り捨てる。そして、俺がヤツの懐にまで近づいたところで――。
「うぐ!?」
巨大な重力場に捕らえられた。重力魔術かよ。さすが神話の化け物ってだけはある。超級レベルの魔術をふんだんに使ってきやがるな!?
そんなことを考えていた最中、龍がその巨尾を振り上げる。動きの鈍くなった俺に叩きつけようってか!? ちっ、あの速度、この重力場の中じゃあ天聖で回避することはできないな。なら――天魔の出番だぜッ! 俺は『天魔の時空間』を纏った両腕で、その巨大な尾を正面から受け止めた。そして――、おい、そこはもう俺の攻撃範囲内だぜ?
俺は天魔の力を片腕に込めて、黒龍の腹部を思いっきり殴りつけた。
「ボ、オオオオオオオオオ!!」
ビルくらいはあるだろう、巨大な龍の身体が苦悶するようにぐらつく。よし、ダメージを与えることはできたな。だが、今の殴り具合は……!?
「ちっ、勇者ってのは命がけだな」
ヤツに触れて確信する。この闇の正体を。俺のすべきことを。
再び自動攻撃してくる黒龍の羽根を天聖で回避しながら、俺はバックステップを踏むようにその場を離れる。そして、ヤツの攻撃圏内を離れたところで俺は足元に膝をついた。そして、天魔の力を使って、傍で倒れているリオンの傷を治療する。
「おい、何をしているんだ!?」
「こいつじゃアレには届かない」
「馬鹿な、現に君は今ヤツを圧倒していたじゃないか!?」
「確かに倒すことはできる。だが、それじゃあ姫さんが助からない」
「なっ!?」
いまだ甘いことを言う俺に、絶句しているのが分かる。だが、俺も譲れない。
「龍を覆っている黒い膜が見えるか。あれは数百、数千の魔術防御壁だ。さっきは天魔の力でその防御性能を止めて、打撃によって内側へダメージを与えた。だが、姫さんはあの中にいるんだ。このやり方じゃ、邪悪の化身と一緒に死んでしまう」
そう、ヤツを殺すだけじゃダメなんだ。倒す前に、姫さんを助け出さなきゃならねえ。
「姫さんは今ヤツの体内に囚われている。助け出すにはあの防御膜を完全突破しなきゃならねえが、それには天魔じゃなく天聖の力が必要だ。防御魔術を停止させるんじゃなく、超加速魔術で数千の魔術防壁を一瞬で破壊するんだ。そのためにはエネルギーを天魔に使用したらダメだ。全エネルギーを天聖に使用しないといけない。だが……」
あの黒龍は重力場魔術で全身を護ってやがる。さっきあれだけ近づけたのは、天魔の時空間操作異能による抵抗があったからだ。天聖でも動けなくはないが、その状態では黒龍の放つ接近攻撃を受けきるのは不可能だろう。
「天魔から天聖への切り替えにはわずかにタイムラグがある。天魔なしの俺の力じゃ、あの重力場を突破することはできねえ。それどころか、力を抑えた天聖の力じゃ、その前の黒龍の羽根ですらお陀仏だろうな。だから、力を貸してくれないか」
「は、はあ!?」
「俺に託したんだろ。希望を、未来を。だから、信じてくれ」
「……敵に助けを乞うなどとは、とんだ甘ったれた勇者だ」
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