第17-2話 決戦(2)

 初撃、白銀の閃光が俺の右肩を掠めた。常人なら目視する暇もなく切り刻まれる超速の斬撃だった。だが、すでに天魔を展開していた俺は、同じく生成した漆黒の剣でやつの光織剣をいなしていた。

「……奇襲で仕留めきれるほど甘くはないみたいだね」

 それでも、ヤツの攻撃が止むことはなかった。防御不可の絶対攻撃の連撃に、捌き切れず掠めた脇腹から赤い血が噴き出す。……ちっ、俺を殺すってのは本気らしいな。今までのような甘さが微塵も感じられねえ!? 

「だが、止めてやるぜッ!」

「止める、か。この期に及んで優しいことだ」

 リオンは数ステップ踏むように後方へ下がり、その場でターンするように光剣の矢を放ってきた。無数の矢は、一瞬にして光の速度を超えて加速する。防御不能の矢は、しかし、天魔の時空間に触れて実在化する。普通の射矢ほどの速度のソレを俺は軽々と回避する。同時、防御にしようした天魔の異空間を広げて、ヤツの捕獲を試みる。

「遅いよ」

 当然、リオンは異空間から退避する。しかし、俺の狙いはその着地点だ。リオンがそうして見せたように、俺もまた天魔のオーラで弓を生成して漆黒剣を矢のように放ってみせた。わざと遅く展開した異空間にヤツは超光速の移動を使用しなかった。いかに天聖の異能であろうが、使用するのは人間にすぎない。それはつまり認識の速度に縛られるということだ。なら、この初見の攻撃は避けられねえだろ!

「甘いよ。それは想定の範囲内だよ」

 それでもリオンは漆黒の剣を回避してみせた。さすがに戦闘慣れしてるだけある。だが、避け方を間違えたな?

「――な!?」

 途端、リオンの身体を天魔の異空間が包み込む。剣の着弾地点から異空間を発生させたのだ。当然、ヤツの行動速度が減衰する。その隙に俺はヤツの懐に潜り込み、その両腕を押さえつけた。

「ようやく捕まえたぜ」

「これで? ハッ、伝説のスクール水着を舐めすぎだよッ!」

「な――っ!?」

 掴んでいた腕が強烈な力で弾かれる。解放されたヤツの腕には、光織剣が握られている。

「……ちっ、二重層を突いてしまったか」

 ぎ、ぎりぎりセーフだな。旧式スクール水着には構造上、布が重なっているところがある。仙人の記憶曰く、その部分を『ダブルフロント』と言うらしい。もし、その場所以外を刺されていたなら、俺の腹には風穴が開いていたことだろう。

「天聖の本質は、次元を超えた加速性能だ。ゼロから一気に光速を超えた速度へと加速する。ゆえに、僕の攻撃はたとえ眼前で止めようが躱すことはできない。絶対防御不能。超攻撃型のスクール水着、それが白スクなのだから!」

「マジかよ」

「君相手に接近戦は危険だ。離れて圧殺するのが一番の好手だ」

 天魔の時空間から抜け出したリオンは、少し離れた場所で再び弓を生成して、光剣を射出し始めた。矢を放つその一動作一動作は普通の人でもできる単純な動作だ。しかし、天聖の繰り返し性能は常人の比ではない。戦場に降り注ぐ大量の弓矢を『矢の雨』と形容するが、目の前のこれはそんなものではない。これはもはや矢の壁だ。

「ちぃ!?」

 俺は周囲を満遍なく覆っていた天魔の異空間を操作して、前面に異空間の黒壁を生成する。それによりなんとか超光速で放たれた光の矢を受けきったところで……一息つく間もなく、俺は自らの肘を背後に突き出した。 

「う、ぐっ……読まれていたか!?」

「当然だ、てめえは弓兵って性格じゃねえだろ」

 背後に回り込んでいたリオンの身体がくの字に折れ曲がる。やはり防御が薄くなるこのタイミングを狙ってやがったな。

「これで終わりだ――なっ!?」

 瞬間、トドメを刺そうとした俺の身体が、謎の力を受けて硬直した。その硬直はほんの瞬きほどのものだったが――俺たちの戦いでは致命的なものだった。その一瞬の隙に、リオンは光の剣を握り返し――その剣は、無慈悲にも俺の腹部を貫いた。

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