第13-2話 聖書の秘密(2)

「これが私の知る全てだ。理解できたか?」

「正直理解したくない話ばかりだったが……やべえってのはよく分かった。だが、肝心の儀式の場所は分からず仕舞いか」

「いや、儀式の場所は割り出せるかもしれない」

「本当か!?」

 スクール水着仙人はこくりと頷いた。

「今の話を聞く限り、封印の儀式には膨大なスク水エネルギーが必要だということは明白だ。けれど、そんな膨大な力、集められる場所には限りがあるだろう。そもそも集めるのだって大掛かりだ。過程で何の手がかりも残さないなんてありえないよ」

「なるほど、どこかに異変が起きてるはずってことか」

「それなら僕が仲上総合研究所に問い合わせてあげるよ。僕の財閥は世界中を網羅してるからね。大きな異変ならすぐ見つかるはずさ」

 すぐさまナオは懐に入れていたスマートフォンを取り出した。

「あっ、黒葉さんはいますか? 実は頼みたいことがあって……えっ!? うん、そうだけど……。ありがと。みんな、聞いて。場所を割り出したようだよ!」

「早すぎだろ」

 お前、今事情すら説明してなかったよな?

「どうやら僕が尋ねるまでもなく、異変を感知していたみたいでさ。研究所の独自調査では、今この関東地域からスクール水着が消えているみたいだ。そして、その消えた約十二万五千枚のスクール水着が一集している場所があるらしい」

「おお! その集合地点が儀式の場ってことだな! で、それはどこなんだ?」

「国会議事堂だよ」

「国会議事堂!?」

「ヤツめ、考えたな。国会議事堂なら十数万枚のスクール水着が集められても違和感がない。きっとそこに囚われたお嬢様もいるはずだ!」

「納得するとこじゃねえからな!?」

 むしろ最もふさわしくない場所の一つだろそこは!

 なんでわざわざ一国の中心地に踏み入る必要性があるんだよ!

「しかし、すでにドラゴソボールは集まっているのだろう。儀式の準備も事前に整えてあったのだとしたら、今から向かってももう遅いかもしれないね」

「……それは、大丈夫だ」

 俺はポケットに入っていたものを取り出す。

「姫さんのドラゴソボールは、俺が持っているから」

 俺は姫さんから預かっていた宝石を皆に見せた。

「なっ、なぜクソ男が姫様の四星石を持っているんだ!?」

「トランクに隠れているとき渡されたんだ。もしもの時にお守りになるからって。だが……もしかしたら、あの時から姫さんは自分が捕まることを予想していたのかもしれんな」

「しかし、それなら事情が変わるね。このままだと儀式は執り行えない。ヤツらがこのことに気付く前にこちらから攻めていこう」

「仙人さんの言う通りだね。都内なら僕の護衛兵もたくさん連れていけるよ」

 ナオが指を鳴らすと、どこからともなく屈強な男(身長二メートル近い・屈強な筋肉・グラサン付き)が四人現れた。どこに隠れてたんだよ、お前らは。

「まあ、それはともかく確かに頼りになるかもしれんな」

「いや、止めておいた方がいい」

 俺の言葉に反して、仙人は首を振った。そして、その発言の意図を示すようにボディガード達に向けて片手をかざすと……ばたりばたりと屈強な男たちが倒れ伏せた。どうやら気絶してるようだ。

「スクール水着の波動を浴びせただけだよ。どれだけ身体を鍛えていようと、所詮は生身の人間だ。予備のスクール水着を着た僕にすら当てられるんだ。戦場に出ても邪魔になるだけだ」

 確かに、土壇場で人質にでもされたら困るのはこっちだな。

「しかし、おかしいね。僕の予想だとナオくんも倒れると思ったのだけれど。……ん、なるほど、天聖の近くにずっといたから力が少し混じったようだね」

「ともかく戦えるのは、俺たち四人だけってことか」

「待て、僕たちも連れていけ」

 その時、スク水結界の中から声が飛んできた。

「私達は世界を平和にすると聞かされていたんだ。姫が隠し持っているボールを見つけ、世界に大きな流通システムを持つこの国にマイタケを生やすことで世界各国の飢餓を撲滅して戦争を無くすのだと」

「お兄ちゃんの言う通りだよ! スクール水着になるだなんて冗談じゃない!」

「……だそうだが。どうする、峰樹くん」

「ん、弟の逼迫した表情を見た感じ、知らなかったってのはほんとだろうな」

「当然だよ!? 僕らは金で雇われた傭兵なんだ。任務達成して大金を手に入れてもスクール水着になったらお金が使えないじゃないか!」

「私達の実力は知っているだろう。確実に力になれるぞ」

「……そうだな」

 裏切りのリスクもあるとはいえ、これから敵陣に踏み込もうってんだ。どんな罠が仕掛けられているか分かったもんじゃねえし、なにより今は戦力が欲しい。

「よし、いいぞ。ついてこい」

 俺の言葉に頷いた仙人は結界を構成していたスクール水着を壁から剥した。すると、魔術師を囲っていた薄い光の膜が消えてなくなった。

「峰樹、移動はどうする? 僕の召使ならいくらでも呼べるけど」

「いや、やめとくべきだ。移動途中で波動を当てられでもしたら一発で事故る。電車も見張られているかもしれん。なるたけ自分達で運転して近づくべきだろうな」

「僕の車に乗せてあげよう。乗用車だから五人までしか乗れないけど」

「私と弟にはバイクがある」

「私にも、姫様を乗せて動くためのサイドカー付きバイクがある」

「よし、なら三組に分かれていくか。大勢が同じ乗り物に乗るのはリスクが高いからな。仙人とナオ、魔術師二人、俺と小恋夜で行くってのはどうだ」

 周囲を見回すと、どうやら異論はないようだった。

「じゃあ日が暮れる前に向かうとするか」

 そう告げると各々が各々の支度をし始めた。着の身着のままでなんの手荷物もない俺は真っ先にマンションから出ようとして……玄関口で袖を引かれた。降り返ると小恋夜が神妙な面持ちで立っていた。

「おい、クソ男、いや、峰樹……その、峰樹、さん」

「……はい?」

 思いつめたその声に眉根を寄せる。

「姫様を、助けてはくれないか」

「ん、そのつもりだが」

「…………」

 小恋夜は目を伏せる。彼女の表情はとても真剣だった。

「姫様と出会うまで、私はずっと一人だった 。私は日本人と王国人の間に生まれたハーフで、スクール水着を着る才能がなかった。だから、ずっと周囲から馬鹿にされ、蔑まれて生きてきた。スク水力を操れない私はただひたすら剣士として鍛錬を積んだ。私には、それしかなかったから。でも姫様は、そんな私を自分の側近として選んでくれた。そして、友達だって、言ってくれたんだ。だから、姫様は、私の初めての友達で、初めての大切な人なんだ……!」

「…………」

「峰樹の持っていたあの宝石は、前王の形見であり、姫にとって大切なものだった。それこそ、私にすら預けて貰えなかったほどに。だからこそ、お前がそれを持っていたのは、正直羨ましかった」

 俺の袖を摘まむ指先が震えている。それで気付いた。小恋夜は不安なのだ。

「私にできることなら、なんでもする。金ならいくらでも出す。私の身体で済むのなら好きにしてもかまわない。だから、どうか……姫様を……助けてくれ」

「心配するな、任せとけ」

 俺は俯いたまま声を震わせる小恋夜の頭を優しく撫でた。

「ふ、ふん! かっこいいなんて思ったりなんか、しないんだからな……!」

「おう!」

 毒づきながら目を逸らす小恋夜が可愛く見えてしまった。

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