第四章

第13-1話 聖書の秘密(1)

 俺達はひとまず仙人の家に集まっていた。一人暮らしとはいえ、高級マンションなだけあってリビングは十分に広く、俺たちを収めてもまだまだスペースには余裕があるようだった。

「すまんな、何度もお邪魔して」

「別に構わないよ。スク水好きな人に悪い人はいないから」

 好きじゃないんだよなあ……。

「俺の家は今ぶっ壊れてるからな。おい、ナオ。お前きちんと直してくれるんだよな?」

「当然だよ。さっき直しておくように命令しておいたよ」

「ん、そうか。だが、修理が終わるまで何か月かかるか分からんな」

「明日には終わってるはずだよ」

「早すぎだろ」

 突貫工事すぎて逆に不安になるわ。

「それより、あの魔術師達も連れてきて大丈夫なの?」

 ナオは壁際で寝ている魔術師兄弟を指さして言った。戦闘後気絶していた魔術師二人をあのまま放置しておくわけにはいかず、仙人の進言を聞き入れる形でとりあえず彼の家まで一緒に連れてきたのだ。

「市販とはいえ四枚のスクール水着で結界を張っているんだ。そうそう抜け出せはしないよ」

「そうなの……?」

 正四角形の各頂点にスクール水着を置いた結界の中で魔術師は眠っていた。

「姫様……私が捕まりさえしなければ……」

 部屋の隅には小恋夜が刀を抱えて蹲っている。あいつはあいつで帰ってきてからずっとあの調子だった。姫さんの発信機はドレスについていたらしく、仙人と衣服を交換したため、受信機はすでに彼女の居場所を示してはいなかった。

「なあ、仙人。無敵のスク水パワーで姫さんの居所を突き止められないか?」

「あのね、無茶を言って貰っては困る。まるでスク水が万能であるかのように考えないで貰いたい」

 今まで結構万能だったろ。

「じゃあ、魔術師が起きたら聞いてみるしかないが、果たして知っているかどうか」

「しかし、なぜあの青年は姫様を殺そうとしているんだい? 姫を殺したところで世界征服なんてできないだろうに」

「確かに。そこは分かんねえな。いまいちその辺りの情報は不足しているのかもしれん」

「……それについては私が話をしよう」

 部屋の隅から小恋夜が歩いてくる。

「我が国、デストロイヤー王国がスクール水着を崇める風習のある国であることはご存じだな」

「すまん。知らなかった」

「なぜ、私達が古くからスクール水着を崇めているのか。その理由を説明するためには、まず私達の本当の正体を知らせなければならない。実は、私と姫様はホモ・サピエンスではない。我々はスクミズニョン人なのだ」

「適当すぎるだろ」

「我々の持つ古文書によると、私達の祖先は石器時代にはすでに男女問わず全ての民がスクール水着を着ていたといわれている」

「とんだ地獄絵図だな」

「彼らスクミズニョン人は、我々の祖国であるデストロイヤー王国の前身であるスクールミズギ王国を作った。しかし、スクールミズギ王国は、スク水力というあまりに強い力を持っていたがため、自滅の道を辿ることとなった。そのような内容の神話が、我が国には残されているのだ」

 小恋夜は懐から一つの書物を取り出した。それは持ち運び用の小さな聖書だった。

「遙か古、神々が作ったものが二つある。一つはチェス。もう一つはスクール水着だ」

「神はなぜそれを選んだんだ」

「某宗教の聖書には、人類の祖先であるアダムが禁断の林檎を口にしたがためにイブとともに神々の国を追放されたという記述がある。この話は、私の国の伝説に照らし合わせて考えれば、林檎とはスクール水着のことを指すと解釈すべきだろう」

「どう考えてもこじつけだろ」

「つまり、アダムは木に成っていた女子のスクール水着を着てしまい、その姿を神様に見られたがためにイヴとともに地上へと追放されたんだ」

「イヴが巻き添え喰らってんじゃねえか」

「しかし、アダムはただでは地上に堕ちなかった。神々の封印していた禁断の林檎である――神々のスクール水着を盗んでいったのだ。そうして彼はイブと共に地上で繁栄し、新たな血族スクミズニョン人としてこの地で独自の進化を重ねていったのだ。しかし……その繁栄も長くは続かなかった。アダムの着た神々のスクール水着には、この世界を滅ぼすほどの恐ろしい怪物が封印されていたのだ。あの男が『封印が解ける』と言っていたのならば、それは間違いなくその封印のことを刺しているに違いない」

 小恋夜は聖書をめくりながら続ける。

「神々のスクール水着に潜んでいた怪物は、長い時間をかけて人々持つ『闇のエネルギー』を集めていた。そして、ついにその姿をこの世界に顕現したのだ。その姿は……まるでこの世の邪悪を全て集めて塗り固めたような、禍々しいものだったと聖書に記述されている。まさに、邪悪の化身と名付けるのがふさわしいほどに。当時のスク水の民達は、邪悪の化身に対抗するために自分たちの知恵とスク水力を集結してそれを封印するための極大魔法を創り上げた」

「それが、王家の魔法と言うやつか?」

 小恋夜はこくりと頷いた。

「スク水の民は、多大な犠牲を出しながらもその極大魔法によって邪悪の化身を封印した。以降、人々の心の闇が化身の力を強めることを理解した彼らは、自らの国名を『繁栄しないデストロイヤー王国』と改名して、最小限の対戦結界を張り、伝説のスクール水着を護る聖地として今までひっそりと暮らしてきた」

「ん、どこにでも……はないが、よくある話だな。だが、結構大事な話だぞ。なんでそのことをもっと早く教えてくれなかったんだ!?」

「……失念していた。てっきりすでに姫様から聞いているものだと思っていた。だが、姫様は先の教団との争いで記憶を失っているんだったな……。まさか、聖書の内容まで忘れてしまっているとは思わなかった。そうでなくても、私は語るべきだった。極大魔法を代々受け継いできた血筋が、王族である姫様なのだから」

「極大魔法ってのは実在するのか!?」

「真実は、分からん。確かに王家の魔法とやらが存在することは知っていた。だが、姫様が使えたのは、術式を生命エネルギーで代替できる『少し便利な魔術』くらいのものだった。聖書にあるような強大な存在を封印できる莫大な力など持ち合わせていなかった。だからこそ、化身の存在については、私も今の今までは架空の出来事だと思っていた。だが、もしこの話が本当で、そして、リオンが姫様を殺そうとしているというのなら……」

 おいおい、まさか!?

「邪悪の化身が、リーゼの身体に閉じ込められているって言うつもりかよ」

「その可能性は……高いだろうな」

 小恋夜は俯いたまま、悔しそうにそう漏らした。

「もし今邪悪の化身が復活したらどうなるんだ?」

「分からん。だが、少なくとも世界の全ての人間がスクール水着になるのは確実だろうな」

「マジかよ」

 人類滅亡クラスなのかよ。

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