第12-2話 再戦(2)
「さて、戦う前に名前を聞いてもいいかい?」
「雪山峰樹だ」
「峰樹くんか。まったく君というやつは。スクール水着の真価を引き出すのには、この僕ですら三年の月日が必要だった。たった一日でそのレベルに達するなんて。君には少し嫉妬するよ」
「俺一人の力じゃねえよ。仲間がいてくれたから、俺は今お前と戦えるんだ」
「ふっ、謙遜するね。同じスクール水着を愛する者同士。こんな出会い方じゃなければ、親友になれたかもしれないんだけど」
「………………」
俺は今の発言でかなり溝を感じたぞ。
「でも、仕方ないね。僕には僕の目的がある。悪いが、君はここで倒させて貰おう」
「それはこっちのセリフだぜ」
「それじゃあ、いざ尋常に――」
「「勝負ッ!!」」
そうして、伝説の武装を持つ者同士の戦いが幕を開けた。
◇
戦闘開始と共に、リオンの姿が消えた。光速を超えた速度だ。普通の人間なら瞬きをする間もなく惨殺されることだろう。だが、今の俺には天魔の異能がある!
「見えてるぜッ!」
俺は首元目掛けて振り下ろされたヤツの手刀を受け止める。『超光速』で移動していただろうヤツが『天魔の異空間』に入った瞬間、その動きが急速に低下したのだ。
「さすがに減衰の影響は免れないか。でも、さすがに僕の動きを停止させるまではいかないみたいだね」
ちっ、その通りみたいだな。
相手も伝説の装備を着ているだけはある。天聖相手じゃさすがにゾーンの中でも動かれるか。だが、超光速は効力を失っている。リオンの動きはスク水の第一形態程度の速度に制限できるみたいだ。ならば、後は純粋な肉弾戦となるが。
「さすが旧スクだね。全く攻撃が通らない」
俺に片手を抑えられたリオンは、もう片手のみで打撃を加えてきたが……ゾーン内の天聖の攻撃では、天魔の防御力を上回ることはできない。自然生成される魔術防御が物理衝撃を緩衝するのだ。
「――む!?」
しかし、俺の脇腹から血液が迸った。
「よかった。光織剣まで防がれたら打つ手がないところだったよ」
リオンの手には、光の剣が握られていた。それは天聖の光を凝縮して創った剣だった。チリチリと音を立ててやがる。一目でヤバイ攻撃力を持っていることが理解できる。いかに天魔といえど、あの光剣は防ぎきれないだろう。
だが、逆に言えば、あれさえ気を付けて入ればダメージを受けることはない。差し引いても、まだこちらの方が有利だろう。
「……接近戦は不利かな」
くそ、剣撃にひるんでヤツの手を離してしまったのはミスだったな。自身の不利を自覚したのか、リオンはすぐに天魔の異空間の外に出て……上空に飛びやがった。掌に集めた光が弓状を形作って……まさか、あいつ、光の剣を射出するつもりか!?
俺の周囲を覆っていたゾーンを解く。もちろん魔術師弟を覆う部分だけは残してだ。次いで、空間全体ではなく、俺の周囲一メートルほどを膜で覆う。光速を超えて打ち出された光剣の矢がその膜に触れた瞬間、俺を覆っていた膜が瞬時にその一点に集まり、光剣の矢をその場で停止させた。
「む、そこまで繊細に操れるのか。そのスク水の操作力。一朝一夕で身に付いたもののようには思えない。……どうやら君は誰かの知識を継承しているみたいだね」
リオンは頭もいいらしい。交戦するたびに手の内を解析されているな。今みてえな攻撃に搦め手を加えられて攻められると、さすがに後手後手で対応しきれる自信はねえ。早めにケリをつけたいところだが、天魔の機動力では天聖には手も足もでねえ。隙を見て接近するか、接近したところをしとめるか。どちらにせよ『天魔の異空間』の中に入れることが最低条件か。なら……! これならどうだ!
俺も漆黒の翼を生成し、上空へと浮かぶ。そして、自身の周囲に凝縮していた異空間を目一杯に広げてみせた。それは採石場の上空全てを覆った。
「これは、空間全体をゾーンで覆ったのか。背水の陣と言ったところかな」
さすがに理解が早くて困る。そう今まで防御力に回していた力を異空間形成に使用したのだ。無敵の防御はなくなっちまうが、ヤツの動きを制限するほうが優先だ。
空中に浮いたまま、俺も漆黒の剣を生成して構える。
「さあ、純粋な肉弾戦を楽しもうぜ」
「ふっ、剣術は素人なのだろう。どれくらい戦えるか見てやろうじゃないか」
瞬間、かなりの距離にいたはずのリオンが俺の眼前に現れる。超光速を失ってはいるものの、不意打ちには十分な速度でその手に握る光剣を振るう。
「ハアッ!」
その一刀を、漆黒で固めた剣で相殺する。すぐさまリオンは詰めていた距離から離脱しようと後方へと飛翔する。ヒット&アウェーで一方的に攻めようとしてんだろう。だがな!
「――逃げきれないか!」
さっきは逃がしちまったが、機動力を失った天聖なら十分に追えるぜ!
「タアァッ!」
「ぐぅ!?」
振り下ろした漆黒の剣を、リオンは自らの光剣で防いだ。思わぬ反撃だったのだろう。その重みにリオンは空中で大きくふらついた。すぐさま俺は次撃を加えようと剣を振り上げた、その瞬間、俺の視界を眩い光が覆った。
「――なっ!?」
ここで光魔術での目晦ましかよ!? 気付くと、リオンは十分な距離を離れたところに浮いていた。まだ『漆黒の異空間』の中にはいるものの、さすがに体勢は整え直されている。
「さすがに一筋縄じゃいかねえな!」
「どうした、君からの先制攻撃はないのかい?」
「挑発しても無駄だぜ。攻めて来いよ」
「あくまでカウンター狙いってことかい? いいだろう、乗ってやるよ」
ここからは――精神の削り合いだった。リオンの剣撃を俺は捌き、カウンターで放つ俺の剣撃をリオンが捌く。そんな攻防を、何十回、何百回と繰り返してゆく。もちろん、その一戦一戦はコンマ数秒の話だ。異空間の外にいる者からすれば、俺達の攻防はまるで閃光のぶつかり合いにしか見えないのだろう。
「こ、これが神の力を持つ者同士の戦いか、まるで……」
「神話みたいですね」
神々しさすら感じられる、白と黒が交錯する世界を姫さん達はそう表現した。
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