第10-1話 救出作戦
……何かの音が聞こえる。荒い吐息の音。鼻先に果物を想わせる甘い匂いが漂ってくる。女性の匂いだ。ゆっくりと目を開けてみると、そこには――。
「リーゼ……?」
「ひゃぁ!?」
ベッドに寝そべる俺の、その真ん前に姫さんの顔があった。彼女は小さな目を見開いて、頬を真っ赤に染めている。
「お、おお起きたのですね!? おはようございます!?」
「もう昼過ぎだぞ」
時計の針は昼の十二時過ぎを指していた。
「なんで姫さんがここに……? ソファで寝てたはずじゃ。もしかして、眠れなくてこっちにきたのか? ……いや、確かに起きたときにベッドは譲るべきだったな。すまん、気が回らず。疲れてるならもう少し寝るか?」
「いえ、大丈夫です。しっかりと眠れましたから。ど、どうかしましたか? こちらをじろじろ見て」
「いや……ジャージ姿ってのが、なんか新鮮で」
「仙人様に貸していただいたのです」
「あいつの寝間着はジャージなのか……」
「スクール水着の上に羽織るらしいですよ」
「上から着んの!?」
しかし、ちょっとぶかぶかなジャージを着た姫さんにグッときてしまう俺はマニアックな性癖でも持っているんだろうか。
「えっと、似合っていますか?」
「おう、親近感が湧いていいもんだな」
「ふぇ、えへへ……」
うーん、これで胸があれば完璧なんだがなあ……。
「なんか顔が熱っぽくないか? 息も荒いし。後、汗とかも凄い気が……」
「は、はしたないことはしてませんよ!? 勇者様の寝顔を見て、下のお口をいじったりとか、絶対してませんから! ちょ、ちょっともじもじしたりはしましたけど……」
「よく分からんが、混乱してるのか?」
口が二つあったら化け物だろ。
「やっぱり寝たほうが良いんじゃないか? 土壇場で同じようなことになったら困るぞ」
「そ、そうですねー。もう少し横になろうかと……」
「あれ、お姫様はまた寝るのかい?」
そのとき、寝室の扉を開いてスクール水着仙人(シャツとカットソーとジーンズ着用)が立っていた。相変わらずの無表情だ。
「俺がベッドを独占してたせいか、まだ眠り足りないみたいだからさ」
「そうなのかい? 寝すぎて頭が痛いってさっき言ってたような。それどころか、勇者様の寝顔を覗くチャンスですぅ……とか凄く嬉しそうに呟いていた気もするんだけど」
「ふえええ! いい、言わないでくだしゃい!?」
「?」
なんで姫さんは両手をパタパタ動かしてるんだ?
「まあ、二人とも起きてるならちょうどいい。こっちに来てくれ。見せたいものがあるんだ」
そういうと、開けっぱなしの扉から仙人は出て行った。その後を俺と姫さんもついてゆく。
「実はね、こんな映像が届いていたんだ」
リビングについた仙人は、テーブルの上に置かれた一枚のスクール水着を指さした。新品であることを鑑みると、仙人の予備のスク水なのだろう。その水着の名前を書くところが、ぼんやりと光っていた。
「なんだ、これは?」
「スクール水着通信だね。第二次世界大戦では極秘の通信手段として軍事利用されていたことが有名か。けど、映像の送信にはかなりのスク水力がいるから、もはや今の時代にできる人はいないと思っていたけれど……」
「スク水を軍事利用って、そんなことありえるのか……?」
「その先入観がミソなんだ。まさかスクール水着を通信に利用するだなんて誰も考えたりしないだろう?」
確かに、解説を受けたはずの俺もいまだに脳が理解するのを拒否してるしな……。
「スクール水着には録画機能もついている。今から僕が力を注いで録画再生をしてあげよう」
仙人はスクール水着の肩口に手を置いた。名前を書くところの光が強くなってゆく。
画面に映った場所は……どうやら石灰石を掘り出す採石場のようだ。遮蔽林に囲まれた山地。階段状にベンチカットされた岩盤はチョークの粉を塗したかのように一面真っ白だ。地面には発破されて起砕された細かい岩石が散らばっている。また、画面端の開けた一帯にはホイールローダ、油圧ショベル、ダンプトラックなどの露天採掘のための重機が並んでいる。
画面の中央には、柱に吊るされたナオと小恋夜の姿があった。二人は地面に突き刺された鉄骨のような十字架に両腕両脚を紐で括りつけられていた。
『御覧の通り、君の仲間を捕えている。取り返したければこの場所に来たまえ。歓迎するよ』
スクール水着の袖口からそんな声が聞こえてきたと思うと、画面全体に地図が浮かび上がった。東京郊外の山地の一部に赤い印がつけられている。映像はそれで終わりのようだ。
「大変なことになりましたね」
「そう、だな」
すまん、正直スクール水着通信に違和感がありすぎて脳がシャットダウンしかけてる。
「地図の場所はここから結構あるところだ。採石場は戦隊モノの撮影でよく使用されるみたいだけど、重機が残ってるところをみると今も使われている場所を陣取っているようだね。今日明日のうちの決着を望んでいると見える」
「今のところは無事だが……これからも無事という保証はないってことか。普通に考えて罠がたっぷり仕掛けられてるだろうな。さて、どうするか」
「私が囮になります」
そう言ったのは姫さんだった。
「勇者様は、私たちのために命を賭けて頑張ってくれました。次は、私が頑張る番です。私だって守られてばかりのか弱い女ではありません。ここぞという時は男気を見せてやりますよ!」
姫さんは力強く微笑み、小さな拳を振り上げた。
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