第9-3話 スクール水着の試練(3)

 朝の陽ざしが目元に差し込んでいる。ゆっくりと起き上がる。

 時計を見ると時刻は午前八時だった。衣服がスクール水着ではなく部屋着となっていることに気付いた。前も同じだったが、変身が解けると変身前に着ていた服装に戻るらしい。どういうシステムなのかは分からないが、全裸でほっぽり出されるよりはマシだ。そんな風に思考を整えながら、俺は寝室を後にした。

「無事に回復したようだね。そこにお茶を入れておいたから飲むといい」

「すまんな」

 リビングに足を踏み入れると仙人がそんな風に声をかけてきた。キッチンルームのほうで作業をしているのか、彼の姿は見えなかった。

「姫様は?」

「まだ寝てるよ」

 よく見ると、リビングにある白いソファの上に毛布を被った塊があった。毛布は寝息とともにゆっくりと上下している。あれが姫様なのだろう。

「彼女もずっと起きてたみたいだよ。君が無事だと伝えたら糸が切れたように眠りについた。王家の魔法とやらを使って疲れていたみたいだし、もう少しは寝ているんじゃないかな」

「……そうか」

 起きたらお礼を言わないといけないな、と。そんなことを考えながら、キッチンから近づいてきた声の主に視線を向けて、白のワイシャツに深緑のカットソー、ネイビーのジーンズというお洒落な格好をした青年に茶を噴き出した。

「だだ、誰だお前!?」

「はあ? スク水仙人だけど……?」

「お前、普段着はカットソー着てんのか!?」

「ユ○クロで買ったんだ」

「ユニク○で!?」

 言いながらテーブルについたスクール水着仙人は優雅な所作で紅茶を啜った。なんだこのイケメンは……。まともな私服着てたらほんと誰だか分かんねえな……。

「まさかこの僕がスクール水着を脱ぐ日がくるとはね。そんなことはお風呂の時くらいだよ」

「結構脱いでんじゃねえか」

 一日一回は脱いでるだろ、それ。

「ところで、見たところ君も疲労が残っているようだね。もう少し寝ていたほうがいい。お昼になったら起こしてあげるよ」

「……そうだな」

 確かに、睡眠不足のせいか頭が少しぼんやりとしていた。

「仙人はいいのか? 俺に付き合ってたんだから寝てないはずだよな」

「僕は睡眠時間三十分あれば充分だから」

「マジかよ」

 ショートスリーパーってレベルじゃねえぞ。

「それじゃあ、俺はもうひと眠りさせてもらうぞ」

「うん、僕は朝の読書タイムを楽しむとするよ。大好きな海外作家の新作が出てね。推理モノの大御所なだけあって考察が凄く捗るんだよね」

 仙人は電子書籍を指先で捲りながら一口紅茶を啜った。その顔は相変わらず無表情だが心なしか声が弾んでいる気がする。てか、つくづく洒落た趣味をしてやがるな、お前。

 俺は眠気眼をこすりながら踵を返して寝室へと向おうとした。が……やっぱり我慢できなくなり、その途中で振り返った。そして、ずっと思っていたことを口にした。

「お前、私服のほうがイケてるぞ」

「ん? そうかい?」

 仙人は少し嬉しそうだった。

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