第8-1話 スクール水着のレベル2(1)
「……行ってきたぞ」
仙人の自宅に着くと、俺は抱えていたスーパーの袋を玄関口に置いて、膝から崩れ落ちた。普通の人に紛れてスク水着て買い物するのがこんなにつらいことだとは思わなかった。土曜の昼過ぎって人の多い時間帯であることに加えて、ドレス姿の姫さんが人目を集めること集めること。いや、正直人生で五本指に入るくらいにはダメージ食らったぞ、マジで。
逆にマンションのエントランスですれ違った主婦のオバサンなんかからは「あらあら、仙人さんのお弟子さん? 頑張ってるわね~!」などと温かい言葉を掛けられた。ただただ恥ずかしかったわ。
「ごくろうさま。……ん、頼んでたものは全部買えてるようだね」
レジ袋を覗き込みながら、仙人はそう言った。
「いい運動になっただろう?」
「もっとマシな運動があるだろ」
冷や汗しか出んわ。
「で、この行動には何の意味があったんだ?」
「特に意味はない」
「ないんかい」
「そうだね、意味はない」
「ないんかい」
「晩御飯の材料が切れてたのを思い出しただけだから」
「そうかそうか」
…………よし。
「コロス」
「ま、待ってください勇者様!?」
「止めるな姫さん! ちょっと首を折るだけだッ!」
「ダメです! そんなことをしたら死んでしまいます!」
「くそおお離せえええ……う!? うぐっう!?」
ぐ、なんだ、急に身体から……力が抜けて……。
「ん、ちょうどいいタイミングだ。ついに始まったか」
「てめえ……意味はねえって……」
「買いに行かせたこと自体には、ね。気付いてなかったみたいだけど、スクール水着は着るだけでもかなりの生命エネルギーを消費するんだ。長時間の装着なんてさもありなんだ。その上に羞恥心という極度の精神的負荷がかかったんだ。そうなるのは当然だよ」
「こうなることは分かっていたのですか!?」
仙人はこくりと頷いた。
「別に症状を出さないようにすることもできたけど……君たちが目指すのはスクール水着の第二形態の会得なのだろう。そこに到達するには、その症状は避けては通れない道だから」
淡々とした口調で仙人は説明する。
「君たちはボディスキーマという言葉を知っているかい。簡単に言えば、『ここまでが自分の身体なんだ』という自己認識のことでね。例えば、僕達はお箸やスプーンを使っていとも簡単に食事をしてみせるだろう。これが可能なのは、僕らの脳が『箸の先』までを身体の一部として認識しているからなんだ。また、自動車を狭い道でもぶつからないように運転できるのも、車体を自分の身体の延長線上として認識しているからだ。そして、それはスクール水着でも同じなんだ。今までスクール水着を着慣れていなかった君は、無意識では『スクール水着は自分の一部ではない』と感じていた。それが長時間着用していたことにより、自分の身体の一部だと受け入れ始めたんだ。つまり、スクール水着が身体の一部になり始めているってことだね」
すげえ嫌な響きだな。
「スクール水着の第二段階を会得するには、スクール水着のポテンシャルを最大限引き出せるようにならなければならない。それは、文字通りスク水と一体化する必要があるということだ。そうして君が一体化を果たした上で、その身に纏ったスクール水着の力に打ち勝つことができれば、君が望む最強の力を身に着けることができるだろう」
「待ってください! では、勇者様がスクール水着の力に負けてしまったらどうなるんですか!?」
「逆にスクール水着が彼の身体を支配するだろうね」
「つまり……?」
「彼自身がスクール水着となる」
「マジかよ」
冗談はよしてくれよ。
「こういう格言を知っているかな。『スクール水着を見つめるとき、スクール水着もまた君を見つめているのだ』。君がスクール水着を着るのと同時に、スクール水着もまた君を着ているんだ。これはスクール水着が君の一部になるか、君がスクール水着の一部になるかの戦いなんだ」
なんてことだ……絶対に負けられねえ戦いじゃねえか……。
「もう身動きも取れないだろう。こっちに寝室がある。寝かせてあげるといい」
「勇者様、肩を貸します。こちらへ」
「す、すまん……」
姫様の肩を借りて、俺は寝室へと歩き出した。
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