第7-1話 スクール水着仙人(1)

 そんなこんなでわずかに休憩を挟んだ後、電車に揺られること数十分。新都心駅についた俺たちは、直通の地下通路を歩いて件のファッションビルディングに入った。テナントには二十代後半から三十代の女性に向けた、高級感のあるブランド店が並んでいる。

「ほんと良い店ばっかだな。俺なんか場違い感半端ないぞ」

「そんなことありませんよ。勇者様も充分相応しい恰好をしています!」

「それはねえ」

 コート一枚羽織ったその下はスク水だぞ。ぜってー職務質問されるわ。

「うえ……姫さん、やっぱ富士に行こうぜ。こんなとこにスク水きた男がいるわけがねえって……」

 愚痴も空しくエスカレーターは俺たちを次のフロアへと運ぶ。居心地の悪さを噛みしめながらも、エスカレーターを降りて視線を動かす。三階フロアは雑貨やインテリアをメインとした階層らしい。椅子一つで十万を超えるような高級インテリアが広々とした空間の中にぽつりぽつりと贅沢に置かれている。当然、スク水を着た馬鹿な店員などいるはずもない。そんな調子でフロアのさらに奥へと目を向けると視線の先に……スクール水着を着た青年がいた。おるやん。

「いたあああああああ!!?」

 脳の反応に遅れて、口から驚愕の声が漏れる。

 それはショートヘアの無表情な男性だった。紺色のスクール水着を着て、その上に真っ白のワイシャツを羽織っている。剥きだしの肌は綺麗で、細くも筋肉質な腕や脚は、無駄毛がしっかりと手入れされている。店長をしている以上、それなりの年齢なのだろうが、傍目では高校生と間違えてしまいそうなくらい童顔の青年だった。しかも、腹立たしいことにかなりのイケメンである。そんなイケメンスク水男は、落ち着いた声でお嬢様学校の生徒であろう上品な佇まいの女子高生二人と普通に話をしていた。

『これは大理石で作られたイタリア製のセンターテーブルだね。天板に刻まれたこの模様は象嵌細工で出来ていてね、この内側に向かって湾曲した猫足の脚部と合わさって、古き良き中世ヨーロッパの面影を感じさせると、各国でも人気なクラシック家具なんだ。スクール水着と同じだね』

「ガチで接客してやがる!? ……いや待て! 最後のスク水は意味わからんだろ! 女子高生に言ってもドン引きするだけじゃねえのか!?」

『もうっ、仙人さんってば、冗談がご上手なんだから!』

「愛されてるだと!?」

「素敵ですよねっ」

「分からん」

 姫さんは男性アイドルグループを見るような目で仙人を見つめている。

 うん。俺には分からん。

 まあ、ともかく、それっぽいヤツが見つかったんだ。声をかけるしかねえだろうな。

 そうして俺達は人が掃けたタイミングを見計らって、仙人と思しき青年に話しかけた。

「あの、すみません。おま……貴方が、その、スクール水着仙人ですか?」

「そうだけど、君は?」

「俺は、こういう者なんだが」

 少し躊躇しつつも俺は全身を覆っていた上着を取り払った。そうして露出した女子のスクール水着を見た仙人は、ぱっと目を見開いた。

「……驚いた」

「そ、そうか?」

「君はその歳でそんな変態趣味を持ってるんだね」

「人のこと言える恰好か!?」

 鏡見てから物を言えよ! ……いや、人のことほんと言えないけどさ!

「冗談はさておき。なるほどね、大体事情は把握したよ」

「え、スク水見せただけだぞ」

「見たらわかるよ。悪の組織ディベルトヘルズ教団がこの世界を支配しようとしていて、君達雪山峰樹君とそちらのリーゼ姫様はそれを阻止しようと活動しているんだろう?」

「マジかよ」

 何をみたら具体的な内容まで当てられるというんだ。

「千の言葉よりも残酷なスク水という説得力ですね」

「意味が分からんぞ」

 一気にチープになったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る