第5-3話 再戦(1)
「しかし、まずいな。こっちには戦えるヤツがもういねえぞ」
相手は魔術師が二人。対して、こちらは人数こそ四人いるが全員が非戦闘員だ。逃げようにも、サイコキネシス使いがいるから難しいだろうな。せめて相手が油断でもしてくれればいいんだが。
「先日のお礼だ! 貴様は徹底的にいたぶってやるからなあ!」
魔術師弟はそう息巻きながら蒼い液体の入った小瓶を取り出した。蓋を開けて地面に垂らすと、わずかだった液体が渦を巻くように空気と混じって大きく膨れ上がった。そうして青年の手に握られたのは、蒼く輝く宝石のような金属の剣だった。
「なんだ、アレは?」
「あの色、あの輝き! 間違いありません、あれはオリハルコンです!」
「なに!? あの伝説の金属か!? 一体どこからんなものを!?」
「諜報部隊曰く、ねるねるね○ねを練っていたらできた、と」
「ねるね○ねるねで!?」
「練れば練るほど色が変わるからね」
「その発言は適当だろ!」
色が変わったらオリハルコンになるのかよ! 食ったら喉がボロボロになるわ!
「おい、そこの変態男。一騎打ちといかないか?」
魔術師弟が鼻息荒くそう言ってのける。どうやら名誉挽回を望んでいるらしい。一対一ってのは好都合だが、生身でどこまでやれるか分からんな。だが、受ける以外に選択肢はねえ。やれるだけやってやるか。
「OK、その提案受けてやる」
「ははっ、そうこなくてはな!」
俺は一歩前に出る。魔術師弟は両腕を組んだまま、その場を動こうとはしない。カウンター狙いってわけでもなさそうだ。あくまで余裕の勝利を演出して、自らの力を誇示したいのだろう。確かに客観的にみても舐められるだけの戦力差はあるが、……その油断には付け込ませてもらうぞ。
「いくぜ!」
宣言と共に俺は魔術師に向かって真っ直ぐに駆けだした。当然、鉄槍による迎撃が飛んでくる。その軌道は真っ直ぐ。予想通りの反撃だ。愚直な一手に対して搦め手を指してしまっては余裕の勝利は演出できないからな。俺は投擲された槍を回避しながら、事前に拾っておいた鉄塊の欠片を投げつけた。魔術師は顔面目掛けて放たれた塊を掌で叩き落とす。その隙に、俺はヤツの懐に潜り込む。
「へえ、なかなか動けるじゃないか!」
「こちとら、体だけが取り柄なんでな」
「だが、僕は通常戦闘でも一流と言ったはずだ! 貴様など赤子の手をひねるように倒して……むっ!?」
魔術師弟の放つ腹部への斬撃を手の甲で軽々といなす。代わりに、その腹に打撃を一撃加える。反撃に備えて体重を乗せきることはできないため大したダメージはないだろうが、ひるみはしたな。
「そ、その身のこなし!? 貴様本当に一般人か!?」
「古聖森々学園にまともな生徒はいねえよ!」
言いつつオリハルコンの剣の薙ぎ払いを躱し、腹部に蹴りを食らわせる。思った通り、ヤツの魔術は中遠距離が主力だ。近接戦闘では槍を出そうが剣を出そうが、格闘技の延長線にしかならねえ。そして、接近戦は俺のほうに分があるみたいだ。さらに、油断していた分、今こいつは激しく動揺していることだろう。ならばこうやってダメージは期待せずひたすらポイントを稼いでいたら、いつかは――、
「こ、このォ!」
大きな隙ができる! 俺は全体重を乗せた振り下ろしの斬撃を潜り抜けるように回避する。同時に隙だらけのその顔面に向けて、こちらも全体重を乗せたカウンターを放った。
「ざーんねん」
しかし、俺の拳は顎先に届かず、視えない壁に阻まれるように中空で停止していた。こいつは……魔術障壁ってやつか!? くそ、腕だけじゃなく全身が動かねえぞ!?
「ふはは、本当に勝てるとでも思ったか? 本気で魔術を使えば貴様など、この通りだ」
魔術師弟は構えていた刀を下ろし、指先を俺に向けてゆっくりと弾いた。
「ぐあっ!?」
それだけで、俺の身体が吹き飛ばされる。横壁に全身を打ち付けてなお、悪いことに動きを停止させる魔術は解けていない。俺は磔にされたまま身動きが取れなくなっちまった。
「ぷぷぷ、手も足も出まい! 次はその身体をこの剣で切り付けて――」
「――弟よ、もういいだろう。多少腕が立てどそいつは一般人だ。やりすぎは看過できんぞ。目的を忘れるな。任務を遂行するぞ。姫を捕まえろ」
「むー、分かったよ」
文句を垂れ流しながらも、魔術師弟が姫さんへと近づいていく。
「ひ、姫様に手を出すな! わわ、私が倒してやるぞ……!」
小恋夜がその間に割って入った。勇ましくファイティングポーズを取る彼女だったが、怯え切ったその腰は大きく逃げだしており、いわゆるへっぴり腰そのものだった。
「邪魔をするな、ほれ!」
「ふにゃあ!?」
鼻先で指ぱっちんを食らった小恋夜は、か弱い悲鳴を挙げてばたりと倒れこんだ。その拍子にスカートの裾が、壊れた机の角に引っ掛かって破ける。剥き出しになった白い下着に、魔術師弟が淫らな笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、いいこと思いついたんだけど」
「……そいつは一般人でない。好きにしろ」
「ふへへ、やったぜ。それじゃあ、まずは、っと」
「な、何をす……きゃ、きゃあああああ!?」
魔術師弟は鉄の拘束具を生成して、小恋夜の手足を束縛する。両腕は頭の上、両脚はM字に開かれた形を強要される。そして、青年は力づくで彼女のスカートをビリビリと破いた。小恋夜は丸見えになった下着を隠すこともできず、瞼に涙を浮かべて唇を噛みしめている。
「け、剣士たるもの、この程度の恥辱で狼狽えはしない……!」
「そうか、では下着も破いてしまおうではないか」
「ひっ、男の前だぞ!? や、やめてくれ!?」
「……おい、てめえ! やっていいことと悪いことがあるぞ!」
「拘束された貴様なぞ恐るるに足らず。僕を辱めた罰だよ。貴様の代わりに、この女は校庭に全裸で磔の刑に処してやる!」
「ひいぃ!?」
口元を引き攣らせた小恋夜を見て、魔術師弟がにやりと淫らな笑みを浮かべやがる。……久々に怒ったぞ。
「いい加減にしろよ、このクソ――」
――その単語を呟いた瞬間、俺の全身が眩い光に包まれた。
「はははは! 止めれるもんなら止めてみろ!」
「――ああ、止めてやるよ」
「ひょ?」
小恋夜の下着を割こうとしていたオリハルコンの剣を素手で掴み取る。そのまま拳に力を籠めると、蒼い大剣はいとも容易く砕け散った。
「オリハルコンを素手で打ち砕いただと!? それに貴様、僕の魔術を一体どうやって……はっ!? その紺色の衣装は!?」
「分かったぞ」
魔術師弟の言葉を聞き流し、俺は確信を呟いた。
「『変態』が、変身のキーワードだったんだな」
この姿に変身できたときの共通点といったらそれしかねえ。他にも条件はあるかもしれんが……『変態』と口にすること。おそらく、それが変身するために必要な行動なんだろう。
「くそ、こんな大事なことも伝え忘れやがって! あの変態じじい……次に会ったら問い詰めてやるからな……!」
愚痴を漏らしつつ、俺は一度深いため息をつく。
「それはそれとして……まずは小恋夜の救出が先決か。よいっと」
「……むっ!?」
俺は一足で魔術師兄の傍に移動して、その手に握られていた刀を奪い取った。続いて、もう一足で小恋夜の脇に行き、彼女の拘束具を破壊する。
「おい、大丈夫か、大事な刀を取り戻してやったぞ」
「お、お前、その格好は……」
「言うな。俺だって好きでやってるわけじゃないんだ」
「なんて、かっこいい姿なんだ!」
「は!?」
心なしか、目がハートになっている気がするんだが。
「お前、そんなカッコいい姿をするなんて卑怯だぞ! 今のお前になら……抱かれてもいいんだぞっ?」
「反応変わりすぎだろ!」
お前らにとってスクール水着はどういう立ち位置なんだよ!?
「そして、ふふふ、我が愛刀刹那よ! よくぞ戻ってきてくれた! 今の私に斬れないものは存在しない! この溢れ出る才気で自明党と原発利権すらも分離してくれるわ!」
「危ない発言はやめろ!」
なんで刀握るといちいち政治に対して言及するんだ、こいつは。
「ふふ、この程度で危ないだなんて初心なやつめっ。可愛いヤツだなぁ。でも、その調子では私の絶技には耐えられないぞ? こう見えて私はベッドの上では凄いんだからな……っ?」
「何の話をしてやがる」
「ダメですよ、小恋夜」
「そうだ、姫さん! こいつを止めてくれ!」
「三人で楽しみましょうっ」
「違う! そうじゃない!」
「ぐぅ、なんだあいつら! 人前でいちゃいちゃしやがって!」
「はっはっは、弟よ。もっと心に余裕を持つのだ。そうすれば美しい女の一人や二人くらいすぐに見つけられンアアアアゼッテーブチ殺シテヤルウゥゥゥ!!!」
「全てが俺に対して一方的すぎる!」
人の話は聞かないわ、惚れられたり貶されたり、いい加減頭おかしくなるわ!
「くそ! ナオ、脳内お花畑の二人を頼む。すぐ終わらせる」
「はーい、頑張ってねー」
女性二人を緑茶啜ってやがったナオの後ろへ招き渡し、俺は魔術師二人と対峙する。
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