第一章
第2-1話 超ハイスペックなお姫様現る。しかし、その趣味は――?(1)
「なあ、ナオ。もしも俺が世界を救う勇者で、世界を救うための装備が女子のスクール水着だったらお前どう思う?」
「頭おかしくなっちゃった?」
朝のHR前の教室。自席に座ってスマートフォンをいじっていた俺の友人、
「大丈夫? 病院行く? 腕のいい医者を紹介するよ?」
ナオは、同情心に満ちた表情で俺を見つめてくる。
「いやいい。俺はまだまっとうだ」
「右脳と左脳を取り除いてくれるよ」
「一つ取り除かれただけで死ぬわ」
闇医者紹介すんじゃねえよ。
しかし、そんな風に嫌がる俺の態度を見て、ナオはその童顔の口元をにっこりと歪めてやがる。仲上ナオ。小柄な体型で一見優しそうにみえるこの友人は、可愛い系男子として学校内の女子たちから謎の人気を得ていたりする。しかし、見た目に騙されてはいけない。こいつの正体は、悪魔の所業を平然と行う鬼畜系男子なのである。
「もういい、忘れてくれ。ちょっとした気の迷いだ」
「誰にだって失言はあるからね。完璧なエピソード記憶にして忘れることにするよ」
「覚える気満々じゃねえか」
忘れてくれよ。
まあ、朝っぱらからこんなアホみたいな問いかけした俺も悪いがさ。
「ところで……どうしたの、その右手に巻いた包帯は? 中二病でも発症したの?」
「それだったらどれほどよかったか」
「?」
包帯で覆われた俺の右手に視線を向けたまま、ナオは首を傾げた。
病人よろしく、今俺の右手は白い包帯でこれでもかってくらいぐるぐる巻きにされている。
これは……苦肉の策だった。右手に刻まれた『スク水』の紋章。これを消そうと、俺は起きてから今に至るまでありとあらゆる努力をした。しかし、撫でても擦っても舐めても掻き毟ってもこのクソったれな紋章は消えてくれなかった。消せないならいっそ気にしないでおこうとも考えた。だが、手の甲なんて嫌でも人目に付くところじゃねえか。手袋で覆っても隙間から光が漏れやがる。だから、こうして包帯で徹底的に覆うしかなかったのだ。
「まあ、気にするな。悪趣味なファッションにハマったとでも思ってくれ」
「全然気にしてないよ。君の頭がおかしいのは今に始まったことじゃないからね」
「お前にだけは言われたくねえな」
自習中に教室内で勝手にバーベキューし始めた挙句、教師に顔面焼かれかけたヤベーヤツだろ、お前は。
「……はあ」
俺は肩に掛けていた学生鞄を自席の脇に置いた。そのまま椅子に腰かけると、自然とため息が漏れ出てきた。
「本気で悩んでるみたいだね」
「そうかもな」
「話し相手になってあげようか?」
「いいよ……どうせ信じて貰えないし……」
「そう卑屈になるなよ。もしかしたら力になれるかもしれないだろ。僕の心は太平洋よりも広いんだ。どんな世迷言でも全部受け止めてあげる自信があるよ! 遠慮しないで話してみなよ!」
「病人扱いとかしないか……?」
「当然だよ!」
こくりと頷く友人に胸を打たれる。そして、俺はポツポツと話し始めた。
「非常に話しにくいことなんだが、実は、どうやら俺は神に勇者として選ばれたらしい」
「うん」
「今朝な、神様が夢に現れたんだ。そいつが言うには、遙か昔、神々が封印した邪悪な存在が甦りつつあって、この世界を滅ぼそうと目論んでるらしい。それに対抗できる唯一の存在……勇者が俺だって告げられたんだ」
「うん」
「勇者はこれから顕現する邪悪な化身に立ち向かわなければならない。そのための装備も夢の中で授けられた。だが……その装備の形状が、少し特殊っていうか、極めてクレイジーなものでな……実は女子のスクール水着だったんだ」
「うん?」
「イカれた神様は、勇者の証として俺の右手に紋章が刻みやがった。それも……女子のスクール水着の形をした紋章だ。この紋章は時々強い光を放つもんで、今は包帯で隠してるわけだ」
「なるほど、それは大変だ」
「オイコラ待て。何救急車呼ぼうとしてんだ!」
「だって……頭が壊れて……」
「壊れてねえ! いいからその腕を下ろせ! 救急番号タップするのやめろ!」
「もしもし警察ですかー?」
「刑務所入れる気か、てめえ!?」
仮にも心の広い友人がする行動じゃねえぞ。
「まあ、話は分かったよ。つまり、峰樹は世界の平和を守るため、神様に勇者として選ばれたってことなんだね!」
「え……? お前、信じてくれるのか? こんな突拍子もない話を……」
「普通は信じないけどさ。何時間も泣き腫らしたような痕が目蓋の下に残ってるし」
そりゃあ、あまりのショックに起きてからずっと泣いてたからな……。
「まー、それでも色々ツッこみたいところがあるんだけどね。とりあえず、なんで世界を救う武器がスクール水着なの?」
「諸事情らしい」
「どんな事情なの?」
「知らねえよ。それに関しては俺も異論しかねえんだ」
「ふーん……輝く紋章があるから包帯をしているんだよね? それ、本当の話なの?」
「んなアホな嘘つくわけねえだろ」
「僕は半信半疑なんだ。せめて物的証拠を見せてくれないと完全には信じられないよ」
「む……」
まあ、こいつの言うことにも一理あるか。
「オーケー。見せてやる。だけど、絶対引くなよ? 引いたらガチで泣くからな?」
「何を言ってるんだい! 君と僕の仲じゃないか! 絶対に引いたりなんかしないよ!」
「そうか。ならいくぞ? ……ほら」
俺は包帯を解いて、手の甲に刻まれた『女子のスクール水着』の紋章を曝け出した。
「うっわ……ないわ……」
「ううぅ……」
堪えていた涙が両目から溢れ出てきた。
「こんなところで泣くなよ! 大の男がみっともないだろ!」
「傷口抉っておいてよく言うわッ!」
鬼か、てめえは。
「でも、これで確信したよ。峰樹は勇者に選ばれたんだね!」
「信じてくれるのか?」
「ああ! 手の甲に変な模様を刻むくらいの芸人魂が峰樹にあるはずないもん!」
「判断基準がズレてる気がするが……正直嬉しいよ、持つべきものは友達だな。俺の身を真剣に案じてくれるなんて」
「くっそ笑える! ほんとマジ受けるんだけど!」
「殺すッ!!」
俺はナオの襟首を両手で掴み上げた。
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