第6話 とにかく彼女とデートに行きたかった男
第二体育倉庫での
一日中そんな調子で、気づけばもう夜中。
帰宅した後で夕飯を食べて風呂に入って、自室にいる。
少し早いけど、やることもないのでさっさとベッドで横になろうとして。
俺は大事なことをやり残しているのに気づいた。
……まだ、
あんな騒ぎがあったからすっかり忘れかけていたけど、沙空乃から言い渡された試練だ。
今日中に陽奈希を誘わないと、俺は好きな人から軽蔑されてしまう。
だからって、間違えて告白してからズルズル付き合わざるをえない状況になっている相手を、更にその気にさせるような真似は「果たして本当にこれでいいのか」と思わなくもない。
しかし、良い打開策が見つからないのだから、現状維持するしかないのだ。
……ドツボにはまっている自覚は、一応ある。
これ以上、答えの見つからない自問自答をするのはやめよう。
そろそろ陽奈希に連絡を取らなくては。
いい加減、夜も遅くなってきたし……と思いながら時計を見たら。
只今の時刻は、23:55。
「あと5分しかない……だと……!」
これはマズい。
ラインでメッセージ送って返信を待てばいいやと思っていたけど、それじゃあ手遅れになる。
最悪、陽奈希がもう寝ていたら、一巻の終わりだ。
俺は慌ててスマホを手に取り、電話をかけた。
頼む、出てくれ……!
俺が念じるようにそう思っている中、呼び出し音が鳴り始める。
プルル…『も、もしもし!』
ワンコールもしない内に、繋がった。
……いや、早すぎだろ。
「えっと、俺だけど……悪いな、夜遅くに電話して」
『全然大丈夫! むしろ、
陽奈希はハイテンションな声で、少し早口になりながらそこまで言ってから。
一瞬間が開いた後、打って変わって抑え気味の声で、続けた。
『……たりはしないけど、その……とにかく電話してくれて嬉しいよ?』
「お、おう……そりゃどうも……」
……素直に感情表現するようになった陽奈希にも、恥ずかしいと思うことはあるらしい。
にしても、ここで恥ずかしがるってことは……まさか本当にスマホを片手に待機してたのか?
来るかもわからない、彼氏からの……俺からの連絡を待って。
いや、いやいや。
なんだそれ、健気すぎるだろ……!
『それで……どうかしたの?』
「あ、ああ……そうだった」
って、何を狼狽えているんだ俺は。
今はそんな場合じゃないだろう。
「……今週末とかって、空いてるか?」
『え……? うん、日曜日なら大丈夫だよ。土曜日は文化祭実行委員の集まりがあるから、学校に行かないといけないんだけど……』
陽奈希の声は、この先の言葉を察したのか、どこか期待が込められているように聞こえた。
俺はその期待に応える。
自分がどうしたいのかも、分からないまま。
「それなら、日曜日にどこか行かないか?」
『うん!』
即答だった。
『それって、デートってことだよね!?』
「まあ、そういうことだな」
『ーーーーーっ!!』
電話の向こうから、何やら声にならない声と、柔らかいもののの上で激しく動くようなバタバタ音が聞こえてきた。
「おーい、大丈夫か?」
『へっ!? あ、うん、全然平気! むしろすごく嬉しい!』
俺の問いに、陽奈希は高揚感が抑え切れない感じの声を返してくる。
ベッドにいるようなことを言っていたけど……まさかその上で嬉しさのあまり悶えていた、とか。
『ねえ、どこに行くかはもう決まってるの?』
「その辺の予定はまだこれからだけど……一応、こっちで考えるつもりだ」
エスコートしろと沙空乃に言われたし、恐らく誘うだけじゃなくてプランまで俺が練らないといけないんだろう。
と、何の気なしに俺が答えると。
『つまりそれって……渉はどこでもいいから、とにかくわたしと出かけたくて、気の赴くままに電話してきたってこと?』
ああ……そういう取り方も、できるのか。
しかし陽奈希はどうも、俺の無計画さを責めているわけではないようで。
『ふふ……わたしも渉とデートするの、楽しみ』
目前に迫る日曜日に思いを馳せるように、喜びに満ちた声で囁いてきた。
……間違えて告白した相手の好感度を稼いでどうするんだ、俺。
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