第6話 「更衣室」で、幼なじみと二人きりになってしまった!
「なんだと?」
「前に持ってた水着のサイズが合わなくなってきてさ。一緒に見て欲しい」
「あのなぁ。他の女子を誘えばいいだろ!」
なんで男のオレが、ついて行かなければならないのか。
「殿方のご意見を賜りたくてねー」
うれしそうにしやがって。
「そんな場面、クラスの奴らに見られたら、どんなウワサを立てられるか」
「だって、そのために地元から一駅離れたモールまでついて来てるんだから」
始めから計画済みだったのか、このヤロウ!
地元のデパートより遊ぶところが多いから、ここを選んだんじゃなかったんだな。
「ちゃんと意見、聞かせてね。毎回アンタの小説の感想答えてるんだから」
「分かったよ」
そう言われると弱い。オレは、渋々ついて行くことにした。
「売り場は三階だって。このエスカレーターで一度降りたらすぐだね」
ここ、女性専門の水着売り場じゃねーか!
「刺激が強いな」
あまりに派手な水着のオンパレードで、尻込みしてしまう。
スリングショットワンピースとか、よく婦人会が配置を許可したな。
会社員風の女性が、不審がってオレから露骨に距離を置く。
ですよねー。
女連れじゃなかったら、オレもこんな所をウロウロしない。
フミナはオレの気持ちなんぞ気にせず、自分の水着を吟味している。
「周りの視線が痛い」
「平気だって。すぐ終わるし」
ハンガーを手に持っては直し、をフミナは繰り返す。
全然平気じゃないんだが?
「じゃあ、何着か付けてみるから」
目星を付けた水着を手に持って、フミナは更衣室へと消えた。
衣擦れの音が、更衣室の中から聞こえてくる。
オレも自分用の海パンでも探せたら、ここまで妙な思いをせずに済んだ。
あいにく、男子用の売り場は遠くにある。
子供用浮き輪コーナーを抜けなければならないのが、また意味深だ。
「おまたせー」
カーテンが開く。
おお、とオレは思わず声を漏らしてしまった。
フミナが着用しているのは、ホルターネックの水着である。
胸元から何まで、あらゆるところがきわどい。
冒険しすぎているチョイスだ。
こうしてみると、フミナは相当に線が細い。
「どうかな? いつもと違う感じを演出してみたんだけど」
「ちょっっとオトナっぽすぎるな。それとお前、恥ずかしがってるだろ?」
恥じらいを取り越して、イヤそうな雰囲気も垣間見えた。
これでは、海水浴やプールどころではないだろう。
「うん。実は」
てるてる坊主のように、フミナがカーテンで身体を隠す。
「無理するなって。もうちょっとおとなしめでも、お前は十分似合うと思うぞ」
「ありがと。じゃあ次に行くね」
サッと、素早くカーテンが閉まった。
よっぽど早く着替えたかったのだろう。
やはりイヤだったらしい。
続いては早かった。
お次はブルーに花柄のタンキニだ。
ショーツもズボンタイプである。
「今度は、ちとガキっぽいかな? ていうかガキの頃の水着だよな?」
実はこの水着、中学の頃に見たことがあった。
サイズが違うだけで、当時と同じ柄なのだ。
「うーん覚えていたかー」
フミナが天を仰ぐ。
「実は、誘っておいてなんだけど、ハズくてさ。ショウゾーにガン見されるの」
ガン見なんてしてません!
「冒険しすぎないのも、ちょっとな。ここまで来た甲斐がないというか」
「言うねー。じゃあ次は待ってろよー」
再びカーテンが閉まって、しばらくすると開いた。
お次は、黒ビキニだ。
「いくらなんでも、新境地開きすぎじゃないか?」
こんなカッコウのフミナを連れて歩くとなると、オレも恥ずかしくなる。
「じゃあダメだね」
サッと、カーテンが閉じられた。
「これは?」
またも、フミナは守りに入る。
セパレートの上に、丈の短いワンピースを着たものだ。
「うん。かわいい」
適度に露出が抑えられていて、爽やかである。
フミナの表情も、明るいモノへ。
「でしょ! これさぁ、気に入ったんだよねー。でもなー」
「何が気にくわないんだよ」
色気も抑えられて、フミナも気に入っている。
「中身が、ねー。もっとショウゾーを驚かせたい。グッとくるデザインが欲しい」
たしかに、オレを驚かせる水着を見せるために、ここまで連れてきているんだもんな。
「上はそれでいいから、中に着るヤツをお前なりに探せば?」
「分かった。じゃあ次の着てみるね。これは確定だから、持ってて」
上に着ていたワンピースだけオレに預け、フミナはカーテンを閉めた。
数分後、更衣室が開く。
フミナのビキニを見た途端、オレは息をのんだ。
「どう、かな?」
身につけているビキニは、紅白のストライプ柄である。
ここまで似合っている水着は、見たことがない。
着る物さえ選べば、フミナはグッと魅力的になる。
「ヒモビキニか」
「えへへ」
顔を赤らめて恥じらっているのも、なんかよかった。
言葉にならないが。背徳的といえばいいのか。
この感情を表現する言葉が見当たらない。
「これがいい。これにしろ」
思わず、指示を出すほどに、オレも興奮していた。
何を考えているのか。
「おっ、我が出たね」
勝ち誇ったように、フミナがニヤけ顔になった。
「単に、いたたまれないんだよ! これ以上は精神的にキツい! 早く買って出ようぜ」
「分かった分かった……って!? ちょっとショウゾーッ!」
なぜか、オレはフミナに手を引っ張られた。
一緒に更衣室の中へと引きずり込まれる。
慌てた様子で、フミナはカーテンを閉めた。
裸に近いカッコウのフミナと、更衣室に二人きり。
しかも更衣室はえらい狭く、密着しすぎる形に。
「おいおいおい! 冗談だろ!」
何を考えてやがる!
フミナの肌が温かい。
柔らかくて、しっとりしていて。
いや、そんな感触を確かめている場合じゃない。
しかし、フミナは「しーっ!」とオレに黙るよう指示を出す。
カーテンを少しだけ開けて、外を見るようにうながした。
「なにがあったんだよ、って!?」
新庄だ!
なんでここにあいつが?
スポーツ用品部門で、新庄は男子用の海パンと水中メガネを探している。
それも本格的な、競技用水着を。
スイムスーツといっていい。
「そういえば、あいつ水泳部じゃん!」
こんな所までグッズを買いに来ていたのか。
質のいい装備を買うには、遠出するよな。
ネット商品は当てにならん。
消耗品ならまだしも、ずっと身につける品物なら、手に取って確かめる方がいい。
新庄を見ると、プロの観察眼が光っている。
これは、当分帰りそうにないな。
「隙を見て、脱出するぞ」
こんな状況を目撃されたら、あのバカ嫉妬で二度と口を利いてくれなくなるだろう。
水泳に人生の全てを捧げているあいつは、オレとフミナとの仲を勘違いしている。
だが、本音はあいつだって男女間のアオハルを満喫したいはずだ。
こんな痴態をさらし、あいつを惑わすようなマネはできぬ。
今は、水泳に集中させてやりたい。
「う、うん」
どういうわけか、フミナはずっとモジモジしている。
「どうした?」
「ずっと、薄着だったじゃん? でね、ここかなり冷房きいてるじゃん? さっきご飯食べたじゃん? お水飲んだじゃん?」
「トイレか?」
コクコクと、うなずきだけが返ってきた。
「どうしよう?」
フミナは、まだ水着のままだ。
着て帰ろうにも、会計という関門が待っていた。
動こうとしたら、新庄がこちらに視線を向けてくる。
しまった。レジは共有なんだっけ、ここ。
あいつは視力がいい。
このままではバレちまう!
こっちにきた!
もうおしまいか?
「待って、新庄くん!」
聞き覚えのある声が、競技用水着売り場に響く。
おさげの少女が、新庄に向かって手をあげていた。
間違いない。ユカリコだ。
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