平成16年4月
4月1日。
ミオが死んで十一か月、世間はエイプリルフールだ。ミオが死んだのが嘘だったりしないだろうか。未だに認められない。そういえば、オーナーから一枚の紙切れが送られてきた。
『きみは元気でいますか?笑顔は枯れていませんか?他の誰かを深く愛せていますか?』
少し拙くて、幼い字。彼女の字だ。これは遺書だろうか?思考回路がショートした。
どうしよう、私はもう、考える、こと、ができない。どうし、たら、正常な、思考、が保、てる、のか、分、か、ラナイ。壊れてく。こわれてく。コ、ワレ、テク。ダ、レカ、タス、ケ、テ。
4月24日。
彼女の命日まであと一週間だ。結局僕は、彼女の小説を書けていない。愛しているなんて言いながら、何も解っていなかった自分が憎い。彼女に会いたい。会って話がしたい。やっぱり、亡骸となったミオはミオじゃない。彼女はこんなに冷たくは無かったはずだ。黒いネイルを施した彼女の手を顔に引き寄せる。細くて長い指、指、指。何だか虚しくなってきた。もう、やめよう。
あばばばば、かぼぼぼ、だ打だだだ。どうしよう。ワタシハ思考ヲ維持デキナi。1+1のことしか考えられない。ワタシハ存在シナイノダロウ。虚像ミタイナモノダ。多分、オソラクハ。本当ニ、終ワリガ近付いている。
4月25日。
久しぶりにミオと踊った。レコードで「月光」を流しながら。僕はあと五日で彼女のところへ行かなければならない。弱虫な僕は、五月一日を迎えられない。ミオは若干朽ちてしまったが、今も綺麗で、愛らしい。そうだ、向こうへ行く前にミオに化粧をしてあげよう。
私は、やっと、正気に、戻った。終わりたくない、終わりたくない、終わりたくない。消えたくない、消えたくない、消えたくない。私はこの続きを見たことがある。どうすれば抜け出せる?もう、手遅れかもしれない。不可視でいられる時間もあと少しだ。その前に考えなきゃいけない、抜け出す方法を。
4月28日。
彼女の命日まであと二日。どうやら彼女は、自殺だったようだ。何が彼女をそこまで追いつめたのか、僕には解らなかった。それでも、ミオは僕の神様だから。死ぬしかないと思った。同じ手段で。彼女の亡骸は、大理石の棺の中で眠っている。勿論、僕が作った花嫁衣裳を着たままで。あんなにも清く美しい彼女の抜け殻を、ここに置いていくのはとても惜しい。だけど、逝かなきゃいけない。逝く他にない。待っててくれ。
——長い眠りから覚めたような気がする。私は本当に死んだのだろうか?信じられない。だって、死んだ者がこんな風に思考をしていること自体、かなり可笑しい。ただ一つ言えるのは、明日になれば全てが分かるということだ。本能がそう言っている。もう一度、人生をやり直したい。やり直せたら、いいな。××なんかしなきゃ良かった。
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