平成15年10月7日

 私は、老いることが怖かった。別に、大人になりたくないとかそんなこと思ってなかった。だけど、唯でさえ価値が低い自分が老いてしまったら…想像すらしたくなかった。枯れ果てて、あの人に愛想をつかされるのが嫌だったのだ。本当、自分勝手な女だ。



 僕は、ミオを失うことが怖かった。愛する人一人守れないなんて、死んだ方がいい。すぐにでも川に飛び込みたいが、それはできない。僕は、一つの約束を思い出していた。

「あのね、お願いがあるの。」

「何だい?」

「私の人生を、小説にしてほしいの。」

「いいよ。いつ迄に書けばいい?」

「来年の、五月一日。」

生きなきゃいけない、書き上げるまでは。約束した、五月一日までは。あと一年足らずで、彼女の人生を書き留められるだろうか。本が出来上がったら、全部終わりにしよう。


 そもそも僕は、彼女のことをそこまで知らなかった。どこで生まれたのか、どうやって生きてきたのか、どうして死んだのか。全て解らなかった。解るのは、彼女が助けを求めていたことだけだ。どうやって書き出そうか考えている内に、半年が過ぎた。六か月間、彼女のことだけを考え続けた。



 どのくらい、時間が経ったんだろう。私が死んだのは確か五月の初めだったはずだ。まだ一日も経っていないような気がする。この世は今何月なんだろう。意識が朦朧とする。もう駄目だ、何も考えられな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る