平成15年6月6日

 僕が買い取るべきだった、ミオにバレないようにして。きっと幸せにできたんだ。若くなくなっても愛せる自信があった。早くあの施設から出すべきだったんだ。あそこのオーナーは本当に性質タチが悪い。彼女には、“価値がありすぎた”。



 私には、家族がいなかった。それでも、大切な人はいた。私に名前を、愛をくれた人がいたのだ。低くて落ち着いた声、長い睫毛、伏せてるみたいな眼。素敵な人だった。

「ミオちゃんは、何が怖いの?」

「老いること、かな。」

「どうして?」

「価値が…」

「え。」

な人間になりたくない。」


 そうだった。彼女は、老いることを恐れていた。彼女のいた施設では、『若いことに最も価値がある』とか『若い時に死ぬと、天国に行ける上、来世は美しくなれる』とか教えられていた。正直言って、洗脳だ。彼女は美しかった。

どうしてそれを穢すようなことを平気で言う奴が今も生きている?

どうして優しくて美しかった彼女が今死んでいる?

分からない。分かりたくもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る