平成15年5月3日

 一昨日、大切な人を亡くした。最も向こうは僕のことなんか覚えていないだろうけど。

それでも僕にとっては天使のような存在だったし、唯一の生きがいで、生きる意味だった。生きがいを失った今、ぼくはどうしていいか分からない。

 彼女は、ガラス細工というか、壊れ物みたいな人だった。触れたら折れそうなくらい細い腕に、血色のない人形みたいな手。少し憂いを帯びたアーモンドアイに、薄い桜色の唇

儚い人だった、容姿も性格も何もかも。彼女には、名前がなかった。だから僕は勝手に『ミオちゃん』と呼んでいた。『名前なんていらない』と言っていた割に彼女は、ミオと呼ばれると嬉しそうにしていた。

 どうして助けることが出来なかったんだろう。こんなにも彼女を想っているのに、何一つしてやれなかったのは僕が無力だからだろうか。もしも過去に戻れるんだったら、今すぐ一週間前に戻りたい。

 

 

 いくつか、思い出したことがある。私は、無戸籍児で、とある施設にいた。家出少女や非行少年、世間で行方不明とされている少年少女がたくさんいる、不思議な場所だった。

 四月二十四日、私はそこを逃げ出した。売られそうになったのだ。数人男が来て、私を値踏みしに来た。それが嫌で、気持ちが悪くて、気が付いたら外の世界にいた。多分、あそこに少年少女しかいなかったのは、“若くないと価値がない”から。何だか頭が痛い。少し休もうかな。

 

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