第66話 軽トラ市にて
6月最初の日曜日には、
地元で開催されるイベントの中では比較的大きなものであるため、僕は
「久朗のお目当ては……謎ジャムのお店だよね」
ウッディーという名前のその店舗は、変わったジャムを販売していおり、存在感がある。
前にはトウモロコシ味のジャムなんていうものを食べたこともあり……今回はいったいどんなものが販売されているのか、興味と不安がある。
「
久朗が聞いてきた。
「僕は……体の調整を行ってもらおうと思う。最近少し、動きにぶれがあるような気がして」
普通に行うとかなり高額な整体であるが、イベントということで簡易なものとはいえ、割安に行ってくれる屋台が存在するのだ。
「こんなところに、バグが出なければいいのだけれども……」
「まあ、そんなことを気にしていたら生活できないからな。今日はヒーローであることは忘れて、楽しむことに専念しよう」
久朗と話しながら、会場にたどり着いた。
まず向かったのが、ジャムのお店である。
そこで待ち構えていたものは……?
「えっと……ニンジン、トマトはまだしも、玉ねぎのジャム!?」
今までよりもさらに、怪しさが増している。
玉ねぎをジャムにするなんて、聞いたことがない。
「外国では割とメジャーらしいので、作ってみました」
お店の人が勧めるので、恐る恐る口にしてみると……まさに、炒めて甘くなったあの玉ねぎの味がした。
これはジャムというよりも、カレーなどの素材のような感じで……少なくともこれをパンに塗って食べようとは、僕は思わない。
「うむ。相変わらず予想以上のラインナップで、面白いな」
久朗はナスのジャムと、ルバーブ、そしてトウモロコシのジャムを購入した。
ここのお店では3瓶セットにすると、1,000円と少し割安になるのだ。
「久朗は相変わらず、変わったものに目がないよね……うう、まだ口の中に玉ねぎの味が残っている」
口直しを兼ねて、僕はタピオカのドリンクを飲むことにした。
鍋から直接タピオカをカップに入れて提供してくれたもので、もちもちとした独特の食感が癖になる。
「整体は……今回はいつもとは違うところが出店しているようだな」
いつもより少し高額ではあるものの、試してみることにした。
左右のバランスが少し崩れていたようで、調整してもらうと……体内の気の流れが良くなったように感じられる。
「ここでは、チョコバナナが250円というのがありがたいな」
久朗の片手には、いつの間にかまたチョコバナナが握られていた。
「文化祭の時といい……好きだね、久朗」
「まあな。変わり種も好きだが、こういうオーソドックスなものも嫌いではないぞ」
野菜などのような生鮮品も販売されているが、重くなってしまうので僕たちはスルーする。
さらに進むと……とっても怪しげなお店に出くわした。
「猪鹿鳥の串焼き……え、なにこれ!?」
「いわゆるジビエというものだな。鳥肉も雉のようだし……これは食べずにはいられない!」
久朗が二本注文し、僕と分け合うことになった。
「思ったよりも癖がなくて、食べやすいね」
「だな。肉質の違いも割とはっきりしていて、面白い」
一番最初の部分は、肉汁がしっかりあってジューシーな噛みごたえであった。
そして次の部分はあっさりした肉質で、おそらく鹿の部分だと思われる。
最後の雉は、こちらも鶏とは異なり噛み応えがあって、面白い食感であった。
「僕一人だったら、絶対に注文しなかったよ――久朗、ありがとう」
僕が久朗を一番評価しているところが、このチャレンジ精神だ。
おっちょこちょいなところもあるし、迷惑をかけられることもあるのだけれども――僕一人では絶対に手を出さないようなことに対しても、ぐいぐいと手を引っ張って挑戦させてくれる久朗は、僕にとっては欠かせないパートナーといえる。
「まあ、私は私の心の赴くままに進んでいるだけだからな。それについてこれる結城は、私にとってもかけがえのない存在だと思っているよ」
久朗は久朗で、僕のことを必要としているようだ。
そのことになんとなく、安心感を抱く。
「あ、お兄ちゃんたちなの!」
この声は……めあちゃんだ。
「めあちゃんも、お祭りに来たんだね」
僕が笑いかける。
「今回、クレープを試作するところがなかったの……少し残念なの」
毎回出店する店舗が入れ替わるので、定番のお店が無いということも存在する。
「めあ、今回はお小遣いがいっぱいあるの。おすすめのお店はあるの?」
めあが聞いてきたので、例のジャムのお店をお勧めした。
色鮮やかなジャムは、見ているだけでも面白いし……何より試食ができるところが、素晴らしいと思う。
めあちゃんと一緒にまたジャムのお店に行き、味見してみる。
彼女が選んだのは、オーソドックスなミックスベリーであった。
「トウモロコシのジャムも面白かったけれども、みんなで食べるのならこれがいいと思ったの」
仲間思いの彼女らしい選択である。
「そういえば、今はもう教団には狙われていないのか?」
久朗がめあに質問する。
「最近は大丈夫なの。それもあって、ヒーロー組合の監視から外れることになったの」
教団も強引な手段をとらずに、別のアプローチを試みようとしているのかもしれない。
「今日も楽しかったの。また会いたいの」
めあちゃんと別れて、僕達は家路につく。
縁のある彼女とは、また近いうちに再開するだろうなという予感があった。
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