第26話 文との模擬戦

 戦闘が終了し、僕たちは両親とともに家に向かった。





「そういえば久朗くろう、また『クロックアップ』を使うのを忘れていたよね!」


 僕が少し怒った口調で、久朗に詰め寄る。





「ほう、久朗のギフトは、クロックアップというのか……一度見てみたいところだな」


 広大こうだいもその能力に、興味を示したようだ。





「そうですね。先ほどの相手では少し物足りなかったので、私の訓練を兼ねて見せてもらいましょうか?」


 ふみがそう提案する。





 家の近くにある空き地で、久朗の機体『レイヴン』と、文の機体『ユルティム=ヴェリテ』が対峙する。





「それでは、訓練開始!」


 広大が宣告した。





「やってみよう――『クロックアップ』!!」





 レイヴンが、赤白い光に包まれる。


 そしてユルティム=ヴェリテに向けて走り出すが……明らかに通常の速度よりも早い!





「どうやら、通常の2倍~3倍の速度で行動できるようだな」


 広大が能力を分析する。





「なかなか早いですね……ですが、動きが単調ですよ」


 文が素早く詠唱を終え、大量の弾丸が作成される。





「行きます、『ルーンバレット・スプラッシュ』!!」





 これは、魔法で作られた大量の弾丸を飛ばすという技だ。


 単なるルーンバレットは威力が低く、牽制程度にしか使えない魔法なのだが……これだけの量になると、話は全く違ってくる。


 それこそアサルトライフルのように、車でも貫通するほどのパワーがあるのだ。





「直線的な攻撃ならば、よけられるぞ!」





 久朗がそれを回避する。


 大きく弧を描くような動きになったが、それでもなお通常時の直進と同じくらいの速度を維持しているのだ。


 クロックアップというスキルのとんでもなさが、よく分かる。





「甘いです――『スネア』!」


 文の魔法が発動した。





 これは単純に、相手の足元に出っ張りを作って転ばせるだけの魔法だ。


 シンプルゆえに発動に必要な魔力も時間も少なく、コストパフォーマンスが高い魔法である。





「っと、危ない!」





 久朗もそれを予想していたようで、ステップを踏むようにして回避する。


 しかし、そのことによって明らかに進むスピードは落ちてしまった。





「そして、『マジック・ジェイル』!」





 文の魔法によって、久朗の周りに魔法で作られた檻が形成される。





「とどめです。『サテライト・レイ』!!」





 その檻の中に、無数の光の柱が叩き込まれる。


 訓練用なのでダメージは軽微に設定されているが、実戦であったら明らかにこれで「詰み」だろう。





「くそ……全く歯が立たなかった」


 久朗が悔しそうに、声を漏らした。





「がっはっは、そんなに簡単に太刀打ちできてしまうようでは、プラチナランクなんて名乗れないからな」


 広大が豪快に笑い飛ばした。





「クロックアップ、比較的使い勝手がいいスキルではあるが……動きが速くなりすぎて、慣れるまでに少し時間がかかりそうだ」


 久朗が自分の能力を、分析する。





「なんていうか……見た目がカッコいいのが、うらやましいよ。いかにも主人公のスーパーモードという感じでさ」





 僕の目から見ても、発動時のレイヴンは明らかに主人公らしいオーラが漂っていた。


 それに比べると、確かに有用なギフトであるとはいえ、「折れない剣」というのは少し地味なように感じられる。





「久朗はもっと、フェイントなどを駆使した駆け引きを磨くべきだな。まだ動きに直線的な部分が見られるぞ」





 広大が指摘する。


 結構左右に動いたりして、僕の目からはうまくできているように見えていたのだが……やっぱり父さんの目からすると、まだまだ甘いようだ。





「さて、夕食がまだだったな。家に帰って温めなおして食べるとするか」


「そうですね。温めなおしができるメニューで、助かりました」





 ちなみに今日の夕食は、クリームシチューだ。


 ホワイトソースのシチューなのだが、そこにコーンとほうれん草をトッピングするのが、神崎かんざき家での定番になっている。





「今回は結構大物も倒したからな。来月の振り込みは、期待できそうだぞ」


 広大が嬉しそうに告げた。





「僕たちも、ある程度活躍したよね?」


「そうだな。携帯ゲーム機が買えるくらいの金額にはなるんじゃないか?」





 ヒーローの最大の魅力は、この報酬である。


 高校生である僕たちでも、これだけのお金が手に入るのだ。





「新しいフィギュアに、同人誌に、マンガに……夢が広がるな」


 久朗の顔にも、笑みが浮かんでいる。





「その前に、部屋を片付けなさいね」





 文の言葉に、笑顔が凍り付いた。


 少なくともえっちな本やゲームが床に出ているという状態は、改善させないと……。

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