第25話 両親の力

 その日の夕食時に、事件が起こった。


 スマートフォンから、緊急バグ警報の音が鳴り響く。





「ここって……家のすぐ近くじゃないか!」


 僕は少し、焦った口調で確認した。





「そのようだな。数も結構あるようで、厄介な事態だと思う」


 久朗くろうも少し、険しい顔をしている。





「家を守るためだからな、俺たちも出るのだから、安心しろ」


 広大こうだいが豪快に笑いながら、僕たちの不安を吹き飛ばした。





「そうですね。久しぶりに私も、少し本気を出してみようかしら?」


 ふみもどうやら、今回の戦闘に参加するようだ。





 機体へとフェイズシフト変身を行って、バグが発生している地点へと向かう。





「俺たちは後ろで見ているから、どこまでやれるか試してみろ」


 広大が僕たちに、そう告げた。





 現れたバグは、ソルジャーアントと呼ばれるタイプのようだ。


 通常のアントに比べ、やや戦闘能力が高く、蟻酸を飛ばす攻撃も有している。





「数は6、このくらいならば私たちだけでも楽勝だな」


 久朗の声に応じてとりあえずは、目の前のバグを退治することにした。





「まだまとまっているようだからな……行くぞ、『ツイン・ショット』!」


 久朗の先制攻撃がバグたちに突き刺さる。





 ツイン・ショットという名前の通り、両手に持った拳銃で相手に攻撃する技だ。


 連続攻撃を受け、もっともダメージの大きかったバグが粒子化する。





「僕も行くよ! 『双連牙そうれんが』!」


 次にダメージの大きかったバグに攻撃が突き刺さり、こちらも粒子になって消えていった。





「『ビーク・スマッシャー』……振り回してやるぞ!」


 久朗はビーク・スマッシャーを単に射出するのではなく、モーニングスターのように振り回し、遠心力で複数のバグにヒットさせ、ダメージを与えている。





「とどめ、『飛燕斬ひえんざん』!」


 最後に残ったバグに僕の攻撃が突き刺さり、とりあえずの戦闘が終了した。





「二人とも、なかなかやるじゃないか。その調子で中心部のバグまで突き進んでいけ!」


 広大の激が飛ぶ。





 次に現れたのは、ソルジャータイプが8体、更に大型の金色のタイプが1体だ。





「ジェネラルまでいるのかよ!」


 久朗が思わず、ぼやいてしまう。





 ジェネラルタイプは、知的にはそれほど高くないとはいえ、戦術的な行動を配下のソルジャータイプに行わせることができる。


 そのためやや厄介な相手だ。





「ここは一気に行きたいところだ。結城ゆうき、協力してくれ」


 久朗が何か、いいアイデアを考え付いたようだ。





「分かった。どうすればいい?」


「できるだけ散らばらないように、上手く位置取りをしてくれないか?」





 その言葉に従って、僕は戦いを挑む。


 蟻酸などが飛んでくるが、今のところはそれほど脅威ではない。





「よし、そろそろいいぞ――喰らえ、『デス・ロック』!!」


 久朗の必殺技が、完成したようだ。





 張り巡らされたワイヤーに、次々とソルジャーアント、そしてジェネラルが捉えられる。


 って、僕まで絡まってしまっているのだけれども!?





「響け、地獄のロックンロール!!」


 その状態で久朗は、ワイヤーに電流を流した。





「ぐわぁ……痛い!!」


 僕も当然、電流によってダメージを受ける。





「アーメン……よし、全滅したようだな」


「アーメンじゃないよ! 僕まで危うく、やられるところだったんだよ!」





 思いっきり抗議するが、久朗はどこ吹く風という感じだ。





「電流の量は調節したさ。アントにとどめを刺せて、結城は大丈夫なギリギリを狙ったからな」


「そもそも僕を巻き込まない形にできなかったの!?」





 少しダメージを受けてしまったが、まだ戦闘は十分可能な範囲だ。


 バグが発生している中心点に、僕たちは向かう。





 そこにいたのは……かなり、厳しい光景だった。


 何しろ金色のジェネラルが20体以上、更に大型の「クイーン」と呼ばれるタイプまで存在していたのだ。


 加えて50体以上のソルジャータイプもいて……これはいくら何でも、まずい!





「どうやら、俺たちの出番のようだな」


 広大が腰に下げられていた刀を抜く。





「結城、久朗、うち漏らしを処理してくれ」


「分かった! 父さんも無理をしないで!」





 戦闘が始まった。


 広大の機体『イモルラル=マチエール』が、一気にジェネラルタイプに切り込む。





「数が多すぎるよ! いくら父さんが強いからって、それは無茶なのでは!?」


 僕は心配するが、文は全く心配していないようだ。





「あの程度ならば、3分もあれば片が付くわね……私も魔法の準備をしないと」





 文が魔法の詠唱を始める。


 文の機体『ユルティム=ヴェリテ』にもデバイスが搭載されているのだが、ほとんど詠唱の補助程度にしか使っておらず……それなのに普通の魔法使いがデバイスを使って魔法を使うよりも、圧倒的に早く大魔法が構築されていく。





「そろそろ文の魔法が完成したかな。いったん離れるぞ」





 広大が離脱する。


 たった数十秒の戦闘であったにもかかわらず、既にジェネラルタイプの3分の1、更にソルジャータイプも3割くらいが倒されており、広大の圧倒的な戦闘能力がいかんなく示されている。





「じゃあ、行くわよ――ヘキサ・エレメンタルマジック『アルマゲドン』!!」





 六種類のエネルギーを秘めた光の弾が、一気に凝縮されてクイーンに突き刺さる。


 激しい爆発が起きるのだが、地面や周囲のものには一切被害が出ていない。


 あの短時間で、敵味方の識別まで組み込んだというのか……。





 爆発の後には、バグは一体も残っていなかった。


 あまりにも圧倒的な戦闘能力に、僕たちは驚愕する。


 これがプラチナランクのヒーローの実力、なのか……。

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